018 第七話 激突!ケンツvsバーク R1 04
「待っていたぜ、テメーが気を緩めるのをよう!」
ふはははは!
気を緩めるには少し早いんじゃないかい?バークさんよぉ。
俺はまだ魔法剣士の技は何も使っちゃいないんだぜ?
― バリン!バリバリバリバリ!
「むむっ!?」
斬撃を連打していたバークだが、俺の空気が変わった事に即座に気付き、咄嗟に距離を取った。
「ちっ、気づくなよ!だがワンテンポ反応が遅れたな!」
本来の俺の
「勝負だ、バーク!
雷を纏った鋭い突きが、バークの喉元を穿つ!
―バリバリバリ、ガッ!!!
「むおっ!?」
しかしバークはこれを華麗なバックステップでギリギリ躱す。
「だろうな、わかっていたよ!」
まだだ、これで終わりじゃない!
剣に込められた雷は、ほぼゼロ距離のバークに襲いかかる!
「爆ぜろ!
― バリバリバリ、ズキューーーン!
「ぐぉおおおお!?」
― バリバリバリバリ!バチーーーーーーーーーン!!!
剣先から放たれた
だが、ダメージゼロのようだ。
しかーし!
「へっ、そんなことは想定済みよ!こぉぉぉぉぉぉ……」
俺はバークがたじろいでいる一瞬のうちに、即行で呼吸を練り直す!
実は俺は、全力全開の斬撃はずっと控えてきた。
斬撃の剣速は、概ね九割弱の力加減だったのだ。
今のバークの目は、九割弱の剣速に慣れきっているはずだ。
ならば突然十割全開の斬撃に切り替えた魔法剣技なら、必ず狂いが生じるはず!
さあバーク!俺の全力の一撃を受けてみろ!
「食らえ!
勇者の必殺技〈
「なっ!?」
バークは咄嗟に間合の圏外へとさらにバックステップするが、僅かにタイミングがずれた!
その上、魔法付与剣(エンチャントソード)から放たれる雷斬波がバークを絶対に逃さない!
― ガラガラガラ、ドッシャーン!!!!!!!
耳を劈く大轟音!
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
「わあああああああああああああ!!!!」
「ひいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「どっへえええええええええええ!!!!」
雷斬波の余波が周囲への保護のために張り巡らしている結界にも襲いかかり、ギャラリー達をビビらせる。
すげえ、すげえぜ!俺の
新しい剣と呼吸法を組み合わせりゃ、まだまだいけるじゃねーか!
前にレッサーベヒーモス相手にした時の『がらがらドカーン』なんて間延びしたやつじゃねぇ!
今のサンダーブレイクならレッサーベヒーモスくらい一撃で屠れるぜ!
くっそー、なんでもっと早く気が付かなかったかなぁ!
はっ!
余韻に浸っている場合じゃねー!
バークは!?
バークに俺の
「ぐっ!……つつつ…………」
バークは膝を地につき脇腹を擦っている。
やったぜ、攻撃が通っている!ひゃっほう♪
もう俺大満足だよ!
バークの一級の力を引きずり出すなんて言ってたけどさぁ、うん、もうどうでもいい。
おい審判、いますぐ試合を中止させろ!本気で反撃されたら痛いから。
― ぷい
げ、審判のやつ目を逸らしやがった!
「ケンツ!」
「!?」
周囲のどよめく喧騒の中、懐かしくそしてよく聞き馴染んだ声が耳に遠った!
「シャロンか!どこだ!」
俺はシャロンの名を叫び、声の主を探した。
そしてそこにシャロンはいた。
祈るように両のコブシを握り、目にうっすら涙を浮かべ嬉しそうなシャロンの姿が目に入った。
ああ、シャロン、俺のシャロン……待っていてくれ、俺は必ずシャロンを……
― ぞくり……
そんなシャロンとの感動の再開が、異様な寒気に邪魔をされた。
「調子に乗るなよ、ケンツ……」
先程迄とはガラリと変わった雰囲気のバーク。何かバークの逆鱗に触れたのか?
いや、大勢の前でゴミムシ扱いされていた俺に一発入れられ大恥掻かされたんだ。
怒って当然か。
―バシュン、バリバリバリ!!!!!
バークの身体をえげつない漆黒の稲妻が纏う!
あ、やべえ!こいつ本気だ!全力で俺を叩く気だ!
「お、おい審判!もう十分だろう。試験を終わらせろ!」
俺は慌てて審判に訴えかける。
しかし審判は無視をする。
「ケンツさん、何してるの!集中して!前を見て!」
「はっ!?」
今度はギャラリーに混じっているアリサの悲鳴!
俺は慌ててバークに向き合う。
― シュゴゴゴゴゴゴゴォォォォ…………
バークは同じ人間とは思えないようなどす黒い気を発して、俺を威圧している!
なに?なんなのヤツの悍ましい気配は!?
「死ね!」
おい、こいつ『死ね!』って言ったぞ!試験官なのに!?
