1-26:フィリア村に行け

「それで、盾の人について、全て教えて」

「落ち着け、知りうることを、儂にしか話せないことを話そう」


 そう言って、一つ、息を吸った。


「彼の名はロック。彼は国の南方にある森、その国境付近に存在する村、フィリア村で暮らしていた」

「フィリア村……」


 やっと出てきた、フィリア村。

 何か意味があるはずだと思っていたが、フィリア村はそう言う場所だったか。


「そして、ある日事件が起き、失ったものを取り戻すために戦うことを決意した。それからは王都に住居を借り、騎士団の盾とも言われたマルスに教えを受けていたようだ。そして魔王を倒すということで立候補、ということらしい」

「事件って、何だったの?」

「それは――知ってはいるが、話すべきではないじゃろう。フィリア村に行けば、誰もが知っていることだからの」


 杖の人でなくても話せるから話さない、ということだろうか。

 いちいちそれを聞くのもなんだから、ひとまずそれで納得することにした。


「なら、どうして盾の人は『愛してる』って言ったの?」

「それも、フィリア村に行けばわかる」


 そこが一番聞きたかったのだけれど。

 そんな考えを分かっているからか、むっとした顔を返された。


「ちなみに、その話っていつ聞いたの?」

「途中で停泊した中立国家、クリスタは覚えておるか?」

「あぁ、あの」


 最初の印象が悪かった所だ。っていう印象は可哀そうだろうか。

 あとは初めて買い物をしたところ、場所によって


「戦闘が終わり、来客用の部屋でじゃ」

「二人で楽しく男子会してたの!? なんで教えてくれなかったの!」


 男子会って言うほどどちらも年齢は若くないが……というつぶやきは無視した。


「ま、まぁ男子会じゃし、女子が居ないからこそ話せることもあるのじゃよ」

「そ、そう。――あぁ、だからあの日、私が起きた頃に訓練が終わったの?」

「そうじゃな。休みこそしたが、どうも深い眠りを取れなくてのう。年を取るとこれがまた……」


 脱線した話を無視する。

 今、私はもう一つ、考えるべき問題を抱えている。

 それは魔王との戦闘開始前。


『――そして、それは明確な記憶として存在している必要もない。例えば君たちにつけられた計画名、例えば世界に蔓延る悪事のその全て、例えば――君のいつも見る夢だったり。』


「ねぇ」

「もう若いころの……なんじゃ?」

「三つ挙げる、このことについて盾の人は何か話していた?」


 指を三本、伸ばした。

 その本数に心当たりがあるからか、杖の人は何かを考え始める。


「一つ、私たちにつけられた計画名。一つ、世界に蔓延る悪事について。一つ――私の、両親について」

「そうじゃな。答えは――その全て、じゃな。これもフィリア村に行けばわかることも多い。行ったあと、儂のもとに来い。足りないところは教えてやれるわい」

「今教えてくれても良いのよ?」

「それは儂のことだからの」

「――そう。わかったわ」


 頑固だと思ったらそう言う理由だったか。契約ほど深いものではないだろうけど、それに近しいものを交わしたのだろう。これ以上は期待もできなさそうだ。

 誰も伝えられないものは伝えない、とかだとすればなかなか遠回りさせる感じがする。そこまでして盾の人は何をさせたかったんだろう。


「まぁいいや。私は寝る」

「そうかい」


 外を眺める杖の人。目じりには涙が溜まっているように見えた。

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