012 第五話 バークの回想 02


Sideバーク


それから日が経つにつれ、この黒い魔石の効果がわかってきた。


この魔石はバフとデバフ、両方の効果を持ち、自分とパーティーメンバーをかなりパワーアップさせる。


逆に敵に対しては弱体化させるようだ。ただデバフに関しては、まだまだ開花途中らしい。


それに俺自身の力もかなり底上げされている。


その日を境に、俺の所属する三級冒険者パーティー〔一番星ファーストスター〕は、俺の加護によりメキメキと力を上げ大活躍!


そして僅かな期間で一級冒険者パーティーへとのし上がったのだった。


もうこれは黒い魔石アイテムの効果と言うより、邪竜の祝福ドラゴンギフトと呼んで差し支えないかもしれない。





「これなら俺も、冒険者として十分やっていけるぞ!」



そんな事をぼんやり考えていた頃、俺は何故か一番星ファーストスターから追放。


ケンツさん達は俺の加護から離れてしまい、一気に落ちぶれてしまった。


やがて始まるケンツさん達に対するギルド内でのイジメ……




リットールは閉鎖的な社会だ。


そこに住む人々は常に人の目を気にして生活している。


ただ生きているだけで過剰なストレスを抱えてしまう。そんな土地柄だ。


だからガス抜きを出来るような事案があれば、多くの者は嬉々として叩いて鬱憤を晴らす。



今回はケンツさん達がガス抜きの的にされてしまった。


イジメを恐れてケンツさんの元を離れたキリスとキュイ。


彼女達も依然としてイジメの的にされている。


俺は二人に声をかけ保護することにした。


保護すること、それはすなわち俺が冒険者パーティーを立ち上げるということだ。


パーティーメンバーとなり、俺の加護に入ったキリスとキュイは再び輝きを取り戻した。


そして決して自分から望んだわけではないが、二人が俺の女になるまでそれほど時間はかからなかった。




だけど俺が本当に欲しかったのはシャロンさんだ!


もちろんケンツさんとシャロンさんの仲を引き裂いて略奪!――なんてゲスなマネはしない。


それに、きっと引き裂いて略奪しても、シャロンさんの心は動かない。


シャロンさんはケンツさんに一途な人だから。



しかしシャロンさんに対するケンツさんの態度は余りにも酷い。


落ちぶれたケンツさんの鬱憤はDVとなり、シャロンさんに向けらているようだ。


日を追うごとにボロボロに傷つくシャロンさんを見て、俺はもう我慢できなくなった。




「お久しぶりですバークさん。私になんの御用ですか」


「シャロンさん、随分やつれちゃったね。実は今日は君をスカウトに来たんだよ」


「スカウトですって?」


「そうだ、ケンツさんはもうダメだ。どうやっても浮かぶ事はもうない。だが君まで一緒に沈んでいくのは見てられないんだ。だからどうだろう、僕のパーティーに入らないかい?もちろん身体が目当てとかじゃないよ。純粋に君の力を貸してほしいんだ」



結果は見えていた。


シャロンさんがケンツさんを見捨てるはずがない。



「お気遣いは有難いのですが、この話は聞かなかった事にして下さい……」



やはり駄目だったか……


しかしここで奇跡が起きた!



「シャロン、おまえはパーティーをクビだ、バークの元で可愛がってもらいやがれ!」


「ケンツ、違うの!誤解よ!私がバークと会っていたのは……」


「関係ない!おまえは俺に内緒でバークと会っていたんだ。それだけで別れるには十分な理由だ!」


「そんな、嘘でしょ!私はケンツだけを想って……」


「おいバーク!」


「ケンツさん、シャロンさんの言うことは本当だ、誤解なんだよ」


「そんな事はもうどうでもいい。シャロンの事を頼む……」



なんとその場にケンツさんが乱入して、シャロンさんと別れてしまったのだ。


もう自分でもどうしようもないことを自覚していたんだろう。


ケンツさんは泣き叫ぶシャロンさんを俺に託して去ったのだった。



それから半年が経った頃――


シャロンさんの心には、未だ俺の姿は無い。


復縁を望むシャロンさんは、ケンツさんの姿を見かける度に縋ろうとした。


だがケンツさんに対するギルド内でのイジメはますます苛烈になり、とても復縁が叶う状況ではない。


ケンツさんはそんな自分の状況を理解しているからなのか、それとも意地のせいなのかは分からないが、とにかくシャロンさんを無視し続けた。


そして全く振り向いてくれないケンツさんの態度に、もうシャロンさんの心は壊れかけていた。


このままではシャロンさんの心は本当に壊れてしまう、なんとかしないと。


それにやはり俺はシャロンさんの事が好きだ。諦めきれない。





俺は意を決し告白!


そして抵抗するシャロンさんと強引に関係を迫った。


最初は嫌がっていたシャロンさんだが、やがて抵抗しなくなり俺を受け入れた。


もう大丈夫、シャロンさんは俺の女になった!これからは俺がシャロンさんを守る!


あの日の晩はそう思ったんだ。


だが、それは大きな過ちだった……





翌日からシャロンさんは、俺に対して完全に心を閉ざしてしまった。


いや、俺だけじゃない。誰に対しても心を閉ざしてしまったんだ。


もうシャロンさんは決して心を開こうとはしない。


シャロンさんはギルドの仕事には今まで通り活動してくれる。


話し掛ければ受け答えをする。


だがそれだけだ。


その瞳には光は一切宿っていなかった。


一瞬、瞳に光が戻りかける時があるのは、やはりケンツさんの姿を見かけた時だけ。だけどその光もすぐ潜める。


シャロンさんは俺と関係を持ってしまった罪悪感から、ケンツさんに目を合わすことが出来なくなってしまった。


追いすがろうとすることも無くなった。


シャロンさんの心は壊れ、その壊れた心さえも消えつつあった。


壊れた心まで消えてしまった後、シャロンさんはどうなってしまうのだろう。


全て自分のしでかした軽率な行動のせいだ……



後悔しかない。俺はどうすればいいんだろう……






『そんな簡単なこともわからないのか?』



俺の胸中から誰かが語りかけた気がした。







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バークさんの回想はこれにて終了。

お話はケンツさんに戻ります。

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