第11話 帰還、そして違和感
ありとあらゆるクソゲーをプレイしてきた俺にもどうしようも出来ない裏バグの世界に迷い込んでしまった。知っている知っている限りのバグ技を全て試してみるもどれも不発。もう残された手段は使うことを自分自身の高いプライドが決して許さなかったコマンドの使用である。コマンドを使えばゲーム攻略なんて簡単できてしまう。それはクソゲーさえしかりだ。だがこれはもはや伝説とまで言われたクソゲーの中のクソゲー。コマンドを使ったとしても何が起きるかわからない。だが、このコマンドを使わなければ俺はこの空間からいつまでも抜け出すことが出来ない。
苦渋の決断だが、仕方がない。俺はコマンドを発動させ、この空間から脱出した。しかし、目の前に広がっていたのはまだ王国にアムーダの花弁を届ける前のベースキャンプからだった。
「ここに飛ばされるとはな・・・」まさかとは思っていたが最後にセーブした地点に転送されるはずのコマンドもこのゲームでは正常に機能しないようだ。まだゲーム時間の狭間に飛ばされなかっただけでも御の字だが、まさかこの時間に転送されるとは思ってもいなかった。ステータスも持ち物もなんとかバグを避けて上げてきたが、それも全て元通り。持ち物にアムーダの花弁があるだけ。俺に再び王国に戻ってアムーダの花弁を届けることからやり直せというのか。クソゲーマーにとってやり直しをすることは別に苦ではない。コントローラーで特定のバグを起こせば任意の時間からやり直しをすることができるが、これはもはや現実世界と何ら変わらない世界。この世界で時間をやり直すことがどれだけ危険なものか裏バグの世界に送られてから肌で実感している。これ以上時間を巻き戻すことは俺のプライドも危険度的にも避けて通りたい。しかし、、、、
こんなところからやり直すには装備が皆無すぎる。今この瞬間もモンスターに襲われずに済んでいる事が奇跡なぐらいだ。いや待てよ。確かに今思い返してみればこの状況もなにかおかしい。なぜ周りにはこんなにもモンスターが多いにも関わらず武器もレベルも何もない状態で襲われないんだ?まさか、いやそんな事があるのか・・・?どのクソゲーに関しても全てを知り尽くすまでやり倒すのが俺のゲームに対しての礼儀だ。もちろんこのゲームにもそれは適応される。説明書なんぞ見なくとも一言一句間違えることなく内容を暗唱することも出来る。しかし、アムーダの花弁の事は説明書はおろか攻略サイトにも本にも表記はない。其れは今まで誰も花弁の在処を見つけ出すことが出来なかったからだ。花弁についてこの世界で知っているのは俺と先程の自称この世界の神を名乗るあの男だけだろう。だが俺自身花弁についてその全てを把握しているわけではない。激レアアイテムで有り、このバグだらけのゲームをクリアする上で必要不可欠なアイテムであることぐらい。敵モンスターを寄せ付けなくするなんて知らない能力だ。戻って来る前は普通にモンスターに襲われていたというのに何がきっかけになって能力が発動したと言うんだ。
「クソゲーマーとして知らない事はないと思っていたが、まさかまだこのゲームで知らない事があったとは。この場所まで戻されたのは癪だが、これは嬉しい発見だ。これでまた俺はクソゲーマーとして成長出来る」
まだ見ぬ新要素の発見に嬉しさを隠せない。が、こんなところで再び足踏みしてはいられない。武器がない状態でまたいつモンスターが襲いかかってくるかわからない。先を急ごう。
王国までの道のりはもう迷うことはない。なんなら最初の道のりはわざわざ遠回りをしていたようで、二回目である今ならはじめの半分の時間で王国までたどり着くことが出来るだろう。
思った通り、王国までの道のりは一度もモンスターを目にすることもなく突き進み、気がつけば一日をかけることもなく日が登り切る前に王国にたどり着いた。
「いや、俺どれだけリスク回避を重視して道進んでたんだよ。こんな事なら初めからマップ全域把握のバグ使っておけばよかったな・・・。めんどくさいやり方してた訳だな」やれやれと言わんばかりにマップを確認し、早速王国の門番である兵士に声をかける。旅人の格好に身を包んだままの俺に対し、兵士は警戒を解くことはなく持っていた槍を大きく突き出し「何者だ」と一言聞いてきた。俺は門番に事情を再度説明した。王国内の仲間に確認の伝令を入れて事実確認を行う。その間も警戒されっぱなしの俺は数分の間槍を向けられたまま、待機を余儀なくされる変な状況となっている。そして数分後、強面な門番の一人が戻ってきた。
「確認が取れた。国王様が依頼していたものは手に入ったのかと聞いておられるが、その方はどうなのだ」
「手に入ったからここまでやってきたんだろ?手ぶらでここに戻ってくる程野暮じゃないよ」身元を確認した門番は門を管理している仲間に伝令を送り、門を解錠させた。大きな門がゆっくりと開いていき、閉ざされた門の隙間から王国が顔を出した。さて、ここから国王のもとに行って花弁を渡せば良いんだけど・・・なにかおかしいな。
王国の様子がどこか戻ってくる前とは変わっている事に気づく。街自体に大きな変化はないのだが、全体の雰囲気というか国民の気配一つ感じない。バグだらけの世界でNPCの気配が感じ取れないなんて事は今までプレイしてきたどのクソゲーでもなかった。それどころか、このゲームは敵モブの気配ですらバグコードを使えば感知することが出来る。現に今でさえもそのバグコードは使用中である。だが、明らかに人がいる形跡は残っているにも関わらず人の気配が全くしない。いや、正確には違う。さっきから視線だけは浴びるように感じる。しかもその視線の気が明らかにNPCの人間のそれではない。その辺の敵モブ程度のものでもない。これはもっと強い力。
「もしかして、いや気のせいだよな。確かに俺は元いた世界にもう一度もどってきた。いわばコンティニューと同じように記憶も継承、持ち物も花弁こそ失ったものの、再び手にすることは出来た。世界線や時間軸に多少の変化はないはずだ。だが何だ、この異常な雰囲気は・・・」俺はこの異常な雰囲気の正体を確かめるためにも国王のもとに向かった。
死にループを繰り返したらいつの間にか不死身の体を手に入れてました @uisan4869
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