第3話 ネクベデーヴァ製ステータス

 乳児にできることなどほとんどないので、一日を無為に過ごす――のはもったいない。

 体力づくりも筋トレもできない身ではあるが、頭を使う仕事ことはできるのだ。

 

 ならば、とこの世界で使える魔法についてをいろいろと試していく。

 なにができるのか、できないのか。

 魔法を使ったあと、人体にどのような影響があるのか。

 知りたいことは山ほどある。

 

 ……なんて思っていたんだけど。

 

 魔法については試しておきたい。

 そんなことを考えていたのだが、魔法については考えない方がいい。

 むしろ、考えるだけ無駄だ、という結論に一瞬で達してしまった。

 というよりも、試せば試すだけ、試したことができてしまうのだ。

 

 これはマズイ、と思って、まずは(仮)でいいので基準を作ることにした。

 基準といっても、今の私には比べる相手がいないので、私自身が基準だ。

 

 ……えっと、まずは参考までにネクベデーヴァの『ステータス』を基本に借りてこよう。

 

 すでに前世どころか前々々世と数えても足りないほどだが、面倒なので前世と呼ぶ。

 前世で生きたネクベデーヴァには、いわゆる『ステータス』という仕組みがあった。

 誰が作ったのか、といえば、神様が世界樹の神子のために面白半分で作ったらしい。

 基準が神様基準すぎて、あまり参考にならない、というのはその世界樹の神子様の弁だった。

 

 ……ネクベデーヴァのステータスに、『神子様パッチ』をあてて?

 

 神様が作ったというネクベデーヴァの『ステータス』は、基準がとてもザックリしている。

 一般人のレベルが1で、英雄・達人レベルで5だ。

 これでは人間の輪の中で利用するにはあまり役に立たない、ということで神子様が数値を少し整えたのが『神子様パッチ』だ。

 これをあてると一般男性の平均レベルは5前後になり、兵士や冒険者といった戦闘を職とするものは上限が99になり、三桁に突入したら英雄・達人レベルだ。

 

 ……とりあえず、今の私のステータスは?

 

 試しに、と『ステータス』を魔法として整え、形にする。

 ネクベデーヴァのシステムをそのまま真似ているので、表示されている文字はネクベデーヴァの文字だ。

 誰に見せるわけでもないので、しばらくはこのままでいい。

 

 ……ん、神子様に感謝。

 

 人間にとって使い勝手がいいように、と世界樹の神子が整えたステータス画面は見ていて楽しい。

 英雄・達人であってもレベルが5としか表示されない神様仕様とは違い、赤ん坊には赤ん坊なりの――

 

 ……いや、さすがに乳児のレベルが9はおかしいと思うけどね!

 

 これは普通のことなのだろうか。

 こればかりは誰かと比べないわけにはいかないだろう。

 

 ……まあ、いいや。とりあえず知りたいのは、魔法と魔力の関係性。

 

 魔力はネクベデーヴァ製のステータスを使うと、MPとして表示される。

 乳児のMPが三桁も終りに近づいていることからは目を逸らして、魔法を使ったらこのMPが減るのか、それとも空気中に漂っている魔力が減るのか、をまず確認しよう。







 結果だけ言うのなら、MPは魔法を使うと減った。

 ついでに、周辺の魔力も減った。

 

 感覚的に、MPは魔法を扱うための『呼び水』として働いている気がする。

 周囲の魔力を動かすために必要なのがMPなのだろう。

 

 では、周囲の魔力を動かさずに魔法を使えないだろうか、とも実験してみた。

 実験自体は成功したが、もう二度とやりたくない。

 周囲の魔力を利用せずに魔法を使おうとすると、自分のMPがごっそりと減って非常に疲れるのだ。

 

 ひとまず知りたかった答えを知ると、また暇になってしまった。

 なので、ネクベデーヴァの魔法を参考に魔法を作っていく。

 攻撃の手段としての魔法の必要性が乳児には謎だったので、簡単な属性ごとに一つずつ作った。

 あとはとにかく生活に役立ちそうな小ネタ魔法を作っていく。

 本当に、ただただひたすらに、乳児はできることが少なくて暇なのだ。

 

 ……なんでもゲーム風に整えると、楽で見やすいね。

 

 他者のステータスが覗ける【人物鑑定】の魔法を作り、視界に入った人間のステータスを覗く。

 一日の間に私が一番見かけるのは乳母のマーサだ。

 マーサのステータスは

 

【名前】マーサ・フィリップ・ナス・セグロラ

【レベル】15

【職業】乳母ナニー

【称号】五児の母

【プロフィール】セグロラ忠爵家 三女


 こんな感じだ。

 この【人物鑑定】の魔法。

 数字についてはネクベデーヴァの神と神子の合作だが、ほかの機能は私の手作りというだけあって、私が知っている情報しか表示されない。

 『鑑定』と聞いて想像するような能力はないというのか、期待するような働きをさせたかったら、私が積極的に外から情報を仕入れて機能を更新させていく必要がある。


 マーサのプロフィールにある『セグロラ忠爵家』という表示だが、当初は『セグロラ伯爵家』と表示されていた。

 これは私の前世での記憶で『セグロラ家』という家が『伯爵家』と理解されていたが、ルーナティ王国では前世での『伯爵家』が『忠爵家』と呼ばれている、と知ったからだ。

 このように、私が学ぶことで【人物鑑定】の魔法は更新されていく。

 

 ……父のレベルが一番低いのは、なんでだろうね?

 

 私が見ることのできる人物で、子どもを除いて一番レベルの低いのが父だ。

 なんとレベル9、と乳児の私と同レベルである。

 しかも、父は貴族ということで戦場に立つ可能性もあり、マーサには表示されないHPとMPの項目が存在した。

 

【名前】ピーテル・フィリップ・フェリシテ・ヴィレット

【レベル】9

 HP 88/88

 MP 3/3

【職業】王宮勤めの文官

【称号】――

【プロフィール】ヴィレット杖爵家 長女フェリシテの夫


 父の職業が曖昧なのは、乳児の頭上で交わされる会話から察することができるのがこの程度の情報だけだからだ。

 そんなことよりも、レベルである。

 9だ。

 何度見ても、父のレベルは9だ。

 数字に関しては私の認知は影響していないので、異世界ネクベデーヴァの神様の太鼓判付きで、父のレベルは赤子レベルである。

 

 ……父のHPを見てると、乳児わたしのMPは異常だ、って思って間違いなさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る