006 第三話 ケンツの堕落とフードの少女 02
シャロンはその後も頻繁に俺に合おうとしてきた。
が、俺は徹底的に無視した。
愛するシャロンをイジメの的にされている俺の巻き沿えにするワケにはいかねぇ。
そして半年も経った頃、シャロンもついに諦めたのか、何も言ってこなくなった。
それからさらに約半年が経った。
俺はゴミのような格安の宿を借り、ゴミのような低賃金の仕事を受け、ゴミのような目で見られ、ゴミのような生活をしていた。
時にはゴミの様な低賃金の仕事すら受けられず、ずっと公園のベンチで寝泊まりすることもあった。
負の連鎖に陥り、浮浪者のような身なりになってしまった俺……
最近バーク達は一級パーティーに昇格したらしい。
バーク自身も魔法剣士として一級冒険者のライセンスを得たそうだ。
残念ながらバーク自身がバフの使い手であることが知れ渡っているので、シャロン・キリス・キュイの三人は三級冒険者のままだが、それでも以前と違い、技の切れが生き生きとしていると聞く。
俺だけがゴミになってしまった。
「おらぁ!」
―ボコォッ!
「ごほぉ!」
「目障りなんだよ、ケンツ!」
― ベキィッ!
「ぎゃん!」
「とっとと田舎に帰れや、ゴミムシ!」
― ズムッ!
「げぼぉぉぉ!」
毎日毎日がこんな調子だ。我ながらよく生きていると思う。
俺がゴミのように狙われる理由、それは冒険者等級の虚偽登録の疑いがあったせいだ。
結局それは故意によるものという事が立証できず、不起訴でお咎めなしとなった。
ただ立証できなかったというだけで、俺は相変わらずギルドの中では疑いの目で見られていた。
その結果が連日のイジメだ。
もはやそれはギルド公認と言っていいほどで、ギルド内での暴力沙汰はご法度でも、俺だけは例外のようで誰も止めようともしない。
ギルドの職員にも相変わらず冷遇されている。
三級の依頼も受けられるようになったはずだが、俺には解決不可能な難物件しか回して貰えず、相変わらず五級以下のショボイ依頼しか受けられない。
公平に扱ってくれるのは受付のケイトくらいか。
しかし俺の身なりが浮浪者のようになると、仕事を回したくても回せなくなってしまったようだ。
冒険者にも最低限のドレスコードはあるから仕方がない。
それにしても冒険者のやつら……
嫌らしい事にケイトが受付をしている時と、バークやシャロンがいる時は絶対にイジメてこない。
皮肉なことにバークのパーティーだけが、イジメられている俺を見ると助けに入りやがる。
認めてやるよ、バークはいいやつだ。
そしてシャロン、お前はもうバークの女になったのか?……
― ゴキン!?
今までに感じた事のない鈍い音が頸椎から奏でられ、俺の首が変な方向に折れた。
「や、やべー、やっちまった!」
「おい、逃げろ!さすがにマズイ!」
ここはギルドの中だ。
流石に捕まるだろうよ。
はぁ、なんて人生だったんだ、まるでゴミのようだ。
あ、俺ってゴミだっけ。ならこんなもんか。
ちくしょう、だからってこんな事で死にたくねえよ!
……
あ、だめだ。もう呼吸できねぇ、目の前が真っ暗に……
シャロン、最後にもう一度会って話をしたかったなぁ…
シャロン…どうか幸せに…シャロン…
シャロン、シャロン、シャロ…
俺の意識は闇に飲まれた。
………………
…………
……
「ケンツさん、そろそろ目を覚ましてください、ケンツさん!」
「シャロン?シャロンなのか!シャロン!うわああああ!」
「ちょ、落ち着いて下さい!私です!受付嬢のケイトです!」
「え?あれ?シャロンは?」
「何言っているんですか、シャロンさんなんか最初からいませんよ」
「あれ?俺って首の骨を折られて死んだような?」
「そうですよ、首の骨を折って心肺停止状態でしたよ。死んだと言ってもいいでしょうね」
「じゃあなんで俺は生きてるの?」
「一言で言えば運が良かったんですよ」
俺は首を折られて死にかけていたところを、旅の冒険者が強力な
「ビックリしましたよ、私が外から帰って来てみれば、ケンツさんが冒険者に暴行されているんですもの。“ゴキンッ!”って首の折れる音を聞いてしまいましたよ」
ケイトは背筋をゾクゾクさせながら話してくれた。
「そうなのか、そりゃすまなかったな……で、その助けてくれた人は何処にいる?お礼を言わなきゃ」
「ギルド内の飲食ブースで食事をしていますよ。屋内でもフードを被ったままの方だからすぐわかります」
「あ、そう…ところで俺の首をへし折った二人組は?」
「流石に殺人未遂で警察にしょっ引かれましたよ。冒険者ライセンスも剥奪ですね」
「よっしゃ♪」
俺は命の恩人の旅の冒険者に、一言お礼を言おうとギルド内救護室から飛び出して行った。
そして俺の目に入ったのは、飲食ブースで食事をしているフードを被った旅の冒険者と、そいつを取り囲むこの街の冒険者、それも俺を好んでイジメているやつらだった。
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