第6話 転職希望
「さて、それでは夜食にしようかのう。アオイ頼むぞ。」
「はいぃ。お任せ下さいぃ。
アオイがスキルを唱えると、テーブルの上に見たことのない料理が現れた。
実に良い匂いじゃ。
「これは何と言う料理じゃ?」
二人前出現した、どんぶりに入っている未知の料理を指差しワシはアオイに尋ねる。
「これはぁ、あっちの世界では誰もが知ってる料理ぃ牛丼ですぅ。」
ほうほう。
中々に旨そうじゃな。
香りもいいし見た目も良い。
とても食欲をそそるのう。
しかし何じゃろうな。
ヨダレを垂らすのを必死に我慢しているワシに対して、アオイは不思議そうにその牛丼を見ている。
「あれれぇ。おかしいなぁ。」
「ん?どうしたのじゃ?何かおかしなことでもあるのか?」
どうにも腑に落ちないといった様子のアオイ。
ワシは初見じゃから何がおかしいかわからんが。
「いやですねぇ。森に一人でいたときぃ、これを出したことがあるんですよぉ。その時はほんのちょっとしかお肉入ってなかったのにぃ、今回は本来の量が普通に入ってるんですよぉ。不思議ですねぇ。」
そう言いながら、アオイは未だ首を傾げ牛丼を見ている。
もしかすると・・・
「アオイや。自分のステータスを確認してみろ。おそらくレベルが上がっているはずじゃ。」
「はいぃ。わかりましたぁ。」
言われて直ぐ、素直にステータスをワシにも見えるように表示するアオイ。
アオイ
属性 光
職業 セイバー
年齢 16
性別 女
レベル 52
体力 102
攻撃力 16
魔力 172
物理防御力 10021
魔法防御力 10008
素早さ 75
魔法
初級光魔法・中級光魔法
スキル
鑑定・不老・全状態異常無効
魔力メモリー・慈悲の女神の祝福
「やはりレベルが上がっておったか。」
あの時ダンジョンの上の階層を散々攻撃しておったからな。
巻き添えを食った魔物がいたのじゃろう。
しかしこれは嬉しい誤算じゃのう。
アオイの魔力が上がれば、食卓のレベルも上がるというものじゃ。
しかし相変わらず偏りがあるステータスじゃのう。
防御力はまだ更に上がっておるし、攻撃力に関しては目も当てられんくらい低い。
でもまあ魔力に関しては、通常の者より上げ幅は高いな。
これならば・・・
・・・ジュルリ・・・
実に良いことじゃ♪
「あれれぇ。何ででしょうぅ。しかもスキルまで増えてますしぃ・・・ってぇ、えええぇ~!私ぃ、職業セイバーになっちゃってますよぉ。」
ふむ、そのようじゃな。
剣を使って魔物を倒したことでそう認識されたのじゃろう。
じゃがこれは困ったな。
アオイには別の職業になってもらわねばいかんのじゃがのう。
しかし納得いってないのはアオイも同じらしい。
「嫌です嫌ですぅ!私は主様と同じ魔女がいいんですぅ!お揃いがいいんですぅ!」
床に仰向けになり、ジタバタと駄々をこねるアオイ。
そしてそれを冷ややかに見るワシ。
・・・
・・・?
・・・!?
・・・!!
「おい。アオイや。そなた、下着はどうしたのじゃ?」
スカートが捲れ上がり、スラッと伸びた生足のその先に見えるのは・・・アオイのアオイ。
つまり今現在、アオイの痴部が何の遮りもなくさらけ出されているのじゃ。
「えぇ?ああぁ、下着はミドリコのブレスを受けたときに消滅しましたぁ。」
言いながらも、スカートを下げて隠す気のないアオイ。
いやいや。
もうこれ以上見せんでいい!
こっちが恥ずかしくなるわい。
「・・・」
「・・・」
・・・
いや、何じゃこの間は!
早く隠すところ隠せい!
しかも何でそんな真顔なんじゃ!
埒があかんので、ワシは魔法で強制的にアオイに下着を着けた。
「ああぁ・・・」
何がああぁじゃ!
残念そうな声を上げるな!
しかも何故に今更になって恥ずかしそうにスカートを下げてるんじゃ!
股を直で見せておるときにそうせい!
