031 第十一話 閑話回? 愛の深呼吸
ラミアの森からギルドに戻り、俺はすぐシャロンを探したが、残念ながらシャロンはバーク達と仕事中でまだ戻っていないらしい。
昨日のお礼(昇級試験での件)と話をしたかったんだけどな……
まあ、待っていればそのうち戻って来るだろう。
なんとかバークと顔を合わせないようにしてシャロンだけ呼び出さなきゃな。
その間、俺とアリサはギルドの飲食ブースでミーティングを行う。
「よーしアリサ、攻略していくダンジョンの順番を決めてくれ!」
そう言って俺はテーブルにラミアの森の地図を広げた。
ラミアの森には9つのダンジョンがある。この中の一つが湖の島に移動できる転移装置があるわけだ。
ただ残念なことに、どのダンジョンが当たりなのかはわからねぇ。
文献でも残っていれば調べられるのだろうが、あいにく連邦は物事を記録するのが億劫なようだ。
目ぼしい人に聞いては見たが、誰も知らないという。
やはり片端から調べるしか方法は無い。
「でだ、ここのダンジョンは
そう言ってアリサにペンを渡した。
アリサは真剣に考えてから攻略する番号を書いていった。
それとダンジョン攻略に必要なアイテムを書きだしていく。
後で道具屋に買い出しに行かないと。
「ケンツさん」
背後から声がかかり、振り向くとバークの野郎がいやがった。
そしてヤツの後ろにはキュイとキリス、そしてシャロンの姿が。
ババババババ、バカ野郎!なんでシャロンを引き連れてんだよ!
シャロンとは個人的に会って『ありがとう』を言いたかったのに!いっぱい話をしたかったのに!
そして俺の気持ちを伝えたかったのに!!!
テメーと一緒にこられちゃ機会を失うだろうが!
大体俺はテメーが嫌いなんだよ!こっち来るなよ!
憤怒!憤怒!憤怒!
いや待て、落ち着け、冷静に……
だが俺は大人だ、大人の対応をしなくては!
新生【一番星】のリーダーとして相応しい態度を……だから卑屈になるなよ、俺!
そう自分に言い聞かせて口を開く。
「バークか、昨日はお疲れ様だったな。シャロンも昨日はありがとうな」
「あ、うん……」
くーーーーーーーっ!
これでシャロンとの会話は終わりだぜ!
もっといっぱい話したかったのによう!気持ちを伝えたかったのによう!
ほんとバーク、おまえは使えねーわ、そんなだからパーティーを追放されるんだぜ!
「ケンツさん、すまなかった。自分でもなんであんな事をしたのか、わからないんだ。本当に済まない!」
「ああ?別に気にしてねーよ。お前の方が遥かに強かった、ただそれだけのこった」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
か、会話が続かねぇ……
誰かこの空気をなんとかしてくれ!
「あれ、これラミアの森の地図?」
沈黙を破ったのは魔術師のキリスだ。
おまえナイス!さすがかつての将来的ハーレム要員だぜ!
「あ?おお、今日からラミアの森でフォレストラビットの討伐に入ったんだ」
「ふーん? わあ、懐かしいね。キュイ、シャロン、ちょっと見てよ。ほらここ、去年か一昨年に攻略した場所だよ!」
そう言ってキリスはシャロンの腕を掴んで引き寄せた。
― ふわっ
― ひくひく……
シャロンの甘い香(かおり)が俺の鼻腔を擽る。
くー!キリス、おまえわかってんじゃねーか!
いや、ありがとうキリスさま!
今のうちにシャロン成分を吸収しておこう!
俺は誰にも悟られない様に深呼吸する。
すーはー……すーはー……
ああ、俺なんかすっごく幸せな気分になってきたよ……
すーはー……すーはー……
すーはー……すーはー……
はぁああああああああぁぁぁぁ……気持ちE……
すーはー……すーはー……
すーはー……すーはー……
ん?まてまて、今のは俺の深呼吸じゃねーぞ?一体誰だ?
俺は周りを見回すと――
すーはー……すーはー……
すーはー……すーはー……
え?
シャロンの鼻がピクピクしてる!?
まさかこの深呼吸はシャロンなのか!?
