第2話 序盤からこんなことってあり? 前編
伝説のクソゲー、「ファイターオブメモリー」通称FOMと呼ばれるRPGゲームをプレイしている最中に突然予期せぬバグに襲われてしまう。システムから再構築を始めるがその途中、パソコンの画面から眩いほどの光が全身を包み、気がつくと僕はFOMの世界に迷い込んでしまっていた。
FOMの始まりは主人公の生まれ故郷の小さな村から始まる。そこで主人公は村の掟として齢が18になると修行として単身旅に出ることになっていた。そしてどうやらこの世界では僕はその主人公に当たる存在になっているらしい。先程から明らかにゲームで見たことのある登場人物が目の前で典型文を独りでに話している。
一通りの話が終わると初期装備として「革の装備」一式と短剣が与えられた。そしてそのまま敵モンスターのわんさか蔓延っている森の中に放り込まれるわけだが、ゲームのシステム通りに話が進むのならばこの手に持っている短剣は敵モンスターに一回でも攻撃するとその場で壊れてしまう程に・・・脆い!
序盤で戦うレベル1程度のモンスターの防御力でも折れてしまう程この短剣は脆すぎるのだ。そうして短剣が折れてしまえば頼れるのはこの革の装備だが、この革の装備も防御力はほぼゼロに近いステータスを示している。もちろん、僕の攻撃は武器がないので与えられても1ダメージ程度、そして相手の攻撃は今の僕の体力にとっては即死級である。
村から出て一歩目の戦闘で僕は無様にも村の教会で復活する羽目になってしまった。
このゲームは一度ゲームオーバーになってしまうと大幅にステータスが下がってしまうという謎鬼畜システムが存在する。この世界にやって来る前にバグとともにこのシステムも改造できれば良かったのだが、突然この世界に連れてこられてしまったためにそのような時間はなかった。案の定、僕は毎回「革の装備」を貰っても始めのモンスターに簡単にやられてしまう。これがこのゲームの始まりクソゲー要素の一つ、「始まりのループ」である。このループを抜け出すにはステータスが下がる前のゲーム起動一回目の初戦で敵モンスターに勝つ必要がある。しかし、僕自身がこの世界にいる限りゲームのリセットは出来ない。そこで僕は考えた。正攻法が通用してないのであればバグにはバグをぶつけてみようと・・・。
数あるクソゲーと呼ばれるゲームをプレイしてきた僕の頭の中には今までの裏技やバグ技、システムの修復法などの知識が詰まっている。
まずやることは一つ。死に続けること。何回も全く同じ場所で死に続けることでゲームシステムに異常が起きるはず。
そうして僕は何度も何度も同じ会話を、同じ死に方を同じ場所で繰り返した。
そして死を繰り返して約9999回目。レベル1の雑魚キャラにやられ続け、1万回目の教会での復活を経て旅の始まりの直前、ステータス画面に突如として謎の画面が現れた。そこには赤い文字で「呪いの装備」と紫色の文字で「不死者の肉体」の二種の特殊ステータスが追加されていた。
「1万回にしてようやくかよ・・・、長すぎだろ。」
ステータスが追加され僕は改めて、最初の低モンスターに戦いを挑んだ。相変わらず短剣は一回目の攻撃で壊れてしまう。残されたのは素手での殴り攻撃。レベルが上っていないためにダメージは1しか与えることはできないが、受けに関しては新しく追加された「不死者の肉体」のおかげで即死級のダメージを食らっても即時回復する能力を経た僕はこの戦いにおいて決して死ぬことはなくなった。
30分ほどの長い殴り合いにより僕はようやく1万回、いやそれ以上の試行回数を経て始めの一歩を踏み出すことが出来た瞬間だった。今までにない難易度の攻略に僕は思わず目に薄っすらと涙を浮かばせていた。
始めのモンスターを撃退すると、暫くの間道中で出会った馬車の主人と共に次の町を目指すことになる。
だが今向かっている町にも異常が待ち受けていることはこのゲームをプレイしたことのある僕だけしか知らない。
「ここがバッカニア王国だ」
バッカニア王国。このゲームで一番初めに訪れる国である。本来のゲームでは王国に到着するとまず馬車を動かしていた主人の娘が族に誘拐され、それを無事に助け出すことで主人公は始めの宿と報酬として受け取るゴールドで武器を手にすることが出来る。しかし、ここはゲームの中とはいえ、主人公は数々のクソゲーを攻略してきた男。そんな簡単なクエストも雑魚武器も眼中にはない。もはやチート級の力を手に入れた俺にはもっと強い敵や強い武器が必要だ。
