032 第十二話 ブルーノとバロンの逆襲/そして召喚勇者 1



「ち、この野郎……本当に腕が治ってやがるぜ」

「まさかとは思ったが本当だったんだな、じゃあ二級冒険者合格も本当のことか」


「……なんのようだ?」


「いやぁ、この前はエライ目にあわせてくれたな」

「おかげで教会で腕をくっつけてもらうのに8000万ルブルも請求されたんだよ。あの業突張りの神父め……」



マジか!こいつら8000万ルブルも払えるのかよ!?


つーか、ざまぁみろだ!


俺の腕を斬り落とした天罰だっての!


それにしても、切れた腕を治すのって一本あたり2000万ルブルもかかるのかよ!?



「そりゃ災難だったな」

「災難じゃないわ、自業自得よ」



俺とアリサは冷めた目でバロンとブルーノを蔑視した。



「自業自得じゃねえ!全部おまえのせいだろうが!」

「それでよう、慰謝料っての?そっちのお嬢ちゃんに払って貰いたいんだわ。なあに、金が無くても大丈夫だぜ、ちょこっとこの書類にサインすりゃ済むから」



― バンッ!



バロンは大袈裟に書類をテーブルに叩きつけた。


どうやら娼館との契約書のようだ。



「それとゴミムシ!テメーは二級冒険者資格を返上してこい!」

「ゴミムシが俺達と同じ二級とかおかしいだろ!嫌ならまたその腕をぶった斬ってやるぜ。さあどうする?」



ニヤニヤと歪な笑みを浮かべるブルーノとバロン。



「ケンツさーん、わたし娼館に売られちゃう。助けてケンツさーん」



テーブルに両肘をつき、手の平にアゴを乗せたアリサが、面倒臭そうな棒声ぼうごえで助けを求めた。


こやつ、俺に面倒事を押し付ける気だな。


つーかアレだな。昨日今日で俺の実力を把握できたから安心してやがるんだ。


しゃーねーな、バークに殺されそうなところを助けて貰ったし、今度は俺の番か。



「おいおい、テメーらいい加減にしろよ?もとはと言えば、テメーらが俺の腕を理不尽にぶった斬ったせいだろうが。シャレにならねーことしやがって!」


「ああ?価値の無いゴミムシの腕をぶち斬ったところで何が問題だってんだ?」

「おうよ、ごんなゴミムシの腕なんざどうってことないよな、なあみんな?」



ブルーノとバロンはニヤニヤしながら周りの冒険者達に同意を求めた。


しかし――



― シーン……



「あ、あれ?」

「なんだよみんな、なんで黙ってんだ?」



ブルーノとバロンそれに取り巻き達は、訝し気な顔をしながら周囲の冒険者達を見回す。


バロンとブルーノに同意する冒険者は誰もいなかった。



「ブルーノ、バロン、もうやめとけ。こいつらとは関わり合いにならない方がいい」

「ケンツの二級中位の実力は本物だ、怒らせれば返り討ちにされるぞ」



想像しなかった冒険者達の反応に、バロンとブルーノは戸惑う。



「はぁ?オメーら何言ってんだ?」

「ケンツの実力が本物?んなわきゃねーだろ、こいつはズルして一級に居座ったイカサマ野郎だぜ?」


「俺達は昨日ケンツの試合を見ているんだよ。悪い事は言わん、その辺で引いとけ」

「ハッキリ言ってケンツは個対個の勝負ならおまえ達よりガチで強い。やるならそのツモリで挑むんだな」


「「なっ!?」」




冒険者達の反応に戸惑うのはバロンとブルーノだけじゃない。


俺もこの反応には戸惑った。



「なんだ?周りの様子が変だぞ?」


「ふふふ……昇級試合を見た冒険者達は、すっかりケンツさんを警戒していますね。実にいい感じです」



アリサはニマニマしながら状況を楽しんでいる。



「ふざけんな!俺達よりケンツの方が強いだと!?そんなこと天地がひっくり返っても有り得ないんだよ!」

「全くだ、みんなどうかしてるぜ。こんな奴さっさと叩きのめして、教会の治療代引き出させてやる!おら、サインしろサイン!」



― ダンッ!ダンッ!



周囲の忠告を聞かずにブルーノは全否定し、バロンはテーブルを叩いてアリサにサインを強要する。


しかし周囲の冒険者達は、血相を変えてサインの強要を慌てて止めさせる。



「ばっ!やめとけ!その女はもっとヤバイ!」

「試験会場の結界を叩き斬って、バークさん全力の一撃を余裕で受け止めたんだぜ!?あんなの初めて見たわ」

「可愛い見た目に騙されるな!中身は完全に化物ゴリラだ!」



― ガーン!



「なっ!? わたしゴリラじゃないもん!」



アリサは酷くショックを受けたようだ。



「御託はいい、やってみりゃ分かる事だ。おいゴリサ……じゃないアリサ、こつらの取り巻きだけ牽制を頼む」


「ゴリサ!?……わかった、まかせて下さい!……でもゴリサ……」



何か言いたげなゴリサを無視して、俺は剣を抜かずに臨戦態勢を取った。


ここで剣を抜いたら正当防衛では無くなるからな。



「舐めやがって!」

「バカが!死んで後悔しやがれ!」



― グオッ!

― ブワッ!



舐め切った二人の雑な斬撃!


俺は余裕で躱し懐に入ってぶん殴る!――とか思っていた刹那!



― スポーン!スポポーン!



「なっ!?」



あろうことか二人の斬撃が間合の外から凄い勢いで伸びてきた!


いや、分かりやすく言うと刀が飛んできた!?


ちがう、そうじゃない、腕がポロリと取れて刀ごと飛んできた!



「うぉ、あぶねえ!一体なんだ!?」



危なく俺の顔面に突き刺さりそうになったが辛うじて避ける!



― ビューン、ドスドス!



飛んできた刀は、腕に握りしめられたまま背後の壁に突き刺さった。


こ、これは特級剣士が使う技、遠隔剣技ドローンソードか!?


驚いた、まさに紙一重だったぜ……


奴らいつの間にこんな技を習得したんだ?


こいつは用心してかからねーと……


って、……んん?



― ぴゅうううううううううう



「ぎゃあああああああああああ!?」

「また腕があああああああああ!?」



腕が取れた面から、噴水の如く血をまき散らすブルーノとバロン!



「は?」



俺は状況が理解できず固まってしまった。


なんだこれは?どうすればいいんだ?



「ああ、これはあれね。藪医者ならぬ藪神官のせいで、腕は完全にはくっ付かなかったみたいです」



アリサが顔をひょいと出して説明してくれた。



「なんだその珍事!?」



技じゃなかった、医療ミスだった。



「お、覚えてやがれ!」

「おまえら早く教会に連れて行け!腕を忘れるな!」



ブルーノとバロンは、大慌てで取り巻き達と教会へ向かった。


結局奴らは、勝手に騒いで、勝手に自滅して、勝手に退場していった。


俺の幸せ気分をお釈迦にしやがって、本当に迷惑なやつらだぜ。


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