008 第三話 ケンツの堕落とフードの少女 04


モグモグとテーブルに運ばれた食事を食べ続ける美少女。


少し濃い栗色の髪に地球色の瞳アースアイ、豊かな双丘とそれに見合う抜群のプロポーション、およそ冒険者に似つかわしくない旅人用の服。


剣やロッドの類は持っていない。


ただロングサバイバルナイフが一本だけ腰にあった。


強めのヒールが使えることから聖属魔法の使い手のように思ったが、今のとんでもない雷撃魔法はいったい……?



「いつつ、よくもやってくれたな…てめぇ、もうただの犯し方じゃすまさねぇぜ!」



なんと、今のとんでもない雷撃を食らって起き上がる奴がいた!


冒険者パーティー〈天翔ける雷光サンダースカイ〉を束ねるリーダー、バロンだ。


こいつは剣士でありながら雷撃魔法も操るマルチファイター。


昔は俺に媚びへつらっていたが、今じゃ俺を見かける度に殴るか雷撃を食らわせてきやがる。


雷撃系の攻撃に長けていたからある程度抵抗レジストできたのか。



― パリッ、ジジジジジジ……



バロンの周囲が帯電しはじめ――



「食らえ、必殺のギガボルト中級雷撃!」



― ガラガラドゴーン!



閃光とともに、雷が美少女を襲う!



「ふん」



― キン! パシュッ……



しかしバロンの放ったギガボルト中級雷撃は、美少女に当たる直前で消滅した。



「バカな、俺のギガボルト中級雷撃が効かないだと!?」


「今のがギガボルト中級雷撃?…ごめんなさいキロボルト初級雷撃かと思っちゃった」



決して嫌味ではなく素で驚く美少女。それがよほど癇に障ったらしい。



「舐めんな、ガキぃ!」



自慢のギガボルト中級雷撃キロボルト初級雷撃扱いされたバロン!


顔を真赤にして抜剣した!



テンタクルローズ鋳薔薇の触手



しかし美少女は恐れるそぶりは全くなく、ボソリと呟いた途端、バロンの足元がら無数の鋳薔薇(イバラ)が現れ体中に巻き付いた。



―ウネウネ……ギュリリリリイィ!



「ぎゃあああああ、いてててて、なんだよこりゃ!?」


「見ての通り鋳薔薇の触手だけど?もがけばもがくほど鋳薔薇の刺が食い込んでいくわ。早く外さないとそのうち植物毒で刺さった箇所が壊疽を起こすけど……どうしたい?」


「わ、わかった!悪かった!勘弁してくれ!」



美少女は“ふん”と鼻を鳴らすと鋳薔薇の触手は掻き消えた。


こいつはエルフなんかが使う植物魔法プラントマジックか?


この子の正体がますますわからなくなってきた。



「うぅ…」



他の雷撃食らってぶっ倒された奴らも目覚め始め、俺達と距離を置き始めた。


さすがに俺達にチョッカイを掛けようとするやつはもういないようだ。




「さっきはありがとう。おかげで命拾いしたよ」



ようやく場が落ち着いた所で、俺は彼女に助けて貰ったお礼を言った。



「あ、いえ…それよりどうして冒険者達の目の敵(かたき)に……何か悪い事でも?……ていうか……あなた凄く臭い!少し離れて!」



― おえ



悪臭にえづき、食べた食事を吐きそうになる美少女。


そんなに臭いのか?地味に堪えたぜ……



「すまねぇ、もう何日も風呂に入っていないんだ。俺の名はケンツ、三級冒険者でジョブは魔法剣士マジックサーベルマンだ。俺は殺されるような悪い事はしちゃいねぇ、本当だ!」


「初めましてケンツさん。私の名はアリサ、二級冒険者でジョブは魔法騎士マジックナイトで登録しています」


「ま、魔法騎士マジックナイト?」



意外過ぎる美少女の正体に俺は声を裏返して驚いた。

 


「いや、魔法騎士マジックナイトって、あんた剣を持ってないじゃん」



アリサと名乗る美少女の井出達は、どう見ても魔法騎士マジックナイトではない。



「はい、これ」



アリサは少し考える素振りをしたあと、少々面倒な顔をしながらギルドカードを提示した。



名前 アリサ

ジョブ 魔法騎士

等級 二級上位

登録 スラヴ王国デボート支部(オリヨールにて申請)

国籍 スラヴ王国



「スラヴ王国?……あんた、外国人だったのか!?」


「し、声が大きいです。こんな人達ばかりでは、素性はあまり知られたくありません」


「ああ、すまん。それもそうだな」



彼女の素性を確認して、ギルドカードを返した。



「それじゃケンツさん、お体に気を付けて」



彼女はカードを受け取り、食事を済ませると席を立った。



「ま、待ってくれ!」


「まだ何か?」


「俺とパーティーを組んでくれ!頼む!!」


「 !? 」



俺の直感が訴える。


今のクソな生活から這い上がりたいのなら、今すぐ目の前の美少女と組めと!


這い上がりさえすれば、俺はシャロンを迎えに行ける!


もう少し待っていてくれシャロン!


俺はこの子と組んで、必ず這い上が――



「お断りします」



ですよねー。


俺の願いは、いともあっさりと拒否された。



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