第5話 いざ、新たな大地へ
前回のあらすじ。攫われてしまった娘はなんと属のボスが竜の力を手に入れるための生贄だった。それを阻止するために決戦に挑むがボスは死に際に自らの血液を竜の王に捧げ族のボスと融合することで竜の王は復活を遂げた。伝説とまで言われた竜の力は凄まじいもので「不死者の肉体」を持つ俺でさえ絶体絶命のところまで追い込まれる。動かない身体に止めを刺される寸前のところで謎の声と伝説のバグアイテム「金の槍」によってなんとか娘を助け出すことに成功し、バッカニア王国に戻るのであった。
「帰ってきた!」道中目覚めた娘とともにバッカニア王国に帰ってきた俺は帰りを待っていた馬車の主人と国民から拍手と歓声が上がった。父親の姿を見るやいなや橋出す娘と無事帰ってきた姿を見て大号泣しながら駆け寄る馬車の主人。感動的な親子の再会に周りの人間達も思わず涙を流していた。その後ろ姿を遠巻きに眺めていると俺の視界に「緊急イベントクリア!」の文字が表示され、ステータスに数多くの経験値が流れこみ俺は遂にレベル5までレベルアップ出来た。まぁレベル5でもステータス自体は相変わらずの最低ラインには変わりないがそれでもゲーマーにとってレベルアップは喜ばしいことだ。一人自分の世界に入っていると突然甲冑を着た男が声をかけてきた。
「君が噂の勇者さまとやらか?」この演出には覚えがあった。実際にも娘を助け出した後、噂を聞きつけた国王に王宮へと呼び出されるんだ。
「そうなんだ!彼が娘を族から助け出してくれたんだ!」興奮している馬車の主人がなまじ大きな声で甲冑の男へ向かって話した。俺はそれに地震を持ってそうです!なんて言えることもなく、苦笑いをしてその場をごまかす。
「そうか、わかった。突然だが国王がお呼びだ。王宮まで付いて来てもらおう」
「・・・わかった」本来のFOMならこの次の国での仕事を依頼されるのだが、先の緊急イベントでもそうだったがバグでダンジョンが混ざるなんてことが今後も起こるなんてことがあれば今の俺でもやはり油断はできない。この依頼ももしかしたら・・・。甲冑の男に連れられるまま王宮に向かうが、心の中は人間が多く行き交う都会の喧騒よりも嫌な予感でざわついていた。
国民が暮らすいわゆる城下町の建物と比べ物にならないほど大きくいかにもな王宮は屈強な門番が入り口を守り、さらに奥には常に門番と同じような男たちが巡回をしけいかいを怠らない。俺はそんな男たちに睨まれなれながらも半ば連行されるように王宮の建物の中に足を踏み入れた。
この国の店では到底手に入らなそうな高級絨毯が足元には敷かれ、壁には常人には理解できないアーティスティックな壁画や絵画が目につく。芳香剤の独特な香りが鼻にまとわりつくが、そんなことも気にせずようやく今の俺の二倍はあるであろう高さの扉を開けて視界の奥にいかにも高級そうな服に身を包んだ小太りの男が宝石があしらわれた椅子に両隣に甲冑を着た傭兵を二人つかせて座っていた。
「ほほほ、よく来られました。お待ちしてましたよ」
指には大きめの宝石が輝く指輪、首元には金のネックレス、服装も常人には理解できないような柄のもので釣れられた俺は一瞬でその雰囲気に引いてしまう。
「あんたが俺を読んだ張本人か?」
「貴様!国王に向かって!」
「まあ良い。いかにも私が君をここに招いたバッカニアの国王である」
「その国王様が俺になんの用ですか?」こんなことを1府聞いているが実のところ国王から依頼される内容は知っている。国王から依頼される内容は前もいったが次に向かうべき国での仕事依頼。それもバッカニアと仲の悪いニアニス王国内での仕事依頼はニアニス王国が輸入を独占している特殊な薬の入手。無事に薬を持ち出すことができればバッカニアは他国から狙われることはなくなり、弱小の烙印から脱却できる。それだけでもこの国は経済的に潤う事ができる。ゲーム上の記憶ではこの記憶が新しい。しかし、またこれが違えば流石に俺のFOMの記憶も知識も役に立たなくなってくる。
「君にはニアニス王国でとある仕事を依頼したい。詳しい内容については後に連絡する。君に伝えたい内容はこれまでだ、下がって良いぞ」
言われるがまま俺は再び町に戻った。町はすっかり先程の賑わいは収まり皆普通の生活に戻っていたそれもそうか、いわゆるゲームで言うところのマップ移動。町のモブたちが元に戻っていてもそれが正常運転だ。ステータス画面を見てみるとミッションに馬車の主人に頼んでニアニス王国へと送ってもらおう。と追加されていた。
