第4話 人物鑑定 神様印の+パック付き
掴まり立ちができるようになると、ようやく鏡とご対面だ。
今生の私は、銀色の髪に緑色の瞳をした、なかなか可愛らしい顔立ちの女児だったらしい。
……はて? 誰かに似ているような……?
誰だろう、と首を傾げると、鏡の中の私も同じように首を傾げる。
鏡を見ているのだから当然なのだが、鏡の中の
……あ、更新された。
頭の片隅でリンと鈴の音が聞こえるのは、【人物鑑定】に重要な更新があった時のお知らせだ。
最初のうちはチマチマと自力で鑑定結果を埋めていたのだが、今生もどこかから私を見ているらしい運命の神スーリディンが、見守ることに飽きたのか、焦れたのか、
おかげで、私が知らない、知りえるはずもない情報まで、この【人物鑑定】は表示できるようになってしまった。
……ええっと?
私に対して意地の悪い悪戯ばかり仕掛けてくる神だったが、神は神だ。
私がベビーベッドの上で知ることのできる情報量とは比べ物にならないほどの情報を持っている。
試しに自分を【人物鑑定】してみると、プロフィールに追加された私の容姿についての記載『緑色の瞳』の部分だけが太文字になっていた。
……緑の瞳は花の女神メンヒリヤの加護を持つしるし?
はて、初めて聞く話だ。
瞳の色に神の加護が現れるだなんて、初めて知った。
それから一つ思いだす。
……花の女神メンヒリヤ、で思いだした。この顔、メリヤ様の子にそっくり……。
波打つ黄金の髪に、翡翠のように輝く美しい瞳をしたルーナティのメリヤ王女。
今では神話の時代と数えられ始めた千年前に、ソル・イージスの横にあった小さな国の王女で、アレス王子の妻になる予定だった女性だ。
そんな女性の産んだ子どもなら、普通はアレス王子の子か、と考えてしまうが、違う。
神話の時代は現代のルーナティ王国とも、日本やネクベデーヴァとも常識や考え方が違った。
現代でなら王族の伴侶には純潔と貞淑さが求められるが、当時はまず『子どもを産める体である』と証明できることが重要だった。
王族の伴侶になるからといって、処女であることは求められなかったのだ。
そのため、一度だけ見たことのあるメリヤ王女の子は、アレス王子の血を引いていない。
……小さなルーナティが、千年で大きくなってルーナティ王国だもんね。どこかでメリヤ様の血が入ってるのかな?
綺麗な女性だったが、リディには少し厳しい人でもあった。
アレス王子の妻になる人、と考えれば言えなかったのだが、なんとなく苦手意識がある。
……まあ、いいか。色も髪質も違うし。
メリヤ王女は波打つ黄金の髪をしていたが、私の髪は銀のサラサラストレートだ。
緑の瞳と顔つきは似ているが、目に付く髪の毛の印象が違うので、意識しなければそれほど似ているとも思わずにすむだろう。
子守メイドとして働きに出ている社会人、というと大人を想像するが、ミーサは八歳の少女である。
私の遊び相手兼、掴まり歩きをする際の杖役として雇われたようだ。
大人が赤ん坊の杖代わりになるには、腰への負担が大きすぎる。
その点、まだ少女であるミーサなら腰は痛くならない。
ただ、腕力的に赤ん坊を長時間抱くことは不可能だった。
「お嬢さま、そろそろお部屋にかえりましょう」
「やー」
まだ部屋を出てから隣の部屋へも辿りついていないじゃないか、とミーサへと視線も向けずに不満の声を出す。
やっと掴まり歩きができるようになった程度の赤ん坊なので、流暢に話すことなどできない。
頭の中でどれだけ真摯にものを考えていたとしても、自然に口から漏れる言葉は「あー」とか「うー」といった単純明快な音だけだった。
……お散歩大事だよ! 体力作り、体力作り。
自分のステータスが確認できるおかげで、動けば動くだけ、体力や筋力が付いてくるのが判る。
目に見える結果が楽しいということもあるが、私の人生の目標はアレス王子の石化の呪いを解くことだ。
