014 第六話 イジメは続くよ何処までも 02



「やめてくれええええええええええええええええ!」



― ザンッ!



― ゴロリ……



俺の右腕が床に落ち、鈍い音をたてて転がった……



「ぎゃああああああああああ!!!俺の腕!俺の腕がああああああああ!!!」



腕に今までに味わった事の無い激痛が走る!


しかし斬られたその先の感覚が無い!



― ブシュッ!



切断面から噴水の如く血が吹き出す!



「そーれ、もう一本!」



 ― ザンッ!



 ― ボトッ、ゴロゴロ……



「いぎいいいいいいいい!!!!!」



― ビクンッ!



続く激痛に、俺の身体はエビのように跳ねあがる!



「へっ、ざまあみやがれ!」


「切られた腕はこうしてやる、ギガボルト中級雷撃!」



― バリバリバリ、バシュンッ!



斬り取られた俺の腕に雷撃が落とされ、俺の腕は無残にも電気破裂を起こしズタズタにされた。


あれじゃどんなに腕のいい治癒士や回復士でも治療は無理だ。



「ちくしょう!俺の腕ぇえええ!返せ!返してくれよぉ!!!」



「ひゃはははは!いい面だぜケンツ!」


「おまえはこれからも俺達のオモチャでいりゃいいんだよ!ゴミムシの分際で昇級しようなんて思うからこんな目に合うんだ!ざまあみろ!!!」


「いいザマですね、ケンツさん。ああ愉快愉快♪」



バロン!ブルーノ!

なんでこいつら、こんな酷いことを楽しそうにやれるだんだ?


ベラ!

テメー今の顔を鏡で見て見ろ!なんでそんな歪んだ嬉しそうな顔ができるんだよ!



「ちくしょう、ちくしょう……」



もう駄目だ、腕の無い冒険者なんてやっていけるわけがねぇ……シャロンすまん、おまえを抱きしめる腕が無くなっちまった……



「「ひゃあああああああああはははははははははは!!!」」



俺の嗚咽をかき消すように、バロンとブルーノの不快なバカ笑いがギルド内に響き渡る……





― バタン、ヒュウゥゥゥゥ



ギルドの玄関ドアが開き、一陣の風が舞い込んだ。



「何をバカ笑いしているのかしら」


「「 あ゛? 」」



風が流れ、声のする方を向けば、そこには旅服丸腰のアリサの姿が。



「アリサ、遅かったよぅ……俺の腕が……腕が無くなっちまったぁ!」


「見ればわかるわよ……あなた達、私の相棒に随分な事をしてくれたわね……」



アリサは表情一つ変えずにズンズン近づいて来る。



「へ、ケンツはもうポンコツだ、ざまぁみやがれ!で、今度はおまえの処遇だが」


「おい小娘、おまえは今日から俺達のパーティーに入れてやるぜ、毎日いい声で泣かせてやる!」


「「うひひひひひひひひひひひ!」」



俺を倒し、まるでアリサを手に入れたかのようにニヤニヤと振舞うバロンとブルーノ。


しかし、そんなもんアリサが応じるハズがない!



「願い下げだわ……縮地!」



― ブンッ!



「「ひゃーっはっはっ!! …… あ゛?」」



― ザンッ!


― ボトボトッ……



「なっ!?」



いつの間に移動したのか、アリサは俺の目の前に移動していた。


しかもまた白銀の鎧を纏い聖剣を握ってやがる!?


そしてまたしても腕が床に転がった。


ただし今度は俺の腕じゃねぇ!?



― ぴゅーーーー



ブルーノとバロンの斬られた腕の切断面から、噴水のように勢いよく血が吹き出す!



「ぎゃああああああああああああああ!!!」

「俺達の両腕がああああああああああ!!!」



い、一体いつ斬った!?いや、そんなことより……


俺は人の腕を切り落とすのに、表情一つ崩さず淡々とやってのけたアリサに対して、初めて戦慄を覚えた。


こ、こいつかなり人斬りの場数を踏んでいるに違いねぇ!



「あなた達、叫んでいる余裕なんてあるの?早く教会に行って腕をくっつけて貰わないと一生腕無しよ?まあ私の知ったことではないけれど」



「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいい!」

「おおおおお覚えてやがれ!おいおまえら、俺達をさっさと教会に運べ!腕を忘れんな!」


「「「へへへへ、へい!!!」」」



バロンとブルーノ、そしてその仲間は大慌てで切り落とされた腕を拾い、教会へ走って行った。




直後――



― ボシュッ!



凄まじい怒気を放つアリサ!


『何か文句があるならかかって来い!』


とばかりに冒険者やギルド職員を睨み一喝する!



― ギンッ!



アリサの怒気に当てられ、それまでヘラヘラしていた冒険者や職員たちは、一斉に目を背け黙り込んでしまった。



「ひいぃぃぃぃぃ……」



ベラは腰を抜かしてへたり込み、床を生暖かく濡らしている。


この失禁担当受付嬢め!





「ケンツさん大丈夫?……なわけないよね」


「へ、へへへ……ざまあねーや。俺はもう終わりだ、腕を失っちまった……これじゃ冒険者資格も剥奪されちまう……すまん、アリサとの約束は守れそうにねーわ……」


「いいえ、約束はキッチリ守ってもらうわ。セイクリッドヒール完全回復!」



―キュルルルルルルル……



「な、なんだ!?」






アリサが発したキラキラと金色に輝く美しくも優しい粒子。


その金色の粒子が俺の身体を包み込み、そして……



「どう、もうなんともないでしょ?ああ、多少貧血のはずだから何か肉気の物を食べた方がいいですよ」


「へ?…………おおお!俺の腕がああああああああ!!??」



――ある!?



なんと!バッサリ切り落とされたはずの俺の腕が、完全に回復していた!


いや、切り落とされる前よりなんか調子がいい!なんでだ!?


はっ、これか!


頸椎を折られて、死の直前だった俺を助けた回復魔法(ヒール)は!?



「アリサ、あんた一体なにものなんだ?」


「通りすがりの魔法騎士(マジックナイト)ですよ?」


「そんな訳あるかーーー!」



そうツッコミたかったが、恐らくはアリサ自身何か訳ありなんだろう。


なんせ【逃亡者の都】と名高いダバスの街からはるばる来たんだ。余計な詮索はしない方がいいんだろうな。


だけどいつか暴いてやるぜ。


だが今は自分の事だ、昇級試験に向けて集中だ!




こうして俺の腕は無事復活!


急いで肉料理を食らうだけ食らい、午後からの昇級試験に臨むのだった。


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