020 第八話 アドレア連邦と外来の闘法技 02
縮地? 身体強化?
何を言ってんだ?あれは限られたエリート戦士のみの技だろう?
ああ、そうそう縮地(しゅくち)ってのは、戦闘時における超高速移動術の事だ。
で、身体強化ってのは……まあそのままの意味だ。
(この場合、バークのようなバフではなく、精神と肉体それに魔力の調和による身体強化術)
「おいおいアリサ、身体強化術なんて一般的じゃない技、簡単に使えるワケないだろ。それに縮地って、もはや伝説の技だぜ?」
「え?」
「あ……」
「ん?」
三者三様の反応。
「アリサさん、このアドレア連邦では縮地も戦闘職系身体強化術もほとんど広まっていないんですよ。禁止されているわけじゃないのですが伝承者がいないに等しいんです」
「え?そうなんですか?」
「んん?」
「はい、使えるのはアドレア連邦正規軍の限られた特戦
「んんん?」
「そうなのですか。そしてアドレア連邦にも召喚勇者が……」
― ふっ……
ん?
なんだ今のアリサの表情は?
一瞬なにか憂いた顔をしたが……
いや、そんなことよりもだ。
「ケイト、なんで連邦では伝承者がいないんだ?それに連邦内にいなけりゃ国外でマスターすりゃいいじゃねーか」
「それはですね、100年程前に連邦が縮地と戦闘職系身体強化術の使い手を粛清したからですよ。当時の連邦と加盟国は愚民化政策で国民を弱体化させましたからね。その一環だったようです。特に縮地と身体強化術は外来の闘技法であり、ガス抜きのためにも粛清の的(まと)にされたみたいです。
それから50年程は愚民化させすぎたせいで、連邦そのものが弱体化してしまいました。おかげで周辺国とは様々な分野で競争力を失い、連邦は大きく衰退したんです」
「え、俺そんな話聞いたことないんだけど!?もしかして今もマスターすれば粛清されるのか?」
「今は粛清される事はありません。その代わりに使える者がいないので広まる事もないのです」
「そう言えば連邦の愚民化政策による衰退って、王立図書館の本で読んだ覚えがあります」
外国人のアリサでさえ知っているのかよ!?
俺達の歴史教育はどうなってんだ!?
「アドレア連邦は都合の悪い歴史を消去して無かった事にする……それの繰り返しですからね。知らない人が多いのは当然ですよ。私の話だって亡くなった曾爺様(ひいおじいさま)から伝えられた話で、どこまでが正しいかはわかりません」
なるほどな。
どうりでデカい戦争があったことくらいしか知らないはずだわ。
― はぁ……
ケイトは溜息を付きながら話を続ける。
「あと国外においての、失われた技術のマスターは無理です。アドレア連邦加盟国間での移動制限はありませんが、北方スラヴ王国とミンバリ特別自治区、南方チャイ帝国それにマウリア共和国への出入は制限されています。昔は連邦最北の小国インパハピネスが唯一スラヴ王国と国交を樹立していましたが、現在は完全断交状態ですし」
「あ、私インパハピネスは知っています。うちの王様の出身国ですよね?」
「え、そうなの?それも初耳なんだけど?」
「私も初耳です。本当なんですか、それ!?」
「はい。王国(うち)のグラフィーラ王女殿下から直接聞いたので間違いないかと……たしか平民たちが反対派閥国に誑かされ革命を起こし、王族を追放したとか。そして王族はスラヴ王国に亡命してきた……とかなんとか」
いやちょっと待て。王女殿下から直接聞いただと?
アリサってば、スラヴ王国の王室関係者なのか?
というかケイト、おまえ顔色が変だぞ?
「あ、あの……ケンツさん、アリサさん、今の話は連邦内では控えて下さい。下手をすれば粛清対象になるかも……」
「そうですね、迂闊でした。今後は自重します」
え、これってそんなヤバイ案件なの!?
俺、秘密を守れるだろうか……
「いやまあ、驚きはしたけど正直王族亡命の話はどうでもいいわ、興味無いし。それよりアリサ、おまえ一体何者なんだ?」
俺はマジマジとアリサの顔を見ながら問いかける。
「通りすがりの魔法騎士ですよ?」
だよな、そう言うと思っていたよ。
そんなことよりもだ……
「なあアリサ、もしかしてオマエの母国スラヴ王国では、縮地や身体強化は普通の闘技法なのか?」
「普通ですよ。戦闘職系身体強化術と縮地……戦士や剣士ならまず身に付けようと目指します。四級冒険者の中にだって使える者はいますよ」
マジかよ!?じゃあ、じゃあ、もしかして……
「もしかしてアリサも使えるとか?」
「使えるも何も、縮地はケンツさんの目の前で一度披露したでしょ?もちろん身体強化だって使えますよ」
なんだって!?一度披露した!?
あ、ブルーノとバロンの腕をぶった切った時のヤツか!
こいつ本当に使えるのか!スゲー!!!
あれ?ちょっと待て。
もしかして俺がアリサから縮地と身体強化術をマスターすれば、バークとの実力差は一気にひっくり返るのでは!?
そうだよ!バークどころか、俺は再びアドレア連邦認定勇者候補に返り咲ける!
そうすりゃ俺はいつでもシャロンを迎えに……
「アリサ頼む!俺に縮地と身体強化を教えてくれ!」
「えー」
なんでちょっと嫌そうな顔するんだ。
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