娘が帰ってきた馬車の主人はその喜びを店の外でタバコを吸いながら噛み締めていた。
「やあ、さっきは本当にありがとう!娘も無事帰ってきたし、なんてお礼をしたらいいのか・・・」
「ならお願いしたいことがあるんだ」
国王からの依頼でニアニス王国まで向かいたいと馬車の主人に伝えると「ほほう!送迎ですか!心得て!」と満面の笑顔で快諾してくれ、出発は明日の朝ということになった。
俺はバッカニアを出ていく前に最後の身支度を済ませる。鍛冶屋では竜の巣窟を脱出する道中で手に入れた鉱石を渡していた。俺が会うのも最後だと鉄の剣のお礼を言いに訪れると「これ持ってきな!」と渡したはずの鉱石で新たな剣を作ってくれていた。振ると炎を纏い、敵を焼き尽くすまさに竜の王を思わせるような序盤にしては早すぎる属性付きの剣。これがあればゲーム内だと序盤はサクサクプレイが確定な高額アイテムだ。イベントで手に入れた金、こっちではゴールドというが代金を払おうとすると「代金は持ってきてくれた鉱石とあの娘さんの命で十分だよ」とFOMのキャラとは思えないセリフを言って鍛冶場に戻っていった。
現実では全くといって言われてこなかった感謝の言葉をこの世界に来てからもう幾度となく言われ続けなんだか胸の奥が暖かくなる感覚がむず痒い。感謝されるとはこんな感覚なのかとゲームの中で初めて実感した。
「この感覚も悪くないかもな」
空を見上げると無数に煌く星々が真っ暗な空を彩り、月明かりが町を静かに照らす。俺はその美しい夜景を眺めながら宿への帰路についた。
翌朝。小鳥達が馬と戯れる声で目が覚めた。現実ならまだ眠っているであろう時間に起きるようになってから身体の調子もいい。ゲームの世界でも早起きはなにか得があるのか?[早起きは三文の得]。勉強は出来ても早起きは苦手だった俺からしてみればこの言葉はただの言葉の羅列でしかなかった。しかし今ではわかる。この朝の心地よさが身も心も癒やされるということなのだろう。朝日よ、初めて礼を言おう。ありがとう。
「もうそろそろ行きますぞ~!」外で馬を数体引き連れ、見るも立派なコーチが後ろに続く。俺はバッカニアで購入した武器や道中のダンジョンに備えて回復薬などを携えて中に乗り込む。ニアニス王国までは約2日ほどかかる。俺は途中モンスターに襲われないよう先の戦いで手に入れた龍の王の牙をコーチに吊り下げる用のものに鍛冶屋に加工してもらいそれを馬車の主人に今までの送迎料として手渡した。主人はそんなものはいらないと相変わらずの低姿勢でやんわりと断られたが、半ば強引に渡すと
嬉しそうにコーチに取り付けてくれた。
「短い間だったけど、ありがとうございました」国民が見送る中で俺は皆に深々と頭を下げた。その姿に何を焦ったのか口を揃えて「顔を上げてください」と謙遜していた。
「じゃあ、またどこかで!」コーチに乗り込む俺を笑顔で見送る皆は現実に覚めきった感情しか抱いて来なかった俺の心にじんわりと温かいになにかを感じさせた。
もし、またこの町に戻ってこれることがあれば、必ず戻ってこよう。バッカニアを出る瞬間、俺は決意した。
「もし、またバッカニアに戻って来られることがありましたら私をお呼びください。どこへでも駆けつけますから」
「ありがとう・・・」
バッカニア王国。短い間しか滞在できなかったが、優しいぬくもりをありがとう。
コーチの中で揺られること約二日間。休み休み向かった馬車は昼を過ぎた辺りで眼前にニアニス王国を捉えた。マップ機能とは便利なものでゲームだとただ道のりを表示しそれにしたがってプレイヤーがゆく方向を決める。しかしこの世界だとイベントが発生している間は無垢的の場所までの最短距離を示してくれた。そのおかげか少々歩くスピードが遅かった馬たちでも2日をかけて到着することが出来た。
ニアニス王国の入国門前まで行き、俺はそこでこれ以上は迷惑はかけられないと送ってくれた礼を言って主人を帰らせた。
「ありがとう、こんなところまで」
「いえいえ、私こそいくら感謝してもし切れません。あなたの旅の無事を祈ります」
そう言って主人は帰っていった。太陽に向かって馬を走らせる姿がどこか今生の別れのようで寂しさを感じさせる。しかし寂しさに日あっている場合ではない。後ろを振り返らないよう前へと足を進める。
門番にバッカニア国王から貰った通行証を見せ、訪れたものを簡単には入らせない巨大な門を潜り、新天地ニアニス王国に足を踏み入れた。
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