そのためにはアレス王子の元まで旅をする必要があるので、体力作りを今から始めておくのは悪いことではない。
体力が尽きるまで廊下を歩き、その場で寝始めた私を乳母が抱き上げて部屋まで帰る。
昼寝のあとはこっそりと魔法の練習をした。
あまり目立つ魔法を使うとマーサが驚くので、今練習しているものは目に見え難いものが多い。
筋力をアップしてミーサと紐の引っ張りっこをして遊んだり、繕い物をするミーサの指を癒したりと、本当に『こっそり』だ。
夜中に目が覚めた日は、誰かを起こすのも忍びなかったので、眠くなるまで【人物鑑定】を読む。
運命の神スーリディンの知識が共有されているため、意外に読み物として面白いのだ。
……髪の毛に得意な魔法属性が、瞳に神様の加護が出るってのは、神様情報だからこそだね。
普通の人間では、まず気付けない情報だっただろう。
私の瞳とメリヤ王女の瞳が緑色なのは、花の女神メンヒリヤの加護だ。
ただこれはほとんど連想ゲームのようなもので、必ずしも緑の瞳=花の女神メンヒリヤの加護ではない。
新緑を連想する春の女神、青葉の茂る夏の女神、変化球としては薬草からくるのか薬術の神なども、緑色の瞳に加護が宿るそうだ。
……アレス様の金の瞳は、太陽神の加護だったのか。
思い返してみれば、アレス王子とその親族たちはみんな金色の瞳をしていたと思う。
あの瞳の色こそが、ソル・イージスの王族たるしるしだったのだろう。
というよりも、ソル・イージスの『ソル』は太陽神ソルヴァーユから名を戴いている。
周辺にはルーナティの他に三つの国があったが、その国もまた『ソル』の名を戴いて、太陽神ソルヴァーユを主神として崇めていた。
……黒髪は得意・不得意なし。基本属性はすべて才能あり、と。
つい自分のことよりもアレス王子に関することを調べてしまうのはなぜだろうか。
魔法についてはとくに自分のことを調べる方が先だと思うのだが、どうしてもアレス王子を優先してしまう自分がいた。
……黒髪と茶髪は多いけど、みんな才能ありなんだ?
前世の自分は何色だったか、と考えて、栗色の髪の毛をしていたことを思いだす。
運命の神スーリディンの知識によれば、栗色もまた魔法の才能がある、ということだ。
というよりも、髪の色は大雑把に分けると赤、青、黄の三種類で分かれ、濃淡で才能の有無がわかるのだとか。
つまり、アレス王子の黒髪は全色が混ざった上に色がとても濃い。
魔法の才能はおおいに有り、となるが、黒髪は珍しくないので、逆に才能のない人間の方が珍しい、ということだろう。
では、今生の私の銀髪はどうなのか、となるが、これはまた少し扱いが違ってくる。
銀は特別な色で、いわゆる聖属性というものだ。
神の力を預かり、降ろすことができるらしい。
つまり、運命の神スーリディンに愛されまくっている影響だと思われる。
銀髪に加え、瞳まで銀色になってくると、神子として神域から迎えがくるそうだ。
巫女になると神域で神に仕え、時折神の言葉を降ろす神の代弁者となるのだとか、なんとか。
この辺の記述が曖昧なのは、運命の神スーリディンの興味の有無が原因だ。
当人が神の一柱であるため、神や巫女、神子といった存在に対して興味が薄い気がする。
神にとっては当たり前すぎて、わざわざ記載することでもないのだろう。
これは完全に余談になるが、【人物鑑定】からは運命の神スーリディンの項目を見ることができる。
それによると、運命の神スーリディンのいわゆる『推し』はこの千年間変わっていない。
千年間変わらず、私こと『リディ』推しだ。
神の寵愛がある、と普通なら喜ぶべきことなのだが、かの神はその性質上、愛されると波乱万丈な人生がもれなく付いてくる。
喜んでいいのか、嘆くべきなのかは、最期の時まで判らないだろう。
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