俺はとりあえずまた会うであろう馬車の主人と別れを告げ、王国の中に足を踏み入れた。ゲーム上ではここでバグが発生することもあり、バグると王国への入国料として所持金のカンスト値を要求されることがあった。もしゲーム上でそんなことが起きればデータ消去と引き換えにもう一度始めからやり直すことをおすすめする。何故ならこの辺りで敵を倒しても落とすゴールドはせいぜい1~2ゴールドほど。とてもじゃないがカンスト値まで集めることはそれこそチートを使わないと不可能である。
とりあえず入国バグは起きることなく10ゴールドを支払い、バッカニア王国に入国した。近隣で現れるモンスターのレベルが低いおかげで王国の中は比較的平和な印象を受ける。ストーリーを進めていけばいくほど国の治安は悪化していくが、ここでは食料も初期装備もちゃんとしたものが揃っている。俺はひとまず馬車の娘イベントが始まるまで国の中を散策することにした。とはいえ、一度ゲームでプレイしているため、店の場所や主要な人物の配置場所は既に記憶済である。それ以外の場所は特にストーリー勧めていく上では必要のないモブばかり。イベントが始まるまで暇を持て余す一方で、このゲームのバグについては一切気が休まらない。ここでは入国バグを除いてあと2つのバグが存在する。
「助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!」突然賑やかな街中に情けない声を大声で上ながら走る男の姿があった。小腹が空いた俺が露店で軽食を摂っている最中の出来事だった。ふと声がする方向へ見に行くと街中を駆け巡るあの馬車の主人の姿があった。
さて、ようやくイベントが始まったか。
「おじさん、一体どうしたんだ?」
「君はさっき乗せていた・・・、いやこの際誰でもいい!私の娘が族に攫われてしまったんだ!」
詳しい話を聞くため主人の経営する移動用の馬を貸し出す店まで訪れた。商売用の馬が何匹も休む厩舎が立ち並び、鼻につく独特の匂いが今までに嗅いだことのない匂いで一瞬失神しかけるも「不死者の肉体」のスキルのおかげで即時回復を何回か繰り返しながら建物の中に入ると、中は思っていたよりも綺麗にされていて店が思った以上に儲かっていることを表していた。
「私が厩舎に馬を戻している最中、突然見知らぬ男三人が現れ、娘を攫っていきました。娘が連れて行かれる寸前、男の一人が私に向かって言いました。」
娘を返して欲しければ、1万ゴールドをもってこい
娘を攫っていった男が言っていた言葉です」今どき娘を攫うタイプの族がいるのかと思っていたが、よくよく思い出してみればこれは一昔前に流行ったクソゲー。こういった要素が組み込まれていてもおかしくはない。このイベントが始まる前も散策を続けていたが王国の住人の顔はクソゲーあるあるでどれも似たようなモブの顔をしている。これは昔の画質が荒いせいか細かな場所まで金をかけられないパッケージ詐欺な金がないゲーム会社のやる思考である。まあそんなクソゲーを愛してやまない俺は現実でもこっちの世界でも相当な変人というわけだ。ひとまず主人から話を聞き終わり、助け出すかは少し考えたいと言って再び街に繰り出した。パソコンの画面で見ている街の風景と実際に自分自身の目で見て歩くのではまるで景色が違って見える。
ゲームだと画質とモブと一昔前のクソゲー特有の独特の視点切り替えを不便に感じながら攻略していくことがある意味快感になっていたが、実際にゲームキャラとして世界を体験していくとここが現実世界なのかゲームの世界なのかわからなくなってくる。それはさておき、確かこの始まりの国「バッカニア王国」では主要イベントが3つある、1つ目は今抱えている誘拐された店主の娘を奪還すること。2つ目は国王に呼ばれて王国の近くでモンスターが大量発生している原因追求とモンスターの討伐。最後は次の国に向けて出発するために仲間を一人集めること。この3つが主なイベントになるが、このゲームは何回も言うようにバグだらけ。これから先に何が起きるか、もしかしたら攻略通りにいかないかもしれない。弱気になっているつもりはないが自然とそういう思考になってしまう。そんなことを考えながら歩いていると「そこの兄ちゃん!」と野太い声で呼び止められた。声のする方向に振り返ると見るからに筋骨隆々な猛々しい髭を生やした男が腕組をして迫力のある笑顔で立っていた。男との距離は人間二人分もあるにも関わらず俺に対して確実にロックオンしている視線に妙に肌に感じる熱気。よく見ると髭面の男が立っている場所は勇者や兵隊などの戦いに行く者の武器を作る鍛冶屋だった。外からでも見える剣を打つ火花、男臭い雰囲気の外観だが店先に立つこの男からはどこか嫌な感じがしない。