全く・・・
まあいい。
いや、良くはないが・・・それはさておき、何故このステータスになったかの説明をせねばならんの。
「セイバーは不服か?しかしな、そなたの場合、元々の職業がこの世界にはない女子高生というものじゃったから仕方ないのじゃ。そなたは剣を用いて計らずもあの時、上の階にいた魔物を倒してしまったからのう。剣で魔物を倒すもの、つまりセイバーとして自動的に登録されてしまったのじゃ。」
そう、この世界に生きるものには、何かしらの職業が義務付けられておる。
従ってアオイにもそれは適用されており、レベルを上げた行動を参考として勝手に決められてしまったのじゃ。
しかし戦士としての適正が無いであろうアオイが、このように職業になってしまったのはワシとしてもちと困る。
「じゃが安心せい。そなたにはなってほしい職業があるからの。早々にそちらに転職してもらうことになる。」
「主様のお嫁さんですかぁ。それならもうなってますよぉ🖤」
「ぜんっぜん違うわ!」
即座につっこむワシ。
しかしアオイは恍惚とした顔で自らの指を咥え、ワシに甘えるような視線を飛ばしている。
ぞわわっ
むぅ・・・
全く・・・
本当にこやつからは身の危険しか感じられんな。
それはさておき。
「そなたにはヒーラーになってもらうぞ。つまりは回復魔法の使い手じゃ。」
アオイにとってはこの職業が適正だと言えるじゃろう。
人族の男は別として、魔物を傷つけることに抵抗を感じてしまうのなら、癒す力を得ればいい。
因みに言うと、魔法を使って自分や相手を回復させるだけでも怪我の程度もによるが経験値は手に入る。
魔物を倒して得る経験値程ではないにしても、気長に続ければレベルは上がるじゃろう。
「・・・回復魔法を使うんであればぁ、一応魔女ってことですよねぇ・・・わかりましたぁ!私、ヒーラーになりますぅ!」
どうにか納得してくれたアオイは勢いよく立ち上がり、拳を高々と上げ、そう宣言した。
やれやれ・・・
今日は本当に疲れる日じゃな。
「あっ、でもぉ。私、回復魔法使えるんですかぁ?」
アオイは上げた手を下ろし、困った顔をした。
うむ、確かにそうじゃな。
しかし大丈夫じゃろう。
「回復魔法は水属性か光属性の魔法なのじゃ。レアなものであれば闇属性の魔法にもあったりするのじゃが・・・そなたは光属性で克、光魔法の中級を覚えておるじゃろう。間違いなく何らかの回復魔法は修得しておるはずじゃ。どれ、ステータスを表示して中級光魔法の項目に意識を集中してみよ。」
ワシはそうアオイに指示を出した。
開いたままのステータス表示の一文に意識を集中するアオイ。
すると、中級光魔法の詳細が写し出される。
中級光魔法
オーバーライト・ホーリーランス
ド=ヒール
「あれぇ?3つしかないですぅ。少なくないですかぁ?」
アオイは少し不服そうじゃ。
じゃが、レベル52でこの3つを覚えられたことは寧ろ誇ってよいじゃろう。
特にこのホーリーランス。
これを修得するのは中々に難しいことなのじゃ。
「今のそなたのレベルならこんなものじゃろうな。光魔法は只でさえ修得しずらいからのう。しかし見てみい。回復魔法はちゃんと覚えておる。これならヒーラーに転職することも可能じゃ。」
勿論、回復魔法を使い込めばじゃがな。
明日明後日くらいでは無理じゃろうが、10日程あれば十分転職できるじゃろう。
「やったぁー!これで私も魔法少女の仲間入りですねぇ!スッゴク嬉しいですぅ!前の世界では存在しなかった力ぁ・・・とってもワクワクしますぅ!」
嬉々とするアオイはその場でピョンピョン跳ね回った。
うむうむ。
こうしてみると、可愛げのあるいい娘の様に見えるのじゃがなぁ。
「よーしぃ。景気付けに魔法を使っちゃいましょう。」
ん?
どういうことじゃ?
今は使うような場面ではないはずじゃが?
そんな疑問を抱いているワシの隣をアオイはご機嫌な笑顔で横切り、そのまま玄関から一歩外に出た。
・・・まさか。
「ホーリーランス!」
アオイがそう唱えると、数本の光の槍が出現し、前方に放たれる。
向かう先は・・・
ドカーーン!
