028 第十話 ラミアの森へ・想い人の痕跡を求めて 01



ラミアの森の探索一日目。(昇級試験の翌日)


俺とアリサは、いよいよラミアの森の探索に入った。


とりあえずは討伐依頼のフォレストラビットを20羽ほど狩る。


これで本日のノルマは達成だ。





「この先よ!」



アリサはどう言う訳かラミアの祠の位置が分かるらしく、最短距離で向かっていく。



「あったわ、あそこよ!」



アリサの指さす方向には小さな湖があり、中央に島がある。


もちろん俺はこの湖は知っているし、中央に島があることも知っている。


しかしそこにラミアの祠があることは知らなかった。


なぜなら島に行く手段が無いからだ。


いや、手段がないというのは語弊を招く。


『知っているけど分からない』というのが本当のところだ。






「じゃあケンツさん、待っていてね」


「いやアリサ、おまえどうやってあの島に行くつもりだ?」



周囲は湖、つまり水。船もないのに……


まさか、もしや、ひょっとして……泳ぐのか?真冬なのに泳ぐのか!?


てことはアリサの裸が拝める?拝めちゃう!?



― ゴクリ……



俺は期待しながらアリサの動きを凝視する!


しかしアリサの行動は俺の期待を裏切った。



「どうやって?こうするのよ……飛空魔法スワローフライ燕の飛翔!」



アリサから一瞬ヒュッと風を感じたかと思うと、なんとアリサの身体がふわりと宙に浮きやがった!



「じゃあ、ちょっと行ってくる!」



こいつ、空まで飛べるのかよ!なんでもアリだな。


て、そうだった。そういやワイバーンも飛んで倒してたっけ。


呆気にとられる俺だがハッと気が付いた。



「まずい、アリサ戻れ!」


「え?」



俺はアリサを呼び戻そうとしたが、少し遅かったようだ。



― ベチャッ!



「ひゃぶっ!?」



― どっぽーん



アリサは湖を覆う結界にモロに激突!敢え無く冷たい水の湖へ墜落した。



「へくちゅっ!いたたたた……一体何なのよ、もう!」



ガタガタ震えながらアリサが湖から上がって来る。



「いや、悪かった、うっかりしてたわ。この湖の周りにも結界が張ってあるんだよ。高さは約千メートルってところかな」


「は、早く言ってよ、もう!もう!……へくちゅっ!へくちゅっ!」



アリサは可愛らしいクシャミを連発しながら俺を睨みやがった。


そんなコト言ったって知らねーよ、俺ちゃんと注意しようとしたじゃん。


それにしても惜しいな、もう少し薄手生地の服なら濡れ透けだったのに……


しかしまだチャンスはある!



「おいアリサ、風邪ひくから服を脱いで干した方がいいぞ。いま火を熾(おこ)してやっからな」



今度こそアリサの裸が拝める!そう期待して焚き木を拾い集めかけた。


しかしアリサはまたしても期待を裏切りやがった。



「必要ないわ、ホーリーピュアファイ聖なる浄化!」



キラキラと金色の粒子がアリサを包み、あっという間にアリサの着ている服が乾きやがった!


しかも洗濯でもしたかのように汚れも奇麗に落ちてやがる。



「な、なんだよそりゃ!何度も期待裏切りやがって!」



俺は抗議の目で睨みつけた。


一方アリサは汚物を見るような目で俺を見下した。



「で、今の魔法はなんだ?」


「これ?ただの浄化魔法ですよ。そんなことより参ったなぁ。流石に千メートルも高くは飛べないわ。結界もストライバー並に強固で私では壊せそうにないし……」



少し考えたあと、アリサは大きく息を吸い込み――



「ユーシスー!」



― ユーシスー! ユーシスー! ユーシスー!…… …



大声で想い人の名を叫んだ。声が島に当たって木霊(こだま)となり響き渡る。


もし想い人が島にいれば何か反応があるはずだ。



……

……



しかし想い人からの反応は何も無い。



「ユーシスー!」



― ユーシスー! ユーシスー! ユーシスー!…… …



アリサは何度も何度も想い人の名を叫ぶ。


しかしやはり反応は無く静寂が広がるだけ。


アリサの顔は次第に青ざめ、可哀そうなくらいカタカタと震えだした。



「大丈夫、多分死んじゃいねーよ。もし想い人がここに飛ばされたとしても、それは少し前の話なんだろう?流石に移動してるって」


「うん……うん……うえあああん」



あーあ、泣き出しちまった。


気丈に振る舞っていたけど、実はいっぱいいっぱいなんだな。


俺はアリサの震えを止めてやろうと思い、肩を抱こうとした。



― スルリ



それを華麗に躱すアリサ。



「ケンツさん最低です!どさくさに紛れて何をするつもりなんですか!」



あんたホントにガード固いね……


つーか本気で警戒しないでくれる?地味に傷つくんだけど。


如何わしい事なんて考えてないから。真面目に慰めようとしただけだって……


そりゃ流れ次第で、オッパイの一揉みくらいしたかもしれないけどさ。


そうやってゴチャゴチャしているうちに、アリサはようやく落ち着きを取り戻した。




「ねえ、あの島にはどうやって行けばいいと思う?」


「ああ、それならラミアの森に点在するダンジョン地下迷宮の一つに転移装置があるそうだぜ」


「なんだ、行き方を知っているんじゃない!早く言ってよね!」


「それがなぁ、点在するダンジョンの場所は全部分かるけど、どれが転移装置のあるダンジョンかは分からねーんだよ。幾つかは入った事はあるんだが……」


「ほぼシラミツブシに当たるしかないわけ?」


「まあ、そう言うこったな」


「じゃあ早く案内してよ!」



よほど焦っているのだろう、アリサは必死の形相で俺を急かした。言葉もいつもと違って荒い。


無理もない、あの島にこいつの想い人が倒れているかもしれねーんだ。そりゃ焦り逸るよな。



「こっちだ」



俺は今いる場所から一番近いダンジョンへと案内した。



「ここが一番近いダンジョンだ。すぐ近くにもう一つある。どちらも規模は大きくはないが、それなりに魔物は出るぞ」



斜面に構えられている横穴式のダンジョンだ。



「わかった。じゃあちょっと行ってくる」



アリサは地上装備のまま、お構いなしにダンジョンに入って行こうとする!



「待て待て!流石に無謀だろう!」



アリサの無謀・無鉄砲ぶりに、俺は流石に慌てた。



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