第2話 赤いバラの花束の中には一本の白いバラ

 「俺さ、最近貯金始めたんだ。」私が作ったカレーを頬張りながら、彼は唐突に話し始めた。

「へー、貯金。何か欲しいものでもあるの?」

「んー、将来に向けて…?えっと、何て言えばいいかな。」逡巡の表情の後、少し照れながら私の顔を見つめて名前を呼んだ。

「結婚したい。からその資金的なやつ…。」

「えー…。」私はびっくりするやら嬉しいやらで言葉を失った。

「それって…プロポーズ…なの?」

「うん…それに近いこと言ってるよね。あ、でもしっかりしたやつはちゃんとやるから。ほら、指輪パカーンってやつ。」指輪のケースを開けるふりをしながら彼はいつものおどけた調子で笑うと私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

 その数日後、彼が前妻とその子どもの養育費を払っていることが発覚する。

 

 私と出会う前に結婚をしていて、妻子がいたことを黙っていたということだけで彼との別れを考えたのではない。むしろ彼のことを好きだからこそ許してしまうのだろう。彼がついた嘘を愛おしいと思ってしまうくらいには、私は彼に溺れている。


 お付き合いを始めて数か月が経った頃、彼と結婚相手の条件の話になったことがある。この時も私たちは喫茶店のドルチェにいた。

「結婚相手の条件かぁ。まずは、暴力、浮気、ギャンブルで借金とかする人は嫌。」

「まぁ、それは問答無用でなしだよね。俺はそんなことしないから安心して。」

「うん、そんなことするような人じゃないって思ってるよ。」

「他は?」

「うーん。他?」ストローをくるくると回しながら考える。カラカラと氷の音が心地いい。

「例えば、あとは宗教とか、バツイチはダメーとか…。」

「あー、確かに!私の家は無宗教だからさ、なんか変な宗教に入らなきゃいけないとかは絶対無理だ。バツイチは…うーん、どうだろ。でもやっぱり初婚同士がいいかなぁ。前の奥さんとか子どもとかいたらなんか大変そう。」 

「あー、ね。ただ一緒に暮らすだけならいいかもしれないけど、結婚ってなると難しそうだよね…。まぁ、でも俺の家も無宗教だし、一応クリア?」

「じゃない?」やった!とガッツポーズで笑う彼を見て、ああ、好きだなぁと思った。彼との未来を想像して、頭の中の大事なものに一部靄がかかったようだった。

 今だから言える。恋は病だ。

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