光の槍はマルタス達が再度設置した夜営場をまたしても粉々に壊したのだった。
「うわー!何だ何だ!?」
「お助けー!」
「すみませんでしたー!もううるさくしませんから許してくださーい!」
阿鼻叫喚の夜営場。
その誰も彼もが地面に這いつくばり、祈るようにワシ達に許しを乞うておる。
・・・何と哀れな・・・
その光景に満足いったのか、アオイは笑顔を崩さずワシの元へと戻ってきた。
「さぁてぇ、少し冷めちゃいましたがぁ牛丼を食べましょうぅ。主様ぁ。」
「う、うむ、そうじゃな。」
スッキリとした顔のアオイは何事も無かったかのように席に座り、ワシももう深くは考えるのをよして向かいの席に座った。
「では頂くとするかの。」
少し冷めてしまったとはいえ、見た目も香りも素晴らしいな。この牛丼とやらは。
「はいぃ。ではぁいただきますぅ。」
言うなり何なり、アオイは勢いよく食べ始めた。
なるほど。
ああやってこの深いスプーンで食べるのか。
ワシは肉とご飯を同時にすくい上げ、口へと運んだ。
パクリッ
モグモグモグ・・・
・・・
うむ!
うまい!
これはこの世界には無い味じゃな。
肉ほ薄すぎると思っておったのじゃが、この薄さ丁度いい。
ちゃんと食べごたえもあるし、タレをしっかりと吸い込んでおる。
そしてこのタレのかかっているご飯も実に美味じゃ。
どんぶり一杯に入っているから少し多すぎると思っていたが、これならあっという間に平らげてしまいそうじゃわい。
「ごちそうさまでしたぁ!」
ワシがそんなことを考えている最中、アオイはもうすでに食べ終えてしまった。
・・・早すぎるじゃろ。
どうやらこやつが大食いなのは本当のことらしい。
「デザートも出しますねぇ。
アオイがそう唱えると、今度は白くて丸い食べ物が二人分透明な皿に乗って現れた。
「これは何じゃ?」
「これはバニラアイスですぅ。冷たくて甘くてとても美味しいんですよぉ。」
言いながら早速食べ始めるアオイ。
ふむ、確かに冷気を感じるの。
こちらの世界の氷菓子と似たようなものか。
とはいえやはり気になるワシは、牛丼を半分程食べたところでバニラアイスを一口食べることにした。
一緒に出てきた銀のスプーンを使って少しだけ小削ぎ取ると、それをゆっくり口の中に運ぶ。
パクッ
・・・
ヒヤ~
ゴクン
・・・
「これは・・・うまい!うまいぞ!」
何ということじゃ。
こちらの世界の氷菓子なんぞとは比べ物にならんほどの美味じゃ。
永いこと生きておるが、こんなもの食べたことがない。
こやつのいた世界には、ワシの知らんものが沢山あるのじゃな。
実に興味深いぞ。
これからが楽しみじゃわい。
「ふふぅ🖤」
ん?
何じゃ?
バニラアイスを食べて感動しているワシを見て、もうすでに食べ終えているアオイはニコニコと笑顔を浮かべている。
「いやぁ、喜んで頂けて良かったですぅ。でもですねぇ。私にとっての何よりのご馳走はぁ・・・私の出した料理を食べた後見せてくれるぅ、主様の笑顔ですぅ🖤」
いつものようにグイグイ来るわけでなく、少し顔を傾け、優しく微笑みながら言うアオイ。
ぐぬぬ・・・
言ってくれるわ。
少しだけドキッとしてしまったぞ。
・・・
黙っとれば可愛いのじゃかな・・・
・・・
・・・
ま、まあしかしあれじゃな。
確かにアオイの出す料理は絶品じゃ。
胃袋を掴まれてしまったのは否定できん。
今から明日の食事が楽しみで仕方がないくらい、アオイのスキルに心を奪われておる。
・・・フゥ。
もっとアオイのことを理解してやらんといかんな。
今のところ悪いところばかりが目立つが、良いところも沢山あるのじゃろう。
先程の微笑みもその一つじゃな。
悪いやつで無いことだけは確かじゃし、少しはワシの方から歩み寄ってもいいのかもしれん。
これから何十年、何百年、何千年と共に生きるのじゃ。
多少の無礼は許してやらんといかんかのう。
・・・
いや、もう今日だけでも散々アオイの無礼を我慢してやったがな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます