029 第十話 ラミアの森へ・想い人の痕跡を求めて 02



アリサは地上装備のままダンジョンに入って行こうとする!



「待て待て!流石に無謀だろう!」



アリサの無鉄砲ぶりに、俺は流石に慌てた。



「え?」


「“え?”じゃねーよ!おまえ、照明も無しにダンジョンに入るとか死にたいのか!」


「照明ならあるわ。ホーリーライトボール聖光球体!」




― ボヒュッ! ボヒュッ! ボヒュッ! ボヒュッ! ボヒュッ!




アリサの突き出した右手から、眩く輝く球体が複数放たれ、ダンジョン内が明るく照らされた!


はぁ?なんだこいつ!?万能チートキャラにも程があるだろ!



「じゃあ行ってくる」



アリサはそう言って独りダンジョンに進みだした。


はっ、やばい!



「待て!アリサ、戻れ!」


「え?」



俺は迫りくる気配に気づき、慌ててアリサを呼び止める!


刹那!



―バタバタバタ!


―ギャー!ギャー!ギャー!




突如、バタバタと大音響の羽音と獣の鳴き声がしたかと思うと、無数とも思えるほどのコウモリが一斉に帯のように飛び出して来た!



「きゃあああああああああ!!!!!」



―バタバタバタ!


―ギャー!ギャー!ギャー!



突然のことに流石のアリサもパニくってしまい、頭を抱えてしゃがみ込む。


それから3分ほどして、コウモリの大群はダンジョンの外に出て行った。



「おいアリサ……無事か?」



俺はダンジョンの中で蹲るアリサを見てギョッとした。



「うう、臭いよぅ……気持ち悪いよぅ……」



アリサは全身コウモリの糞尿まみれにされていた。美少女だった面影など何処どこにもない。



「ゲンヅざああん!」



ガン泣きするアリサがアンデットみたいな足取りでこっちに来る!


よせ、やめろ!こんな時だけ擦り寄って来るな!バッチイから触るんじゃねー!


いま擦り寄って来られても全然嬉しくない!


アリサは少しの間ぐずっていたが、やがて落ち着きを取り戻し、またホーリーピュアファイ聖なる浄化をかけて全身の汚れを落した。





「こほん、お見苦しいところをお見せしました……じゃあ改めて行ってきます」



実はアリサがラミアの祠を探索している間、俺は一人で【縮地】と【身体強化】の練習をする約束だったのだが、どうもこの子を独りにさせるのは危なそうだ。



「まてアリサ、俺も一緒にいってやるよ!」


「……ダンジョンに一緒に付いて来るって……何が目的なんですか……」



アリサはヒシと自分の身体を抱きしめガードする。そして性犯罪者を見る目で俺を睨んだ。


アホか!俺はそこまでゲスじゃねーよ!


ラッキースケベしか期待してねーから。


なにはともあれ、俺とアリサはダンジョン奥へと進んで行った。





― コツ、コツ、コツ、コツ……



通路の幅が狭い、長剣じゃやりにくいな。


俺は敵と遭遇した時の戦闘パターンを考えながら先に進む。


アリサも得物をロングサバイバルナイフに持ち替えているようだ。


この子は何かと両極端だ。状況に応じて得物を変えるセンスはあるのに、我武者羅(がむしゃら)に進もうとして自爆したりもする。


おそらくアリサに足りない部分を想い人が補っていたんだろうな。


そんな事を考えながらアリサの後を付いていく。





次々と正面から襲いかかってくる魔物を、バッサバッサと屠りながらズンズン進むアリサ。


流石だ。ナイフの扱いも素人のものではなく、ダンジョンの魔物などものともしない。


しかしダンジョン攻略でヤバイのは、何と言っても背後からの敵の襲撃だ。


どんなに腕に覚えのある冒険者でも、背後への注意を怠れば簡単に殺されてしまう。


特にゴブリンのような徒党を組む人型の魔物は、前に意識を集中させ、後ろから奇襲をかけてきやがる。


いくらアリサが強いとは言っても、ダンジョン経験の浅そうなこの子には気が回らないだろう。俺が守ってやらないと……


俺はアリサが倒した魔物の討伐部位をちゃっかり集めながら、アリサの背後を守りつつ進む。



「っ――ケンツさん後ろ!」



そんな、ほくほく顔で討伐部位を回収する俺に対して、アリサの叫び声が!?



「なに!?」


「どいて!」



― どん! ババッ! ザスッ!



突然アリサが振り向き俺を押しのけて、背後から忍び寄っていたゴブリンをロングサバイバルナイフで貫いた!



「グギャアアアアアアアアアアア!」



ゴブリンの甲高い断末魔がダンジョン中に響く。



「もう……ケンツさん、ダンジョンでは常に背後に気を配って下さい。そんなんじゃ命が幾つあっても足りませんよ!」


「あ、はい……」



この子には背中に目でもあるのか?



どうやらこのゴブリンはハグレのようで、他に仲間はいないようだ。





さらに進んでいくと、大広間(ホール)に出た。ここが最奥らしい。



「うっ……」


「この臭い……」



真っ暗な大広間から沼地のカエルのような生臭さが漂って来る……



「アリサ、照明あかりを頼む」


ホーリーライトボール聖光球体!」



― ボヒュッ! ボヒュッ! ボヒュッ!



真っ暗だった大広間が煌煌と照らさる。そして生臭い臭いの元が、巨大な体躯を曝け出した!



「フシュルルルルルル……×9」



次々と九つの長い首が上がり、その一つ一つが俺達を威嚇する!



「こいつは!」


「ヒドラ!?」



生臭さの正体は、九つの頭を持つ体長15メートルを超える巨大なヒドラだった!


こいつはヤベーな、今の俺にはとてもじゃねーが勝てねぇ。


さっさとズラからねーと……


……

……


なーんてな、こっちにはアリサがいるんだ。


あんなヒドラなんて軽―く一刀両断に屠るぜ!


余裕♪余裕♪


さあ、アリサ先生、思う存分やっちゃってください!



「よーしアリサ、あとは頼んだぞ!」



そう言って振り返ったのだが、アリサの姿がどこにも無い。



「あれ? え? アリサ?」



俺は軽くパニックになってキョロキョロと見回すと、大広間の入口からコソっと顔を出しているアリサの姿があった。


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