027 第九話 シャロンの想い 06


Side シャロン



それから暫くして、私は冒険者ギルドにパーティー脱退届けを提出した。


しかしそれは受け入れられなかった。



「ギルド長、どういうことですか?」


「ミス.シャロン。残念だがバーク君から不受理届が提出されている。彼との同意無しには脱退は出来ない」


「そんな!?」



私はバークさんに問い詰めた!



「申し訳ない、脱退を認める訳にはいかない。いま脱退すれば、君は僕の加護から外れ力を失ってしまう。バロンやブルーノを始め、大勢の男達に必ず狙われるぞ!」


「ここに居ても、またあなたは私を襲うかもしれない。だったら同じことです!いいから書類にサインして下さい!」



私は脱退同意書を叩きつけた。



「シャロンさん、どうか落ち着いて!もうあんなことは絶対にしない。だからパーティーに残ってくれ!」


「問答無……」



「ケンツさんのことはどうなる!」



― ぴくっ……



ケンツの名前を出され、私は一瞬固まった。



「僕の加護を失ってしまった君が、ケンツさんを守れるのか?言っておくが今まで僕がケンツさんを助けて来たのは全て君の為だ。君が離れてしまうのなら、僕はもうケンツさんを助けたりしない!」


「そんな……そんな言い方って卑怯です!」


「なんと言われてもいい!僕は君を守るためなら卑怯者だろうが鬼畜だろうが何にだってなってやる!」


「 ! 」



結局、私はバークさんのパーティーを抜ける事が出来なかった。


今のケンツはバークさんのおかげでかろうじて守られ生きていられる。


バークさんがケンツを助けない事が知れ渡ったら、きっとケンツへのイジメは一気に加速するだろう。


そしてその先には、確実な死が待っている。


ケンツも私も、現状を抜け出す手段は持ち合わせていないのだから……



………………………………

……………………

………………

…………

……







*











ケイトさんにこれまでの出来事、胸の内を全てを話し、私は放心して脱力した。



「…………」


「シャロンさん、今までよく耐えましたね」


「耐えてなどいません。ただ時が流れただけです……」


「それでも、シャロンさんの心はバークさんには流れなかった。今でもケンツさんを愛しているのでしょう?」


「はい……だけど……私はケンツを裏切りました……身体は流されてしまいました……」



ケイトさんは溜息をついてから話を続けた。



「シャロンさん、あなたは何も裏切っていない。流されたのではなく、過酷な状況下で激流に飲み込まれたんです。これを裏切ったと言うには余りにも理不尽ですよ。きっとケンツさんも裏切ったとは思わないです」


「だけど、私は自分を許せない!もうケンツに合わす顔がない!私はあの日からケンツを避け、それにケンツもずっと私を無視して……」


「ケンツさんが無視していたのはバークさんに体を許す前からだったでしょう?そもそもケンツさんはシャロンさんが身体を許してしまった事を知りませんし……」


「だけど、だけど!」


「それにね、この状況を招いたのは、どう考えてもシャロンさんではなくケンツさんの方ですよ。あの人は熱くなるといつも真逆の行動を取る……その結果が今のお二人の惨状です。困った天邪鬼さんですよ」


「……」


「シャロンさん達とケンツさんが公園で決定的な決別した日、ケンツさんは公園に行く前にここギルドにもシャロンさんを探しに来たんですよ。『別れるくらいならシャロンと田舎に帰って農業する!』ってね。だから私は安心したんです。それが蓋を開ければ完全決別でしょう?まったくあの人の天邪鬼ぶりには呆れるばかりです」



なんですって?



「そんな!ケンツはそんなこと一言も……はっ!私がバークさんに余計な提案をした事をケンツに聞かれたばかりにへそを曲げて……そんなぁ!!!」



私はあまりにも衝撃の事実に眩暈がして卒倒しそうになった。


そんな私をケイトさんが寄り添って支えてくれた。



「シャロンさんは悪くないですよ。そんな重要な局面な時ですら、天邪鬼なケンツさんが全部悪いんです。私ならこんな男、秒で見限ってますよ。

全くケンツさんは最悪です。

そしてシャロンさん、最悪な事に【最悪なケンツさん】は今でもシャロンさんを強く愛しています。それこそ今を生きるための活力と言っていいくらい……全く困ったものですね」



え!?



「ケンツがまだ私のことを愛してくれている!?私が生きるための活力!?それ本当なんですか?」



ケイトさんが悪戯っぽく微笑んで頷いた。



「ああ、ケンツ……私もあなたを……でも私の身体はもう……」


「汚れてしまったとでも?不本意な形で、たった一回股をこじ開けられたくらいで何を深刻に考えているんです?子供を孕んだわけでもあるまいし……そんなのケンツさんに上書きしてもらえば済む事じゃ無いですか。

だいたいちょっと汚されたくらいで、あのケンツさんがシャロンさんを嫌いになるなんてあり得ませんよ」


「だけど!なら私はどうしたら!」


「シャロンさん、今までずっと耐えて来たんです。ならもう少しだけ耐えてみましょうよ。ケンツさんは天邪鬼です。きっとシャロンさんから言い寄っても必ず突っぱねてお互い自爆します。

だからケンツさんから再構築しようと告白するまで待ってはいかがです?今のケンツさんなら、そんなに時間はかかりませんよ。私が保証します。あの天邪鬼は近いうちに必ずシャロンさんの元に戻ってきますよ!」


「ケンツが私の元に戻って来る……」



それが本当なら私は待つ!例えすぐでなくても、10年20年かかろうとも私はケンツを待ち続ける!



「ケイトさん、私待ってみます!ありがとうケイトさん」



しかしそう言った私の脳裏に、アリサという美少女の事が引っかかった。


ケイトさんは大丈夫と太鼓判を押してはくれた。


しかし男女の仲はタイミングとも言う。


何がキッカケで二人が相思相愛男女の仲になるかわからない。


本当に待っているだけで大丈夫なのだろうか……



「先程も申した通り大丈夫です。あの二人が男女の仲になるなどあり得ません。仮に相思相愛の仲になったとしても、二人が結ばれる事は絶対にないでしょうね。プライバシーに関わる問題なので理由は説明できませんが……」



ケイトさんは自信たっぷりに言った。


どうやらケンツとアリサさんが男女の仲になるのには、不可能なほどにとんでもなく高いハードルがあるようだ。



それならば私は待つ!


浅ましい、恥知らずと思われても構わない!


必ずいつかケンツの元に……



壊れかけ消滅しそうだった心が急速に回復していく!


生きる活力が湧き始め、目にも光が戻ったのが感じられた。



「ケンツ、私待っているから!だから必ず迎えに来て!」



私は、傍で眠り続けるケンツの手を愛おしく握った。

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