009 第四話 魔法騎士(マジックナイト)アリサの事情 01



「お断りします」



アリサは俺の申し出を躊躇なく断った。


そりゃそうだろう、出会って10分そこいらの関係で承諾して貰えるわけがない。


もしこれで承諾して貰えるようなら、かなり頭が弱い子だ。



「待ってくれ!話を聞いてくれ!おいケイト、ちょっと頼む!」



俺一人では何も信じて貰えないと思い、このギルドの中で唯一中立公平を守る受付嬢のケイトを呼び出した。



「ケンツさん、どうかされましたか?」


「ケイト、すまんが俺の身に起きたことをアリサさんに説明してやってくれ!俺はどうしてもこの子とパーティーを組んで這い上がるんだ!そしてシャロンを取り戻すんだ!」


「はぁ?」


「いえ、そうゆうの本当に結構ですから……」



何やら訳ありなことくらいは察してくれたアリサだが、彼女にも優先すべきことがあるのだろう。アリサの態度は変わらない。



「ここじゃ注目を浴びているので奥に行きましょうか。アリサさんも来てください。先程の問い合わせにも一緒にお答えいたしますので」



どうやらアリサは俺を助けたあと、何かケイトに問い合わせていたらしく、その時間待ちの間に食事をしていて冒険者どもに絡まれたようだ。


俺とアリサはギルドの応接室へと通された。





「――というような事がケンツさんの身の上に起きたのです。彼は今どん底です。そこから這い上がって愛するシャロンさんを迎えに行きたい……とケンツさんは思っているのですよ」


「そ、そうなんだよ!だから頼む!あんたの力を貸してくれ!俺にチャンスをくれ!」


「お気持ちは御理解致しますし同情もします。ですが返事はノーです」



アリサは眉一つ動かさずに断りやがった。



「なぜだ!アンタには俺の気持ちが伝わらないのか!?あんただって想い人と引き離されたら必死になるだろう!わからないのか!!」



みっともない事に俺は逆切れしてしまった。


こんなもん誰が頼んでも普通断る案件だ。



― ピクンッ



アリサの方眉が僅かに跳ねた。



「わかるわよ!想い人と引き離されたのが自分だけだと思っているの!?私だって必死でユーシスを探しているの!だから邪魔をしないで!」



今度はアリサが切れた。


それまでの能面のようなアリサの表情が一気に怒りを剥き出して、そして涙が溢れ出した。


彼女は遠く離れた【逃亡者の都】と呼ばれる街ダバスに住んでいたらしい。


それがすぐ近くのラミア大神殿の転送事故に巻き込まれ、想い人【ユーシス】が何処かへと飛ばされてしまったそうだ。


彼女はその想い人を追って、ラミア大神殿からアドレア連邦のラミア遺跡に飛んできたらしい。



「そうだったのか、すまねぇ……無理に誘って悪かったよ。おりゃ昔から自分の事しか見えなくてよ、他人を巻き込んでは迷惑ばっかり掛けてるんだ。そんな俺をシャロンはずっと支えてきてくれたんだ。やっぱり俺は一人じゃ駄目なんだなぁ……シャロンがいなきゃ俺はだめなんだ……シャロン……うあああああん!」



号泣するアリサの前で、俺も同じように号泣してしまった。



「ひっく……ひっく……」

「ううう……」



二人して泣き止んだ頃――



「えっともういいですかね、アリサさんのお問い合わせの件なのですけど」


「あ、はい……取り乱してすみませんでした」



ケイトがアリサの問い合わせについての説明をするようだ。


何を問い合わせたのか少し興味がある。



「お問い合わせに合った【国定自然公園ラミアの森・フォレストラビットの討伐】の依頼書の件ですが、アリサさんはお受けできません」


「なぜですか!?あれは五級以上の冒険者なら誰でも受けられるはずです!」



元々アリサはギルドの仕事など通さず、勝手にラミアの森に入ろうとしていたそうだ。


しかし森の周りには結界が張られており無断立ち入りは難しい上、常に森林保安官の目が光っている。


外国籍のアリサにしてみれば、森林保安官相手に目立つ事をするのは好ましくない。


彼女の母国であるスラヴ王国と、俺達のアドレア連邦の関係は決して良好ではないからだ。


そこで現地の森林保管官に合法的にラミアの森に立ち入る方法は無いかと尋ねてみたところ、ラミアの森の害獣、フォレストラビットの討伐依頼をギルドに出していることを聞きだし、この冒険者ギルドに来たという訳だ。



「【ラミアの森】はアドレア連邦の特別自然保護区です。立ち入り許可を貰えるのはアドレア連邦の国籍を持つ者だけ……それ以外は無理なのです」


「そんなぁ……」



アリサの目からスゥっと光が消えていく。



「なあアンタ、なんで【ラミアの森】に固執するんだい?良かったら話してくれよ。もしかしたら力になれるかもしれないぜ」


「ラミアの森にあるラミアの祠(ほこら)に行きたいの。もしかしたらそこにユーシスが飛ばされたかもしれないのよ……」


「ユーシスってのはアンタの想い人かい?まさかアドレア連邦内のラミアの遺跡を全て回るってのか?」



アリサは頷いた。



「そうよ、ユーシスは私の大切な人……彼が飛ばされたラミア遺跡というのはある程度絞られているのよ……次が私が探す最後のラミア遺跡なの……ここで飛ばされた痕跡が無ければユーシスは……」


アリサの身体がガタガタと震えだす。


可哀想に、それほどまで想い人のことを……


小さく震えるアリサを同情しつつ俺は思った。





僥倖(ぎょうこう)だ!ひゃっほう!


(*僥倖とは【思いがけない幸運】とか、そんな感じの意味である)





不謹慎かもしれないが、俺は悲しみに暮れ、ガックリと項垂れるアリサを前に喜んだ!



「おいケイト、そのラミアの森への立ち入りなんだが、アリサは無理でも俺なら可能だよな?」


「ええ、問題ありませんよ。不人気物件なので他の冒険者との競合もありませんし……ケンツさん、まさかアリサさんに代わってラミアの森に?」


「ちょっと違う。俺のパーティーにアリサを入れて、俺の名で【ラミアの森・フォレストラビットの討伐】の依頼を受けてやるんだよ!そうすりゃアリサもラミアの森に入れるんじゃないのか?」


「そんな事が可能なんですか!?」



アリサが驚いた顔で俺を見る!


いいぞアリサ、もっと俺を見てくれたまへ!



「で、どうなんだ?」


「はい、それなら可能です。アリサさん如何いたしますか?ケンツさんのパーティーに所属しますか?」


「もちろんです!ケンツさん、ありがとうございます!」


「よっしゃ決まりだ!じゃあ【ラミアの森・フォレストラビットの討伐】は新生〔一番星ファーストスター〕が受けるぜ!」



こうして冒険者パーティー〔一番星ファーストスター〕は、アリサという新戦力とともに新たな出発を迎えたのだった。

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