021 第八話 アドレア連邦と外来の闘法技 03



「えー」



アリサの顔が曇る。



「なんだよ、そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃん!駄目なのか?」


「だって明日からラミアの森でフォレストラビットの討伐なんですよ?わかってます?」


「お?おお!忘れるわけねーだろ、俺達はその為にコンビを組んだんだからな」



やべー、忘れてた。



「縮地も身体強化もマスターするのに時間のかかる技です。悪いけど私はそんなに長くリットールに居座るつもりはありませんから」


「そんなつれない事いうなよー、俺とアリサの仲じゃねーか」


「いやいや、ケンツさんと知り合ってからまだ3日目だから。仲とか言う以前の問題でしょ?」



むぅ、コイツは手ごわそうだ。ならばこれでどうだ!



―バシュッ!ズザッ!



「!?」



俺はジャンピング土下座を敢行!



そして――



「お願いだアリサ!いやお願いしますアリサ様、どうか私(わたくし)めに御技を御教授下さい!!!」



大声で叫び頼み込んだ!



「ちょっ!」



ふふふ、焦っているなアリサ。


どうだ、見たか!これぞ遥か彼方の海洋国家、ヒモト国伝来の説得技、【THE土下座】!


こいつを食らえば、少しでも良心のある者なら無碍に断る事は出来まい!


さらにコイツの恐ろしいトコロは……



「なんだなんだ?」

「おい、ケンツが土下座してんぞ?」

「雷のお嬢ちゃんを怒らせでもしたんか?」



さっき散ったギルド内の冒険者達がまたワラワラと集まり出し、俺とアリサに視線を浴びせる!



――そう、土下座は周囲の人々の注意をひき野次馬化させ、痛い視線を集めるのだ!



「ちが……私、怒ってなんて……ケンツさん立って下さい!皆(みんな)見てるから!ほんとやめて!」


「イヤだ、やめねー!頼む!お願い!この通り!御教授下さい!」



ウザいほど遜りお願いしたのち、俺はトドメとばかりに顔を上げ、子犬の瞳で訴えかける。


くぅ~ん……



「お願いします!アリサ様の想い人探しの負担にはなりませんから、何卒(なにとぞ)何卒何卒何卒……」


「はう……ず、ズルい!そんな目で見ないでよ!わかった、わかったから、マスター方法だけ教えるから後は自分でやって下さい!」



よっしゃ、言質を取ったぁぁぁ!!!


ふへへへへ、ここ数日でアリサの性格は見切ったぜ。


コイツはいつもツンツンしているが、これは恐らく生来のものじゃねぇ。


本来はもっと誰にでも優しい穏やかな性格なんだろう。


そして押しに弱い!


頼まれ事があれば嫌な顔をせず引き受けてきたはずだ。


それが想い人と引き離され、他人の頼まれ事を引き受ける余裕が無くなっているんだ。


だからこいつの最優先目的(プライオリティワン)を邪魔さえしなけりゃ、たいていの事はOKする!


ようするに激アマチョロイン娘だぜ!



「んじゃ早速始めるか!」



俺はアリサの手を引いてギルドを出ようとする。


が、アリサはパチン!と手を叩いて繋ぐのを拒みやがった。


相変わらずガードが固いな。





「その前に……これで新しい剣を買いに行った方がいいのでは?」



ずっとシラケ顔で俺の茶番を見ていたケイトが、たんまりと金の入った袋を差し出した。


そういや俺、バークに剣を折られたんだったっけ。



「バークさんからの慰謝料と、壊した剣の弁償金です。100万ルブルありますよ」



なんだぁ?バークからの金だとぉ!?



「けっ、そんな金いらねーよ!けったくそ悪い!」


「そうですか、じゃあこれは私が頂いておきます。ありがとう」



普段無表情のケイトがニッコリと微笑み、金の入った袋を仕舞おうとする。



「まてまてまて、なんでそーなる!?けったくそ悪くても金は金だ!俺が貰う!」



俺はケイトから金の入った袋をぶん取った。



「ケンツさん、貰うつもりなら虚勢なんてはらなきゃいいのに……なんて薄(ぺら)いプライド……そして天邪鬼(あまのじゃく)」



呆れ顔のアリサ。


悪かったな、そうだよ、俺はこの薄(ぺら)いプライドと天邪鬼な性格が災いして、大切な宝物シャロンを手放す失態を犯したんだ。


でも仕方ねーじゃん!


天邪鬼な性格も、薄(ぺら)いプライドも、俺という男の持味なんだよっ!


反省はずっとしているが変われねーんだ!


男だから簡単に変われねーんだよ!


うおおおおん!!!



「なに突然に感傷に浸って号泣してるの?そう言うのいいから。時間ないし早くいきましょ」


「あんたホントにドライやね……」



アリサに急かされた俺は、すぐに新しい剣を見繕ってもらい、それから縮地と身体強化のマスター方法を教えて貰った。


そうそう、新しくアリサが見繕ってくれた剣だが、とんでもなく高価ではあったものの、バークに折られた剣よりもさらによく馴染んだ。


しかも魔法付与の強度も2ランク上の代物で、俺の総合的な強さがまたまた向上した。


俺はバークを叩きのめすための光明を見出し、身体の奥底から生きる活力が湧き出るのを感じたのだった。



そしてシャロン……


助けてくれたお礼の事もあるし、明日ラミアの森の探索から帰ってきたらシャロンと会ってじっくり話し合おう。


まずは俺の気持ちをハッキリ伝えるんだ!





次回よりシャロンsideのお話が続きます。

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