019 第八話 アドレア連邦と外来の闘法技 01



◆冒険者ギルド内救護室




「はっ!?」



死んだと思った俺は、なぜかベッドの上で目を覚ました。



「ここは……まさか俺は死んで転生したのか!?だとしたら俺には凄い力が宿って……」


「ケンツさん、起きるなり何をバカな事言っているんです?何か変な夢でも見てたんですか?」


「あれ?ケイト?……てことは俺は生きてるの?」


「生きてますよ。傷も完全回復済みです!」



― ガバッ!



俺は着ているものを脱いで、傷が無いか調べた。



「うぉおお、本当だ!これシャロンが治してくれたのか?」


「ちょっと!レディの前でパンツまで脱がないで下さい! 実はシャロンさんのヒールはどう言う訳か効果が無くて、またアリサさんが回復してくれたんですよ」


「そうなのか?いずれにせよ二人にはお礼を言わないとな」



俺はシャロンと話す機会が出来たことに喜んだ。


これは流石にシャロンに礼を言わなきゃ駄目だろう、意地はって無視しなくてすむ!


それに気を失う前のシャロンのあの必死な感じ……あれはまだ俺に気があるとみて間違いない!


良かった、半年前から声をかけてくれなくなって不安だったんだ。これをキッカケにしてシャロンと元鞘に……


いや、まだ無理だ。いま元鞘に戻っても俺みたいにイジメの的にされちまう。


それにバークの存在がなぁ……奴から略奪するにも力量差がありすぎる。


こうなりゃヤツを毒殺して……



―ブツブツ……



「ケンツさん、何を良からぬ顔をしているんです?まさかバークさんを暗殺してシャロンさんを取り返そうとか思っているんですか?」



― ギクッ!



「な、なんでわかるの!?」


「そりゃやっぱりケンツさんですから」



このアマ、絶対読心術の祝福(ギフト)を持っているだろ!?



「ああそうそう、シャロンさんはもういませんからね。明日の討伐依頼(クエスト)のためにバークさん達とミーティングに出られました」


「あ、そう……アリサは?」


「飲食ブースで食事されています。早く行ってあげた方がいいですよ」


「なんで?」


「アリサさん、また大勢の冒険者に取り囲まれていましたから」


「な、なんだってーー!?」



― バッ、ダダダダ!



「あ、ケンツさん、ちょっと待って!」



ケイトが何か叫んでいるが、今はアリサが心配だ!


俺は大慌てでギルド内飲食ブースへ走って向かった!







「なあ、お嬢ちゃん。ケンツなんかと一緒にいたっていい事ないぜ?悪い事言わねーから、俺のパーティーに入れよ」


「いやいや、入るなら僕達のパーティーだって!やっぱり歳は近い方がいいでしょ」


「はっはっっはっ、キミ達ちょっと鏡で自分の顔を見たまえ。やはり彼女をパーティーに迎えるのなら、それなりの顔でないとねぇ。それじゃアリサだっけ?行こうか」



― ズズズー……



不機嫌面でパスタを食べているアリサ。


そのアリサの周りに、なんとかアリサを引き抜こうとする冒険者達の人だかりが出来ている。




「おいアリサ、無事か!」


「あ、ケンツさん!こっちですよ、早く助けて!」



前の時と違って、冒険者達は脅したり手を出そうとはせず、ひたすら口説いている。


その為、張り倒すこともできず、アリサはひたすら耐えながらパスタをすすっていたようだ。



「オラ、おまえら邪魔邪魔!」



俺は冒険者達を追い払い、アリサと同じテーブルについた。



「ちっ、もう起きやがったか……」



意外にも冒険者達は、舌打ちするだけで素直に去って行った。



「なんだアイツら、随分素直に従ったな?」



いつもならゴミムシだのクズだの言いながらボコりに来るのに?



「そりゃそうですよ。負けはしたけどケンツさんの実力は、あの場にいた冒険者全員に知れ渡ったんですから」


「でも俺、ボッコボコに負けたんだぜ?」


「負けはしたけど、十分実力は見せつけたでしょう?ケンツさんに勝てる冒険者なんて、このギルドには2~3人しかいませんよ。ブルーノさんやバロンさんはケンツさんより格下でしょ」


「え?ブルーノとバロンが俺より格下!?奴ら二級冒険者だぜ?」


「ええ、徒党を組んできたり、目つぶしなど卑怯な方法で襲ってこない限り、個対個の戦いならケンツさんが勝つんじゃないですか?」



いやアリサよ、目つぶしは決して卑怯な方法ではないぞ。


れっきとした戦術だぜ?



「でも俺三級冒険者だぜ?」


「それはさっきまでの話でしょう?今は……」


「ケンツさーん!話の途中で出て行かないでくださいよ!」



ケイトが少し怒り顔でやって来た。



「早く行けっていたのはケイトじゃん?」


「それはそうですが……それよりもこれ!」



そう言ってケイトはカードを差し出した。



「ん、なんだこりゃ?…………ああ、こいつは!?」



ケイトから手渡されたもの、それは二級冒険者登録の冒険者カード、通称ギルドカードだ。



「まったく、何のために痛い思いして昇級試験受けたんですか。それはとにかくとして……おめでとうございますケンツさん。今日から二級中位冒険者ですよ!」


「そっか、二級中位冒険者か……」



俺は特に感慨も無く、差し出された新しいギルドカードを受け取った。



「ケンツさん、あまり嬉しそうじゃないね?」



アリサがコテリと首を傾げた。


ケイトも不思議そうな顔をしている。



「うん?いや嬉しいよ。全盛期ほどじゃないが、俺もまだ結構やれる事がわかったし……ただ……」


「「 ただ? 」」


「バークとの差をまざまざと見せつけられたからな。あんなに実力差があるのかと思うとちょっとな……」



そうだ、俺はバークの力の片鱗を味わった。


しかもあれが全開とは限らねー。


最低でもあれぐらいの力は出せるってことだ。



「何弱気になっているんですか、今までの漠然とした感覚じゃなく、最低でもあれを超えるだけの力が必要って判って良かったでしょ?明確に目標が出来たでしょ?」



そうだ、何を呆けているんだ俺は!


ようはあれを超える力を付ければバークと五分の戦いを演じられるってわけだろ。


アリサの言う通り目標が出来たんじゃねーか!



「それにケンツさん、今までずっと燻っていたんでしょう?にもかかわらずあれ程の力を維持していたなんて、そっちの方が驚異的ですよ」


「まあ剣の素振りと筋トレだけは欠かさなかったからな。でも食う量が減ったせいで贅肉が全く無くなっちまったぜ。ほら」



そういって俺はシャツを捲って腹筋を見せた。



「へー、限りなく体脂肪率ゼロみたいな引き締まり方ですね。これなら縮地(しゅくち)や身体強化にも対応できそうな感じ……」



おいアリサ、あんまりマジマジ見るなって。恥ずかしがらせようと思って見せたのに、こっちが恥ずかしいじゃねーか…………


いやそれよりも、この子、今なんて言った?




縮地?身体強化?


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