彼とわたしと嘘
まりも
第1話 夢は真実か
彼と別れることへの葛藤が、私をどれだけ苦しめていることか。私は彼と別れようと考えているが、離れたくない気持ちが断続的に押し寄せてきて、心の内が揺らいでいる。どのくらいの時間が経っただろうか。彼の最寄り駅から家へ行く道の通りに「Dolce」という小綺麗でこじんまりとした喫茶店がある。さよならをする時、彼は必ず駅まで送ってくれるのだが、離れることが嫌でたまらなくて、「ドルチェのクリームソーダ飲もうよ!」と誘うのがいつの間にか恒例行事になっていた。
「冬にクリームソーダはどうなの?」と笑う彼が愛おしかった。クリームソーダだろうがラムネだろうが彼と一緒にいられるのなら何でもよかった。もう季節は夏になる。彼と出会ったのも暑い夏だった。私は今ひとりでドルチェにいる。クリームソーダのアイスはいつしか溶けて沈んでいた。
私が彼と出会った場所は、某チェーン店の居酒屋だった。知り合いに誘われて参加した飲み会に彼はいた。彼は斜向かいの席に座っていて、軽いトークを交わした後すぐに意気投合した。朗らかで笑顔がとてもやさしい人という印象。何の違和感もなく話が合う人だった。
初めて知り合った日、その日の翌日にはデートをして、その帰り際にはキスをした。予め決まっていた未来のように上手く事が進んでいった。
「結婚を前提にお付き合いをしてくれませんか」彼の部屋に初めて行った日、この時私たちはシングルベッドの上に向かい合って座っていた。少し緊張気味な顔と掠れた声は今でも覚えている。今から始まるという雰囲気の中、そんなことを言うものだから、私はなんだか可笑しくなってしまって、「真面目なんだね。」とケラケラ笑っていると「本気なんだよ。」とムッとした表情で私の右腕を引っ張った。すべてが順調だった。そう、順調だったはずだった。
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