003 第二話 壊れ行く一番星 02



「ちくしょう!何故だ!何故勝てねぇ!?」



翌日以降、俺達は連敗につぐ連敗を喫し、とうとうギルド長から問題有りと判定され適性試験を受ける事になった。


結果は俺を含め全員が3級冒険者相当と判断され降格となった。


もう連邦認定勇者には遠く届かない。





降格が決まった翌日から、ギルド内で俺達に対して酷いイジメが始まった。


主にイジメて来るのは、今まで俺が小バカにしていた三級冒険者のやつらだ。



「ようケンツ、話は聞いたぜ。おまえが強かったのはバークってポーターのおかげだったんだってな?おかしいと思ったぜ」


「ケンツさん、最近クエストしてます?いくら弱くなったからって働かざる者食うべからずですよ。なんならうちで雇いましょうか?ポーターとして(笑)」


「おいケンツ、今まで散々バカにしてくれたお礼をするぜ、歯ぁ食いしばれ、オラァ!」



イジメは日に日に過激になり、今じゃ四級以下の冒険者にまで陰でボロクソに言われる始末だ。






中でもこの二人――



― ドガッ!!!!

「ぐぼぁああああ!!!」


― ベキッ!!!!

「うがあああああ!!!」



俺は強烈な蹴りを鳩尾(みぞおち)に、拳(こぶし)を顔面に食らい、悶絶しながら床に沈んだ。



「はははは、いいザマだぜケンツ。テメーにゃ散々コケにされたからな!」

「ひひひひ、これから毎日イジメてやるよ、念入りにな!オラッ!」



― ドゴッ!!!!

「ぐあがっ!!!」


― グリィッ!!!!

「いぎぎっ!!!」



悶絶している俺にさらに追い打ちの蹴りをくれて来るのは、冒険者パーティー〈天翔ける雷光サンダースカイ〉のリーダーでバロン。そしてナンバー2のブルーノ。


降格前は、俺の腰ぎんちゃくのゴマスリ野郎だったが、最近共に二級下位冒険者に昇格すると態度が豹変しやがった。


こいつら、俺から甘い汁を散々吸っていたくせに……落ち目になった途端これかよ!


「なんだぁ、その目はぁ!?」

「ケンツのクセにガン飛ばしてんじゃねーよ!!」


― ゲシッ!ベキャッ!

「あぐっ!!」


ちくしょう、俺はかなり厄介なヤツらに目を付けられたらしい。



― べきぃ!

「うぐっ!!!」


「もうやめて!ケンツが死んじゃう!」



惨めに悶絶しながら転がっている俺を、シャロンが覆いかぶさって守ってくれた。



「ちっ……じゃあなケンツ。これから毎日可愛がってやるぜ。はーっはっはっはっ!!」


「シャロンさんよ、あんたもいい加減にこんな男は切ってうちに来いよ。たっぷり可愛がってやるからさ。ふひひひひひひ!」


バロンとブルーノは、ようやく去っていった。



「うう……ちくしょう……」





「ケンツさん♪」


俺が悶絶していると、誰かが俺達の前にしゃがみ込んだ。



「ケンツさん、あなたにはすっかり騙されましたよ。まさか不正昇格だったなんてねぇ……あんたなんかにスリ寄っていた自分が情けないです」



歪な笑みを浮かべて見下ろしているのは受付嬢のベラ。


薄紫の髪の一見ミステリアスな雰囲気の美人だが、その紅い目は俺に対して侮蔑の視線を投げかけている。


降格前は、その紅い目を爛々とさせながら、俺に何度も告白してきたものだが……



「違う、俺達は不正昇格なんかしちゃいない!」


「言訳は無用です。ゴミめ……ペッ!」



― べちゃり



「やめてください!なんの恨みがあるんです!?」


「シャロンさんもそんな男さっさと見限って、娼館にでも再就職した方がいいですよ~。私は個人的に娼館の斡旋もしていますので、その気になったらいつでもどうぞ~」



ベラは俺の面(つら)に唾を吐いた後、手をヒラヒラさせながら受付業務に戻った。




バロンとブルーノ、そしてベラが立ち去った後、キリスとキュイが思いつめた顔をしながら寄って来た。


そして俺の応急手当をしたあと話を切り出す。



「ケンツ君、ごめん。私もう耐えられない……」


「アタイももう無理、ケンツには悪いとは思うけど、このパーティーにいたらイジメ殺される……」


「わかった、好きにしてくれ……」



こうしてキリスとキュイは俺の元を去って行った。





「シャロン、お前も俺から離れていいんだぞ」


「何言ってんの、アンタ私が居なくなったら生活もままならないじゃない!」


「すまねぇ……」



シャロンはズタボロになった俺をそっと優しく抱きしめてくれた。


もう俺にはシャロンしかいねぇ……





しかし俺はあろうことか鬱積しつづけるモヤモヤを、シャロンへの身体に吐き続け、とうとうDVにまで発展してしまった。


連日のイジメの悔しさを、酒で紛らわすようになってから、俺は本当にクズになった。



「ケンツ、お願いだからお酒に溺れるのはやめて!もうお金だって無いのよ?」


「うるせー!おまえは黙って俺に抱かれてりゃいいんだよ、おらぁ!」



― バキッ!



「痛い!やめてケンツ、お願いだから酷い事しないで!」


「ちくしょう、みんなして俺をバカにしやがって!」



俺は愛するシャロンを犯しながら殴り続け、いつしか酒に飲まれて眠ってしまった。





翌朝――


俺は朝食の良い匂いに擽られ目を覚ました。



「いつつつ、ひでえ二日酔いだな……」



ノソリと起きて食卓に向かうとシャロンが笑顔で迎えてくれた。



「おはようケンツ!」


「おはよぅ…… おめぇ、その顔……俺、またやっちまったのか……」



シャロンの顔は明らかに殴られた後がある。


ヒールを掛けてはいるようだが治りきってはいないようだ。



「気にしないで、こんなのもう一度ヒールをかければすぐ治るから」



シャロンは何処か寂しく、それでも俺が気にしている事を嬉しく思ったのか、優しく微笑んでくれた。


俺は食卓に着いたところでハタと気が付いた。

用意されている食事が一人分しかない事を。



「シャロン、おめえの食事はどうした?」


「あ、うん。お腹が空いてたから先に食べちゃったの。ごめんね」



シャロンはそう言って自分の頭をコツンと叩いたが、どう見てもシャロンが食事を済ました痕跡がない。



「シャロン……」


「気にしないで。私平気だから……」



ポトリ……



俺は泣き顔を見せないように下を向いた。


しかしおかげで食卓の上に涙の水たまりが出来てしまった。

 

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