― ゴゴゴゴゴゴゴ……
こいつはヤバイ!ヤバすぎる!バークの野郎、本気になりやがった!
対峙しているだけで、嫌な汗が噴き出て来るぜ!
俺は全神経を集中してバークの動きを読みヤツの攻撃に備える!
バーツの目、バークの呼吸、バークの筋肉の動き、全神経を総動員して観察し、バークの動きを未来予測する!
― ドンッ!
まるで消えたかのようなバークの踏み込み!
「ぐっ!?」
― ドッギャアアアアアアン!
そこから繰り出される斬撃!
― バシュン!バゴーン!ズキュウウウウウウウウウウウン!!!
「ぐお、これは衝撃波か!?」
純粋な斬撃による衝撃波!
それが俺の身体をかすめ、後ろの防御結界にぶち当たる!
純粋な斬撃による衝撃波の発生、それは剣速が音速を超えている事を意味する!
そんなことが出来るのは一級上位以上の戦闘職でないと不可能だ。
所謂(いわゆる)人外級と呼ばれるごく僅かなエリート冒険者……
なんてこった、バークの力は人外級、限りなく勇者に近い存在かよぉ!
― ザンッ!
「がっ!」
― バキッ!
「うぐぅ!」
― ベシッ!
「ぎゃうっ!」
未来予測で僅かに急所を逸らすのと、試験用の保護結界で致命傷にならずに済んでいるが、それでも俺の身はどんどん削られて、試験場を血に染めていく。
― ダクンッ!
な、なんだ!?急に力が抜けやがったぞ!?
血を流しすぎたか?
― ふぅ……
だめだ、意識が、集中力が……もう続きそうにねぇ。
ちくしょう、試験なんか受けるんじゃなかった!こりゃ死ぬぞ。
「バークさん、お願いやめてーーー!」
会場に響くシャロンの悲鳴!
「!」
しかしその悲鳴を聞いたバークは止めるどころか、さらに怒りを込めて撃ってくる!
「がああああああ!!!」
―バキンッ!
あ、やべえ、剣がへし折られた!これはもう完全に詰んだ。
全身なます切り状態でもう動けねえ。
「死ね、ケンツ!」
得物を失い身動きも出来ない俺に対して、バークはバチバチと漆黒の雷を纏いながら大きく振りかぶる!
おいばかやめろ、そんなもんで斬られたら身体が木端微塵になるだろう!
殺すならせめて原型を残してくれ!
そう思いつつ俺は死を覚悟してきつく目を瞑った。
「やめてーーーーーーーー!!!!!」
遠くからまたしてもシャロンの悲痛な叫び!
しかしバークはそれを無視し――
「
― ガラガラガラ!ドッシャアアアアアアアアアアアン!
― ガッキャーン!!
恐らく今のバークの最大級の剣技なのだろう。
俺と同じ
目を瞑っていてもわかるぜ。まったく大した野郎だ。
シャロンすまん、俺は結局迎えにいけなかった。
不本意だがバークと幸せになってくれ。
来世では一緒になろうな……
…………
……
て言うか、バークの斬撃が来ないんだが?
― ちらり……
不思議に思った俺は薄目を開けると、そこにはあり得ない光景が!?
― ギリリリリリリリ……ギシッ!
それは白銀の鎧にマントをなびかせながら、聖剣でバーク必殺の
「ちょっと!何を考えているの?ケンツさんを殺す気!?」
なんと白銀の騎士の姿に変えたアリサが割って入り、バークの凶斬を防いでいた!
試験会場の周囲には、超強力な防御結界が張られていたと言うのに、一体どうやってここへ?
その刹那――
「し、試験終了!」
審判の試験終了のアナウンス!
それとともに、周囲の防御結界が消えた。
バークも我に返り、自分の仕出かした事に衝撃を受けている。
「だ、誰か回復士か医者を!すまないケンツさん、僕はどうかしていた!」
「へ、へへへ……珍しく狼狽してるじゃねーか、バークよぅ……がふっ!」
「ケンツさん、頼む、死なないでくれ!医者は!回復士はまだか!」
へへへ、バークの野郎、なんでブチ切れたのかは分からないが、やっぱりいい奴なんだな。
これなら安心してシャロンを……
いやいや、こんな危ないヤツにシャロンは任せられねぇ!
あれぇ……ちくしょう、出血で目が霞んできやがった……暗くてよく見えねえ……
「ケンツ、しっかりして!ヒール!」
突然キラキラと銀色の粒子が俺の身体を暖かく包む。
ああ、懐かしいこの感覚は……シャロンなのか……
しかし懐かしく温かい感覚はしたものの、回復した形跡はほとんどない。
「うそ、どうして!?ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!
いやあああああ!ケンツ!ケンツゥ!!」
何度重ね掛けしてもシャロンのヒールは効果が無く、俺は泣き叫ぶシャロンの声を聞きながら意識を闇に堕とした。
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