シャロンが深呼吸をする理由……まさか俺の……ケンツ成分を吸収しているのか!?
そうか、そうなんだな!
よーしわかったシャロン、俺達に言葉なんていらねえ!お互い愛の成分を交換だ!
すーはー……すーはー……
すーはー……すーはー……
すーはー……すーはー……
すーはー……すーはー……
お互いの成分を交換しあい幸せ気分に浸る俺とシャロン……
くー!なんかむかし告白する以前にもこんなことをした気がするぜ!
あはー……シャロンと同じ空気を吸ってシャロン成分を補充して……俺もう死んでもいいかも……
― だらぁ……
「ケンツさん、ヨダレヨダレ」
ジト目で注意するアリサ。
「あう?……ああ、すまん。ちょっと寝不足でな」
我に返り口元のヨダレを拭う。お?シャロンも口元を拭ってやがる。
シャロンーーー、おまえ可愛すぎるぜ!
「そうなんですか?お疲れのところ申し訳ない。ではケンツさん、いずれまた……みんな行こう。」
バークは踵を返し去って行く。
その後ろをキリス、キュイ、シャロンが続く。
シャロンは頬を少し朱に染めて、最後までこっちを見続けながら去って行った。
「やった……」
「何がやったの?」
「シャロンが俺の事を見てくれた、それもあんなに熱っぽい目で……この半年間、目も合わせようとしなかったのに……」
「ああ、シャロンさん、ケンツさんの事を最後まで物欲しそうに見てましたね」
「だろう!ああ、やっぱりシャロンいい!抱きしめたい!シャロン!」
― クネクネクネクネ
「ケンツさん、動きがとってもキモイですから止めて下さい」
「な、なにおう!これは俺の愛情表現なんだよ!」
俺はシャロンと言葉こそほとんど交わせなかったものの、幸せ気分で天にも昇るようだった。
「そんなに好きなら今すぐ告白すればいいのに……」
「俺だって今日シャロンと会ったら告白しようと思っていたんだよっ!」
「へー、そうなんですか。じゃあ今からでも追いかけては?そうすればシャロンさんは明日から
「いや、さすがに奴らの前で告白はなぁ……それにシャロン奪還の筋道は考えているんだ。その為にはもっと力を付けておかないと」
誰からもイジメられないようにしないとな。でないと元鞘に戻れた時に、シャロンもイジメの標的にされる。
それだけじゃない。バロンとブルーノもシャロンを狙っているんだ。守り切るだけの力は絶対に必要だ!
「そうですか。でももうケンツさんをイジメようとする人なんて、あんまりいないと思いますけどね。手遅れになっても知りませんよ」
「なんだよ、手遅れって……」
「『違うの!身体はバークだけど心はケンツなの!』なんて最悪なセリフをシャロンさんが吐かなきゃいいんですけどね」
「生々しいわ!」
なんなのこの娘?齢(よわい)15~16歳の女の子が吐くセリフじゃねーぞ?
本当は俺だって今すぐシャロンを迎えに行きたいんだよ!
だけどな、バークも本気でシャロンの事が好きなんだ。
『シャロンを返せ』
『わかりました。どうぞ』
なんて話合いでの決着は絶対に無い。
最後はメスを奪い合うオス同士の壮絶な戦いになるのは見えている。
悔しいが今はまだ無理だ。まだヤツには勝てねえ。
今の俺じゃ本気のバークを相手にしても、勝つどころか勝負にすらならねーや。
「はあ、シャロン……早くシャロンとベッドの上で運動会をしたいぜ!シャロン!シャロン!あ、そうだ!おまえも運動会に参加するか!ベッドの上で足を絡ませて三人四脚しようぜ!」
「おええぇぇ、謹んでお断り申しあげます!」
アリサからゴミを見る眼差しを受けながらも、俺はシャロンの余韻に浸ってクネクネと幸せ気分を満喫した。
「よーう、ゴミムシ」
「てめー変な動きすんじゃねーよ、キメエな」
「う、バロン、ブルーノ……」
― 俺の幸せ気分終了のお知らせ ―
またしても俺が顔を合わせたくない野郎2トップが現れやがった。
やはり俺に対するイジメはまだまだ続きそうで、シャロンを取り戻すのも少し先みたいだ。
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