022 第九話 シャロンの想い 01
◆昇級試験当日
Sideシャロン
バークさんが昇給試合の試験官を務めるとは聞いていたけれど、その相手がケンツだなんて夢にも思いもしなかった。
遠くからケンツの姿を認めたとき、私の心臓は強く跳ねあがり、嬉しさに身体が震えた。
「嘘でしょ!?ケンツが……ああ、ケンツ!」
最後にケンツを見かけた時は、浮浪者同然の容姿だった。
それが今のケンツはパリッとした剣士の服と新調した魔法付与剣(エンチャントソード)を手にし、バークさんに挑戦するかのように試験を受けている。
私は無意識に走りだし、試験会場の周囲を張る防御結界間際まで駆け寄る。
これ以上は結界のせいで進めない。
ケンツの目は生き生きとしていた。以前見た澱んだ瞳はしていない!
本当に何があったの、ケンツ!?
「こぉぉぉぉぉぉ……」
ケンツは呼吸を整えながらピリピリするほど全神経を集中させ、バークさんの動きを予測する!
そして最小の動きでバークさんの乱撃を躱す!受け流す!
「あれはむかし私が教えた呼吸法!ケンツがあの戦い方をするなんて!まだ覚えていてくれたなんて!」
― ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、
どうしようドキドキが止まらない!
身体の震えが止まらない!
フワフワと足元がおぼつかない!
ああ、ケンツ!大好きなケンツ!ケンツ!ケンツ!
「待っていたぜ、テメーが気を緩めるのをよう!」
防戦一方だったケンツが反撃に転じた!
本来のケンツの
「勝負だ、バーク!
雷を纏った突きがバークさんの喉元を穿つ!
―バリナリバリ、ガッ!!!
しかしバークさんはこれを華麗なバックステップでギリギリ躱した!
「だろうな、わかっていたよ!」
しかし剣に込められた雷は、ほぼゼロ距離のバークさんに襲いかかる!
「爆ぜろ!
― バリバリバリ、ズキューーーン!
「ぐぉおおおお!?」
― バリバリバリバリ!
剣先から放たれた
しかし、これはただの牽制だったようだ。
「へっ、そんなことは想定済みよ!こぉぉぉぉぉぉ……」
それでもバークさんは驚きたじろいでいる!
ケンツはその一瞬のうちに呼吸を練り直し――
「食らえ!
雷撃系魔法剣最大の奥義、
「なっ!?」
― ガラガラガラ、ドッシャーン!!!!!!!
「きゃああああああああ!」
驚いた、今のケンツがこれほどの
いったいケンツの身に何が起きているの!?
「ぐっ!……つつつ…………」
バークさんは膝を付き脇腹を擦っている。
通っている!ケンツの攻撃がバークさんに通っている!
凄いケンツ!凄い!凄い!
「ケンツ!」
どよめく喧騒の中、私は両手を胸元で握りしめながら、気が付けばケンツの名を大声で叫んでいた。
「シャロン!」
ケンツはすぐ私の姿を見つけてくれた。
ああ、ケンツ、私のケンツ……今すぐあなたの元へ……
今だけ私とケンツの時が止まり、この一年の溜まった想いが一気に溢れそうになる!
― ぞく……
なっ、今の悪寒は?
「調子に乗るなよ、ケンツ……」
―バシュン、バリバリバリ!!!!!
バークさんの身体を漆黒の稲妻が纏う!?
そしてどこからか――
「ケンツさん、何してるの!集中して前を見て!」
そう、どこからか女性の叫び声がして私は驚いた。
え?今のは一体だれ!?
「死ね!」
そこからバークさんの様相が一変した。
どす黒いオーラとどす黒い雷を纏い、ケンツに襲いかかる!
― ドッキャアアアアアアン! バシュン!バゴーン!
バークさんの斬撃は衝撃波を発生させ、周囲の壁ぶち当たり凄まじい破壊音を奏でる!
そんな中で、ケンツは必死に致命傷だけは避けようとしているけど、出血が多く顔色はみるみる血の気が失せていく。
「バークさん、お願いやめてーーー!」
「 ! 」
しかし私の悲鳴を聞いたバークさんは止めるどころか、さらに力を入れた!
なんで!?
「がああああああ!!!」
―バキンッ!
ああ、ケンツの剣が折れてしまった!
「死ね、ケンツ!」
バークさんが大きく上段に振りかぶる!
本気だ、バークさんは本気でケンツを殺す気だ!
「やめてーーーーーーーー!!!!!」
これ以上ないくらいの金切り声で私はバークさんに叫ぶ!
しかしバークさんはそれを無視し全力でケンツを屠りにかかった!
「
― ガラガガラ、ドッシャアアアアン!
だめ、ケンツが死んじゃう!
ところが、バークさんが振りかぶり、私が叫ぶのとほぼ同時に……
「
― カッ!バリバリ、ズキャアアアアン!
誰かが放ったとてつもない斬撃!?
それが強固な結界を破壊し、誰かが試験会場に侵入した!
― ガッキャーン!! ギリリリリリリリ……ギシッ!
その侵入した誰か――
侵入者は、白銀の鎧にマントをなびかせ、バークさん必殺の
それは女騎士!?
「ちょっと!何を考えているの?ケンツさんを殺す気!?」
ケンツの名を呼んだ!?
誰?
彼女はいったい誰なの!?
刹那――
「し、試験終了!」
審判の試験終了のアナウンス!
それとともに、周囲の防御結界が消えた。
私は慌てて試験会場内に飛び込んだ!
そしてオロオロと狼狽しているバークさんを押しのける。
ケンツの意識はもうほとんど消えかかっている。早くヒールをかけないとケンツが死んでしまう!
「ケンツしっかりして!ヒール!」
― ヒュイイイイン……
キラキラと銀色の粒子がケンツの身体を優しく包む。
しかし回復した形跡はほとんどない。
「うそ、どうして!?ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!
いやあああああ!ケンツ!ケンツゥ!!」
ケンツは私の声が届いたのか嬉しそうに微笑んだあと意識を失った。
「そんなケンツ、逝かないで!私を置いて逝かないで!ケンツゥ!わあああああーーー!」
そんな半狂乱に陥った私に肩を叩く者が。
「ごめんなさい、私と代わってもらえますか?」
「え?」
私に声をかけたのは先程の白銀の女騎士!
いや、どうやったのか?今は鎧を装備しておらず普通の服だ。
「
― キュイイイイイイイイイイイイン!
キラキラと眩い金色の粒子がケンツの全身を包み込み、死ぬ手前だったケンツの傷を一瞬にして癒してしまった。
「な!?」
「ふぅ、もう大丈夫ですよ。えっとシャロンさんですよね?ケンツさんを運ぶのを手伝って貰えます?」
「え? あ、はい……」
運ぶのを手伝うと言っても何もする事は無く、私はこの謎の女騎士?のあとを付いて行くだけだった。
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