第8話 お前は誰だ?
バッカニアの国王からの依頼でアムーダの花弁を手に入れる事になった俺は、アムーダの花弁の出現方法の謎を解き、制限時間ギリギリで花弁を出現させる事ができた。しかし、喜びはつかの間つい数十秒前まで地面いっぱいに広がっていたはずのアムーダの花弁が一瞬にして目の前から消え失せてしまったのだ。一体花弁はどこ言ってしまったのか?ミッションはどうなってしまうのか・・・。
「アムーダの花弁が・・・ない!」地面いっぱいに広がっていたはずの花弁が目を話している一瞬のうちに目の前から忽然と姿を消した。一体何が起きたのか?突然の出来事過ぎて俺は状況が未だに飲み込めずにいた。辺りを見回し、建物の物陰や噴水の中も確認したがやはり花弁の一枚も見つからなかった。
ここはバグだらけの世界だがなにかイベントのアイテムが消えるなんて現象はゲームプレイ時でも起きたことがない。もし何かアイテムが消える現象が起きる原因といえばドロップして時間がある程度経過してしまったか、他のプレイヤーにアイテムを奪取されてしまうかの二択だが・・・。
いやいや、時間経過ならまだしも他のプレイヤーは絶対にありえない。発売からかなりの年月が経過しているし、第一ゲーム自体探し出すのにも苦労するほどある意味プレミアな存在であるFOMだ。俺ぐらいの物好きでなければよっぽどじゃない限りプレイしようとは思わない。それに一番重要なことはおそらく俺が今いる世界は漫画やアニメの中で言うところの異世界のようなもの。意識を持つ人間が他にいるわけがない。
「いや、いるんだよそれが」
「え?」
突然耳元でささやくように聞こえた男の声。それに驚き振り返るがそこにはただ噴水があるだけで人がいる気配は全くない。まさかな・・・・。
嫌な違和感が頭をよぎるが、今は直面いている問題をどうするかが先決だ。ミッション画面をもう一度確認するが内容は相変わらず[アムーダの花弁の入手]。花弁の出現時間のタイムリミットは当に過ぎ最早手に入れる手段は残されていない。現段階でミッションは失敗。もしこれがサブミッションならば失敗して報酬がもらえないだけで何ら問題はないがこれはストーリー進行に関わってくるイベント。これが失敗したということは事実上、俺のストーリーはここで終了。詰み確定というわけである。
噴水の縁に腰を落ち着かせ、今までの人生史上一番深いため息をついた。
絶望。というよりクソゲーマーとしての誇りが傷つけられたようで悔しさやもっとFOMについて勉強して於けばよかったと後悔の念が体の奥底からこみ上げてくる。
昔おもしろ画像として海外の子供が兄弟にゲームのデータを消されて発狂している動画が流行ったが今まさに心の中の俺は動画の子供のそれだ。持っている剣を振り回し歩いているモブたちにモンスターの如く襲いかかり暴力的なやつあたりをしてやりたい気持ちを必死に抑えながら今後をどう進めていくかを考える。バグに力で無理やりストーリークリアとしてもいいが、それをしてしまうとまた今後のストーリ展開で足りなくなってしまう。それではせっかくこの世界に来た意味がなくなる。
なにか手段はないのか・・・?
その時だった。背後の噴水の縁で同じように羽を休めていた鳥たちが突然なにかに驚いたように羽ばたき、アムーダの花弁のような美しい色をした羽を落としていった。
ん?花弁?ゆっくりと落ちてくる羽らしきものに手を伸ばす。手のひらにそっと落ちてきた羽はよく見ると、つい数分前に消えてしまった[アムーダの花弁]そのものだった。
「花弁!でもなんで鳥の羽根から・・・?」
消える前に鳥の体に偶然乗っていてたまたま消滅から免れたのか、それともこれも俺知らないバグなのか?困惑する俺に対しまるで嘲笑うかのように上空を旋回する鳥たちが一人の男の元へ集まっていく。笑顔で鳥たちをあやす男の姿は他のモブたちとはどこか一線を引いているようだった。
俺の見つめる視線に気づいたのか鳥たちは一斉に飛び立ち男一人となった。
「お前、一体何者だ?」なぜ俺がモブに対し質問を投げかけたのか、それは呼びかけに答えればそれはモブキャラではなくプレイヤーで呼びかけに完全無視ならばモブキャラ確定という判断だった。
しかし、そのキャラは思いもかけないような反応をとった。
「私はこの世界の神だ。それ以上の何者でもない」
鳥たちをなだめながらそう答える男に俺は詰め寄った。男は俺に対しまるでそこに何も存在しないかのように振る舞う。人の話に興味がないのか、本当に俺の姿が見えていないのか心の読めない男だが今の奴はおそらく前者だろう。他に質問を投げかけても答えてくれるかどうかわからない。
「この世界は何だ?ゲームの中の世界なんだろ?」
噴水の流れる水を見つめたまま答えない。
「俺は何故この世界にいる?」
答えない。
「俺がこの世界にいる目的は?」
答えない。
「作者はお前を意図して作り出したのか?」
この質問にだけは興味なさそうにしていた男の目の色が一瞬だが明らかに変わった。
「一つだけ君に問う。君はこの世界をどう思う?規律の保たれた世界であるはずだったこの世界は今も昔も世界の秩序が乱れてしまっている。それはこの世界を作り出したもののせいだと君は思うか?それともこの世界そのものがいつの間にか壊れてしまっていると思うか?」突然の質問。それはこれまでの話の的を得ていないようで俺gこの世界に来たときから、いやそれよりも前、現実の世界でパソコンに向かってゲームをプレイしていた考えていた事。FOMのバグはゲームシステムが異常を来して起きているものなのかそれとも、ゲームの作者、つまりゲーム会社によって意図的に仕組まれたものなのか。クソゲーをやりこみ数々のバグ現象に触れてきたが、やり込めばやり込むほどこのバグはシステムの影響なのか、作者が一部のプレイヤーを楽しませるように意図的に組み込んだものなのか一人で自問自答し続けてきた。結局調べればすぐに答えはネットの力によって知ることが出来る。だが、実際にゲームの世界に迷い込めば調べることはおろかそれが本当のバグなのか意図的なものなのか調べることも出来ない。この自称神を名乗るこの男はこの世界の理をどうやら知っているようだがこの男が何者かどうか判断できるまでは何も信用できない。
「俺の質問は無視ってわけか、まあいい。俺はこの世界は未知の世界だと思っている。今までの知識や経験値が通用しない世界で、これまでも常に生命の危険と隣り合わせでここまでやってきた。だが、そんな危険の中でも楽しんでいる自分がいる。ゲーム魂が内側から燃え盛ってくるんだ!」つい熱が入った言葉に何故かその男は一瞬口元に笑みを浮かべると再び飛び去っていった鳥たちを呼び戻し、身体中にまるで鳥がとまり木に留まるように全身に鳥を纏い、俺に一言だけ言った。
「世界とは仕掛けの施された箱だ。君は進迷わず進み続けろ」それだけいうと男は最後の一匹の鳥を身体に纏わせ次の瞬間には、鳥が飛び立つと同時にその姿も忽然と目の前から消えていた。一体あれはなんだったのか。あれも一種のバグだったのか、それはまだわからない。
「箱・・・。迷わず進み続けろ・・・。どういう意味だ・・・?」
訳のわからない言葉を残して消えていったあの男のことは気になるもひとまず花弁は手に入れることは出来た。俺は一枚だけ手に入れた花弁をなくさないよう大事にストレージにしまい込み、花弁を待つバッカニアの王の元に戻ることにした。
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