013 第六話 イジメは続くよ何処までも 01


アリサと行動を共にするようになってから三日目、俺の身なりは劇的に改善した。


それまでは



ゲロを吸い込んだ酸っぱい上着

酒場の裏通りのような小便臭さが漂う破れたズボン

錆びて機能しなくなった魔法付与剣(エンチャントソード)

穴の開いた革靴(非常食兼用)

汚れてくっつき合い、幾つもの紐状になった長い頭髪

泥を塗りたくったようで、実はゲロと鼻水の混合物天然ファンデーションがこびりついた顔



これがつい二日前までの俺。


ケイトが俺と話した後は、必ずえづいて必死になって臭い消しを吹きまくっていたけど、決して嫌味じゃなかったんだな。


こりゃ誰もが俺をゴミを見る目で見るはずだわ……だってゴミだもん。


身なりがこんなだと、宿もゴミ箱みたいな宿しか借りれなかったし……


身なりがこんなだと、まともな仕事を受けさせてくれない。


底辺へ底辺へと沈みゆく負のスパイラル状態だった俺……


アリサも最初は浮浪者が死にかけていると思っていたらしい。


こんな俺にも平等に接してくれてありがとうな、いつかアリサもケイトも俺のハーレムに入れてやるから期待してくれ!



で、今の俺の状態はというと……



新品の剣士の服

新品の剣士のズボン

新品の魔法付与剣(エンチャントソード)

新品の頑丈で動きやすい剣士の靴(非食用)

サッパリと清潔感溢れる短めの頭髪



どこからどう見てもイケてる魔法剣士だぜ!


し・か・も


二日前までの俺の全財産マイナス20万ルブル。

今現在の俺の全財産プラス120万ルブル!?


信じられるか!?


借金持ちのゴミのような俺が、わずか3日で120万ルブルも大金を持っているんだぜ!


一昨日、昨日午前、昨日午後、今日午前、全て塩漬け案件を受けて速攻クリア!


そりゃお金も溜まるってもんよ。



ああ、お金があるっていいなぁ……


もうレストランの裏でゴミ箱漁りしなくていいんだもん。


浮浪者達とゴミ箱の縄張り争いとかしなくて済むんだぜ!


安宿にあぶれて真冬に公園で寝泊まりして、酔っ払いにゲロと小便かけられることもないんだ!


もうあんな惨めな事は俺の人生において起こらねぇ!


なんせコッチにはアリサがいるんだ。あの子がいる限り俺は衣食住には困らない!


想い人の存在?バカ言うな、あの子は絶対に離さねぇ!


なに?

他力本願でカッコ悪い?

クズのヒモ野郎?

プライドは無いのかって?


バカ野郎、プライドじゃ飯は食えないことを、俺はこの一年で学んだんだよ!





で、今、俺は冒険者ギルドに来ている訳だが、実は午後から冒険者昇級試験を受ける事になっている。


アリサが揃えてくれた剣や衣類に変えてから、やたらと身体の調子がいい。


この一年、ゴミのように暮らしてはいたけど身体は鍛えていたからな。


食べるものが極端に減った事もあって、余分な脂肪が全く無くなった。


おかげで素早さだけは上のランクとタメを張る自信はある。


だから今なら二級冒険者昇格も果たせるんじゃないかと思ったんだ。


アリサにも昇級試験を勧めてみたが、あの子は頑(かたく)なに拒んだ。


あいつなら一級昇格は間違い無し……いやいや特級だっていけると思うんだがなぁ?


そのアリサはビラ配りだとかで、今日の塩漬け案件を済ました後、街角に出て消えた想い人の人相書きを街行く人に配っている。


ただその人相書き……悲しいかなヘタッピで、一枚一枚の顔が全然違う。


流石のアリサも絵の才能だけはなかったようだ。


ほんと健気(けなげ)だよなぁ、だけど現れてくれるなよ、想い人くん!


悪いがアリサは俺がもらったぁ!





「おーい、ゴミムシ」

「ゴミムシが人間様の服を着てんじゃねーよ」



濁声(だみごえ)と甲高声(かんだかごえ)の不快なハーモニー……


ギルドでもっとも相手にしたくない奴らに俺は呼ばれてしまった。



二級冒険者パーティー〈天翔ける雷光〉を束ねるリーダー、バロン。


同じく二級冒険者ブルーノ。


どちらも俺を目の敵にする天敵……



「なんだよ……」


「聞いたぜゴミムシ、今日昇級試験なんだってなぁ?」


「だったらなんだよ……」


「別にぃ、ところで今日は例の可愛らしいお嬢ちゃんはいないのかい?」


「アリサならいないぜ、街に出た」


「へへへ、そうかい……」


「あの雷お嬢ちゃんはいないってか……」


「だからなんだよ……」


「だからじゃねーんだよ!おまえみたいなゴミムシが昇級試験受けていいワケねーだろ!」


「二級冒険者昇級試験だぁ?ふざけんなよ、ゴミムシの分際で俺達と同じ階級(クラス)だなんてあり得ねーんだよ!辞退しろ、いいな!」


「おまえらに指図される云(い)われはねーだろ!ほっといてくれよ」


「そう言う訳には行かないなぁ」


「ああ、試験会場に害虫を入れるワケにはいかないだろう」


「害虫はやっぱり……」


「駆除しねーとなぁ……」



― にたぁ……



恐ろしく陰険陰湿(いんけんいんしつ)で歪(いびつ)な笑みを浮かべるバロンとブルーノ。


明らかに何か企んでやがるな。



「テメーらいった何を……ぐっ!?」



― ガシッ!



突如俺は後ろから複数の男達から羽交い絞めにされ、テーブルに伏せつけられてしまった。



「へっへっへっ」

「動くなよケンツ」

「暴れるな、オトナシクシロ!」



バロンとブルーノの仲間の仕業か!?



「よーし、そんじゃ腕だせ」


「な、何をするつもりだ!」


「なーに、殺しはしねーよ。二度と剣が握れないよう腕を切り落とすだけだ」


「心配すんな。おまえんとこのお嬢ちゃんに頼めば、血ぐらい止めてくれるだろうよ、ぎゃははははは!」



バカな!?


いくら俺の事が気に入らないからって明らかにやりすぎだろう!



「や、やめろバカ!おいケイト!来てくれー!」



しかしケイトは試験会場の準備に外に出ている。


いま受付に居座っているのは、最悪の受付嬢ベラ!



― にちゃぁ……



ベラは、糸を引くような歪な微笑を浮かべながら、ゆっくりと首を掻き斬るゼスチャーを俺に送った。


だめだ、今このギルド内に味方は一人もいねぇ、これはやられる!



「「じゃあな、腕ちゃん♪」」


「やめてくれええええええええええええええええ!」



― ザンッ!



しかし俺の必死の願いを無視して、ブルーノの凶刃は容赦なく振り下ろされてしまった。



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