第10話 神とセーブとコマンドと
「お前がこの裏の世界を作ったってどういうことだよ。この世界はいわばシステムが作り出したバグ世界のはずだぞ」自称神だという男はこの裏の世界までも自分が作り出したとゲーマーには信じがたい事を話し、もちろんのことだが数々のクソゲーを攻略してきた俺は到底信じていない。ゲームの作者が意図して隠し要素だったりわざとバグを残していることは事実存在するが、いちゲームキャラがゲームの世界に干渉することは出来ない。それこそゲームの作者でない限り無理だ。俺はその男の話すことには聞く耳も貸さず、一人でこの場所から抜け出す方法を再び模索する。
「もう一度しか言わない。お前一人の力ではこの場所から出ることは出来ない。出る方法はたった一つ、私の頭の中にあるからな」
「つまりは教えるつもりはないってことだろ。だったら俺は俺なりに方法を見つけ出す」自称神の最後の忠告も無視して俺は脱出方法を探すことにした。背後では大きくため息をつき「残念だ」と捨て台詞を吐き捨て煙のように消えていった。背後の気配が消えたのを確認し、改めて今この世界の状況を把握する。
ひとまずこの世界は今まで俺が遠い距離を一瞬で移動するために使っていた裏の世界とも他のゲームでレアキャラを手に入れるために入る裏の世界とも違い、どこにも出口がない。いや、正確にいえば入り口があるのならば出口も存在するはずだが今のところはそれらしきものは見受けられない。この様子だと歩いて出口を探すのはほぼ不可能に近いだろうな。俺はステータス画面を開き現在地を確認するも位置情報にはもちろんのこと謎の場所としか表示はなく脱出に有益な情報はない。
「さて、どうしたものか・・・」歩いての脱出は不可能、目につくところにも手がかりはない。考えた、考えに考え抜いて出した答えはゲーマーとしてはあまり使いたくない方法だが、今は背に腹は代えられない。
本来のコントローラーやキーボード捜査だと特定のボタンを順序よく入力することで発動するいわゆる、コマンドと呼ばれるある種裏技やチートに近い存在に属せられる。これがあればゲーム上だとアイテムの無限化やキャラクターのステータスを上限最大まで上げるなどチートを使わずそれ同等の力を得ることが出来る。コマンドを使えばもしかしたら脱出できるかもしれない。
早速ステータス画面を開き、そこから任意のコードを入力する。これは本来俺の場合はコントローラーで行うがこの世界ではそんなものは概念こそ存在しない。だが、何故かステータス画面には入力画面があり、キーボード配列された文字盤が現れる。これによりキーボードの概念がないこの世界でもコマンドが使えるのだ。
しかしゲーマーにとってこれらの方法は知っていても他の人間には共有しないことが暗黙のルールとしてある。それはもし新たにゲームを始める人間がコマンドのやり方を初めから知ってしまえばそれだけで神ゲーとされているものもすぐにヌルゲー化してしまう。そうなればゲーム人口はたちまち減っていってしまう。故にゲーマー界隈ではある程度やり込んでいるゲーマー同士でないとコマンドは共有しないことにしている。俺はコマンドを入力し、ひとまずテレポートを試みる。足元に着ていた衣服のボタンを目印として置いておく。身体は一瞬にして転送されるも転送先は目印としてボタンを置いていた先程の場所に転送されていた。
「テレポートはだめか・・・。なら、次は空間移動だ」これは裏の世界の移動と同じ原理だがコマンドを使う分、裏の世界経由での移動よりは手軽で簡単だ。
移動したい座標を外の世界で元いた場所に合わせコマンドを発動させる。だが、何故かこのコマンドは発動せず裏の世界での移動もしなかった。
「これもだめか・・・なら次だ」その後も何個か思いつく限りのコマンドを試すも裏の世界からは出ることは出来ず、疲れだけが溜まる一方だった。思いつく有効そうなコマンドは一通り試してみたがどれもこれといって成果は得られず残されたコマンドは残り最後の一個となった。だが、これはゲーマーとしては出来れば使いたくはないコマンドの一つ。本来ROMには常設されてはおらずコマンドを使用して初めて、使う事が出来るリセットロードと呼ばれる機能である。これは今いる地点でゲームデータをリセットし、最後にセーブした場所で再起動するという内容だけ聞けばよくあるゲーム機能の一つだが、忘れてはいないだろうか?これはゲームの進行において常にバグと隣合わせのクソゲー、最近のゲームには当然のように備わっている機能がこれには備わっていない。その不自由さがくせになってクソゲーマーになったわけだが今ほどこの不自由さを恨んだことはない。ここでコマンドを使ってリセットを行うことは簡単だがそれをしてしまえばクソゲーマーの名が廃るような気がしてイマイチ一歩が踏み出せない。
「プライドなんて捨てないとこの世界ではやっていけないって言うわけか」悔しさから無意識に舌打ちを打ち、自分のゲーマーとしての心を押し殺してコマンドを実行した。すると身体は途端に発光し俺の身体は一瞬にして暗闇の世界から最後にセーブした地点へと転送された。
このバグだらけの世界を次々と攻略していた奴でも所詮はこの程度のバグさえもコマンドを使うことでしか抜け出せぬとは・・・。私の期待はどうやら外れたようだな。
次に俺が目を覚ましたのはアムーダの花弁を手に入れた後、依頼されていた王の元へ向かう道中にベースキャンプからだった。
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