1-33:ねぇ、私は
そこは、武骨な武器が寝台に立てかけられている、異質な部屋だった。
簡素な棚が一つ。男物の服が入っていた。
カーテンを少し開けた。窓からは森へと延びる道が見えた。夜も深くなり、月明かりだけが街を僅かに照らしていた。
「ここ、もしかして……」
男物があるあたりで薄々、感じてはいた。
ここはあの盾の人、ロックの――父の、部屋だろう。
武器が近くにあるってことは、狩りでもしていたんだろうか。
そんな人がどうして、勇者と共に戦ったんだろう。
謎は深まるばかり。
一度、立ちっぱなしもなんだからと、着ていた軽装を解いた。
ベッドに腰を下ろす。
「なんで、助けられなかったんだろう」
あのまま無理にでも、瓦礫の山をこじ開ければ良かった。
そしたら、私はこの部屋に招かれることもなかったのに。
誰かに罰してほしい、誰かにそれを怒鳴ってほしい。どうして助けてくれなかったのって、もっと力をつけていればって、責めてほしい。
けれど誰も、責めてはくれない。
心の奥では思っているとしても、それを口に出しはしない。
「どうしたら、良いのかなぁ」
ベッドに寝転んだ。
旅の途中で都度、分からなくなったらすぐに聞いていた癖が、悪い方向に出ていると実感する。
自分で考えることをやめてしまったから、いざ考えるときに答えが出せない。
「ねぇ、私は――」
そんなつぶやきはどんどんと、零れるように小さくなっていった。
「……ん」
目を開く。開きっぱなしのカーテンの奥には、木々の隙間から光が漏れ出していた。
どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
訓練の癖がここに来て現れたか、どうも早朝に起きてしまう。
とはいえ、早くて困ることはないだろう。
そう思い、部屋を出ようとしたところで。
「今日、予定聞いてなかったな」
どれくらいから作業するか、いつ出発するかなどをそういえば聞いていない。
今からリックさんの元へ行くわけにもいかないし。
そう思い、私はリックさんの部屋に置手紙を残し、訓練に行くことにした。
――裏手で訓練をしているので、起きたら今日の予定を教えてください。
部屋に置いてあった剣と盾を持ち、家を出た。
裏手は見えていた通り、少しの空き地だった。
何かが置かれている様子はなく、子供の遊び場にでもなっているんだろうか。
まぁ、いつも通りの訓練を行うと、地面がぼこぼこになってしまうから、素振りだけで良いか。
右手に剣を、左手に盾を持った。
これまでは両手剣一本だけだったから、少しの頼りなさと、少しの安心感が綯い交ぜになる、不思議な感触だった。
この盾は、持っているだけで安心できる気がする。片手で剣を持つことに抵抗はあるけれど。
「これからこのスタイルで行こうかな」
こっちのほうが、もっと多くの人を助ける戦い方ができる気がする。
攻撃に特化した、倒すことで、殺すことで守る戦い方だけじゃなくて。
「ふっ、ふっ」
剣を振る。
ただひたすらに。
「お、まだやってたんだ」
「あ、リックさん。おはようございます」
「おはよう。今日は挨拶をしたら、すぐ教国へと出発しよう」
リックのその言葉に思わずえぇ、と声を出してしまった。
普通は数日間滞在して、村人に対して売るはずだろう。早く出るだけ損になるはずだ。
「村長の奥さんが、今回売るはずだったものを買い取ってくれたんだよ。あとで売れるから、連れてってくれって言われてね」
「それは……」
感謝してもしきれない。
私はすぐに家に入ると、そこには母の姿が。
「本日はどうもありがとうございます」
「良いの。きっと使うだろうし、すぐに行ってあげて」
母が私の背中をポンと叩いた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
私はすぐに馬車に乗り込んで、教国へと出発した。
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