030 第十話 ラミアの森へ・想い人の痕跡を求めて 03
俺は軽くパニックになってキョロキョロと見回すと、大広間の入口からコソっと顔を出しているアリサが!
「何やってんだアリサ!早くアレやっつけてくれ!」
「無理無理無理無理!絶対無理!私、ヒドラだけは駄目なの!」
顔色真っ青でガタガタと震えているアリサ。こいつがこんなに怯えるなんて、いったい何があったんだ!?
「はぁー?おまえ、ふざっけんなよ!いいからこっち来い!」
「いやぁー!あんなのユーシスが一緒じゃなきゃ戦えないー!ケンツさんお願い!頑張って!」
おいおい、マジかよ。あんなの倒せるわけねーじゃん!
「キシャアアアアアアアアア!!!!×9」
― ビクゥッ!
ヒドラの九つの頭が一斉に威嚇してきやがった!
こ、こえええええええ!これ絶対に死ぬわ!
「無理だ、逃げるぞアリサ!」
「ダメ―!あの奥に転送装置があるかもしれないでしょ!」
「いやだ、断固拒否する!」
俺は踵を返しダッシュで逃げた!
しかし――
― ダダダッ!
― グイッ!
「ぐえっ!?」
ダッシュで大広間から飛び出した俺の襟首を、アリサががっしり掴んで離さない!
「は、離せアリサ!俺はこんな所で死にたくない!愛するシャロンを残して死ぬわけにはいかねーんだあぁああああああ!」
「そ、そんなこと言わないで!私とユーシスの愛の為に戦ってぇえええええええ!
何でも……はしないけど、身体強化かけるからお願いしますぅうううう!」
ちっ、そこは予防線張るのかよ。それより今なんて!?
「おいアリサ、お前もしかして他人にも身体強化を掛けることが出来るのか?」
「出来ます!出来ますから早くやっつけて!」
マジか!?
「バカ野郎、そう言う大事なことは早く言え!さっさと掛けろ!」
「は、はい!
― バシュンッ!……ゴゴゴゴゴゴゴ……
「ふ、ふぉおおおおお!なんだこりゃああ!?」
体中に熱が入り、一気にパワーアップしたのがわかる!これが身体強化か!
これなら……これなら絶対勝てる!
「ケンツさん!全ての首を切り落として!それから胴体に剣を刺して中から破壊するの!でないとヒドラは再生するわ!」
やはりアリサはヒドラと対戦したことがあるようだな。でなきゃヒドラの倒し方なんて普通わからねえ。
「よっしゃ、任せろ!こぉおおおおおおおお!」
呼吸を整えヒドラに向かって突撃!
それを見た九つのヒドラの頭が一斉に襲い来る!
「キシャアアアアアアアア!!」
「へ、手間が省けるぜ!
魔法剣、
迫りくるヒドラに向かって
― バシュッ!シュギュウウウウウン!
― ザンッ、ザンッ、ザンッ!
「キシャッ!? …… …」
― ボトッ、ボトッ、ドサッ……
まずは、鋭い風の
「よし、あと六つ!」
「ギャアアアアアアオオオオオオオオオ!」
さらに別のヒドラの首が迫る!
「魔法剣、
― ヒュゥゥ……ピキーーーーーーーン!
― ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ!
「ギャッ!? …… …」
― ドサッ、ボトッ、ドサッ……
今度は冷気の
「きゃー!やった!やった!あと三つよ!」
後ろでアリサがピョンコピョンコ飛び跳ねながら応援している。
なんだ、あんないい顔できるんじゃないか。いつものツンツン顔より何倍も可愛いぜ!
そんなことよりヒドラの首は残り三つ!
「シャアアアアアアアアア!!!!」
「魔法剣、
― ゴウ……ゴオオオオオオオオオオオオ!!
― ボシュッ、ボシュッ、ボシュッ!
「シャッ!? …… …」
― ドサッ、ドサッ、ボトッ……
剣に炎を纏わせながら、灼熱の
「今よ!ケンツさん、トドメをさして!」
「任せろ!魔法剣、
でりゃああああああああああああああああ!!!!」
― バリバリバリバリ!ドスッ!
雷を纏わせた剣がヒドラ胴体の傷口に深々と突き刺さる!
「爆ぜろ!
― バチバチバチ、バッキャーーーーーン!!!!!
― ドッカアアアアアアアアアアアン!!!!
その突き刺さった剣からの大放電!ヒドラの胴体が電気破裂を起こし、木端微塵に吹き飛んだ!
完全勝利だ!
「しゃっ!どんなもんだい!やってやったぜ!」
「凄い!ケンツさん、やったじゃない!」
アリサが顔を綻ばせながら走り寄る。
― ドキンッ!
こ、こいつなんていい笑顔しやがる!可愛すぎるだろ……
「いえーい!」
何と!アリサがハイタッチを求めてきやがった。
え、いいのか?
― パチン!
ええええ!?あのガードの堅かったアリサがこんな簡単にハイタッチを!?
コイツあれだ、今ので完全に俺に惚れたな!
ならっ!
「うぉおお!アリサー!……………て、あ、あれ?」
― スカッ!
俺はアリサと勝利のハグしようとしたが、すでにアリサは大広間の最奥を必死になって調べてやがった。
あー、ダメだ。やっぱりこいつ、俺なんか眼中にねーな。
「それにしてもこの感覚……随分と久分だな……」
ほんと久々に魔法剣を高出力で振るう事が出来た。1年前、バークを追放する前の手応えと近い。
そういやアリサは身体強化2.5倍とか言っていたな。
と言う事は、当時バークが俺に掛けていたバフ効果も2.5倍程度だったわけだ。
強いわけだよ、
時間は流れ、俺達はダンジョンとラミアの森を後にした。
結局あのダンジョンには何もなかった。
アリサは次のダンジョンも続けて入るとゴネたが、俺は強引に止めた。
やはり地上用装備で地下迷宮に潜るのはリスクが大きい。
迷って野営することになっても予備の食料も無い。マッピング用の大きな紙も無い。
それに日帰りの仕事なので、戻らなければギルドからペナルティを食らう可能性もある。
想い人に関する大きな収穫もなく、項垂れて力なく引き返すアリサを励ましながら、俺達は冒険者ギルドへの帰路についたのだった。
ああ、そうそう。
アリサがヒドラを苦手なのは、昔ラミア神殿で変性ヒドラの尾に“くぱぁ”と丸飲みにされたかららしい。
なんでも、ヌルヌルべちょべちょの粘液まみれされ、全身生臭くなったとか。
それ以来、ヒドラがトラウマなんだとよ。
なんかエロくてそそるぜ!
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