男は俺が呼び声に反応したことを確認すると大きな足取りで勢いよく距離を詰め店の中に引っ張り込んだ。連れ込まれるまま視界は人々あふれる街の風景から鉄の剣などが壁に掲げられた荒々しい光景に切り替わった。
「ようこそ来てくれた!ここにはオイラが打った自慢の武器や防具があるから良かったら見ていってくれ!」強引に連れ込まれたというのにようこそとは。確かこの強引な演出があるモブキャラが序盤のストーリーにもいたがそれがこれか。
「きたわけじゃないが、とりあえず見させてもらうよ」俺の言葉に男も更なる笑顔で頷き鍛冶場らしき場所へと消えていった。この演出のイベントは特定のモブに話しかけて選択肢で武器がほしいと入力しないと発生しないはずだがこれもバグなのだろうか?起きそうもない場所で起きたバグに多少困惑するも壁や棚に置かれている武器や防具に目を向けた。このゲームでは店でアイテムを手に取るとその説明や用途についてステータス画面に表示される。転生したこの世界でもその機能は引き継がれているようで試しに近くにあった剣を手にとって見る。
攻撃力3 属性、特殊能力なし 鉄の剣 10ゴールド
こうして今までゲーム内で見れていたものも直接他人には見えないステータス画面で確認することが出来る。別のゲームだとこのてのスキルは「鑑定士」として希少スキルに認定されるがそれも昔のゲームあるあるでスキルに関するハードルが低い。改めて考えると一度完全攻略しておいてよかったと思う。おそらくだが、一度もプレイせずにこの世界に送られてしまっていたらと思うとゾッとする。数あるアイテムを鑑定しつつなにか良いものがあれば買っていこうかと思っていた。だが、ここには最初に見た鉄の剣以外にまともな剣が一切なかった。他の剣はどれも鉄に似たような硬度を持つ鉱石を混ぜ込んだなまくらばかり。鍛冶屋とは名ばかりの店だった。
「どうだい?うちの剣はどれも特別な卸業者から鉱石を取り寄せて作っているんだ。全部俺の自慢の剣や防具ばかりだよ」なるほど。そういうことか。ゲームを攻略済みの俺だからこそわかる真実。このゲームの敵モブに人工的に作られた偽の鉱石を鍛冶屋の卸業者に売りつけて儲けている商人がいる。おそらくここもその偽商人に騙されて鉄に似た鉱石を買ってしまったのだろう。この店主には可愛そうだが本当のことを打ち明けるべきか、いやもしかしたらここで武器を買って今の誘拐イベントを攻略すればバグを利用して一気にストーリーを進めるかもしれない。
「おじさん、この鉄の剣をくれないか?それとアイテムを入れるバックと動きやすい装備一式も頼む」オーダーを聞いた店主は始めに見た鉄の剣と防寒と通気性の2つの機能を兼ね備えた動物の革から作った革装備を見繕ってくれた。俺の能力に「呪いの装備」という項目があるがどうやらこれは革装備以外のものを受け付けないらしく新しく買った革装備なら呪いは適応されないみたいだ。
装備と新たな武器を手に入れ、俺は娘奪還イベントを攻略するため馬車の主人の元に戻った。
だが、戻った先に待っていたイベントに耳を疑った。
「娘をどうか助けてください!」
「わかりましたから、任せてください」この会話によりイベントが発生。これを攻略するまで次には進めなくなった。
俺は馬車の主人からイベントを受け、誘拐された場所まで向かうためクエスト画面を表示して目を疑った。
「馬車の主人の娘奪還イベント、場所:龍の巣窟 討伐対象:族一味、龍の子、竜王」
クエスト画面を二度見、いや四度見して俺はようやく理解した。
このゲームに今までの常識は通用しないのではないかと。
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