007 第三話 ケンツの堕落とフードの少女 03



「てめえ、余計な事しやがって」

「せっかくケンツの野郎が死んだと思ったのによう」

「なんとか言えよ、おら!」



流石に背筋がゾクリとした。


あいつらは昔俺が弄ったやつだ。しかし弄ったと言っても軽くおちょくった程度で手を上げたことは一度も無い。


なのに、あいつらは俺に対して明確に殺意を持っている。


俺が死にぞこねたことを明らかに不快に思っている。


何で俺は死んでいいと思われにゃならんのだ。


改めて考えると悲しくなってくるぞ。


リットールの閉鎖的な習慣が、差別心を増長させてしまうのだろうか。



「おい、おまえらやめろ!その人に手を出すな!」



俺は思わず大声を上げて飛び出してしまった。


しまった!と思ったがもう遅い。


連中の矛先が一斉にこちらに向いた。



「おう、お前が生きているのが全部悪い」

「だが助けたコイツはもっと悪いよなぁ」

「二人ともボコれ!喧嘩両成敗ってやつだ。ぎゃははは!」



なんだその謎理論!


それにいくらリットールが閉鎖的な小国で、余所者を良く思わないからってこれはダメだろう!



「いいぞ、やれやれー!」

「ケンツも余所者も殺しちまえー!」



周囲の野次馬冒険者達までもが『殺せ!殺せ!』とヤジを飛ばす。


興奮した冒険者達はケイトがいるにもかかわらず熱を上げる!


もうこれは収めようがない!


すまねぇ、俺なんかと関わり合ったばかりに……


こうなったら、せめてこの人だけは逃がしてやらないと!


と、俺はもう一度殺される覚悟で止めようとしたんだが……



「受付嬢さん、これ反撃しても正当防衛成立しますよね?」



フードの冒険者が初めて口を聞いた。


というか、女の声?



「あ、はい。十分成立します…ですがお逃げになられた方が…」



いつの間にか俺の後ろに来ていたケイトが、厳しい顔をしながらフードの冒険者に脱出を促す。


ケイトは腰の伸縮式警棒に手をやり、いつでも暴徒化した冒険者を鎮圧する気でいるようだ。


しかしケイトと警棒の出番は無かった。



「なんだ、おまえ女かよ、それならそうと早く言えよ!おら!」



― ビリビリ!



囲んでいたうちのひとりがフードに手をかけ強引に破る!



「 ! 」



俺は、頸椎骨折の死にかけを治癒させるヒールの使い手と聞いて、神官もしくは高神官、ひょっとすると大神官クラスの聖祝福降臨者(セントギフトホルダー)なのかと思っていたのだが――



「おいおい…」

「こりゃぁ…」

「ごくり…」



フードの下から現れたのは、普通の旅人の服を着た【飛びっきりの美少女】だった。


腰には申し訳程度のロングサバイバルナイフを携えている。



「へへへ、予定変更だ。余所者よそもののお嬢ちゃん、ちょと俺達とつきあ……おぶぅ!?」



―どすぅ……



ユラリと立ち上がった美少女の重い拳!


それが絡んだ冒険者の鳩尾に突き刺ささり、ゆっくりと崩れ落ちる!



「な、なんだこの女!」

「回復職じゃねーのか!?」



美少女はジロリと冒険者達を一瞥。



「面倒ね、全く…ペタボルト上級広範囲雷撃!(死なない程度の弱めで)」



― ガラガラガラ、ドッシャアアアアアアアン!



ギルド内を見た事も無い強力な雷が暴れ回る!



「うっぎゃああああ!

「るっぼおおおおお!」

「へげええええええ!」

「ぶわっつひゃああ!」

「あげええええええ!」



― バリバリバリ、ピシ……



『ぶっしゅうううううう……』



屍累々しかばねるいるいとはこの事か。


雷が収まり、ギルド内で立っているのは、俺とケイトと謎の美少女だけだった。



「受付嬢さん、壊れた物があったら私じゃなくこの人達に請求してね」



美少女は、倒れている輩達を指差したあと、再び席に座って食事の続きを始めた。

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