1ー22:火の聖剣

「聖剣を、最高出力で放つ。だから、時間を稼いでくれ」


 火の人は、そう提案した。

 確かに、火の人の『聖剣』は、そういう特性だ。

 そしてその表情には、確かな自信があった。


「……任せたよ。『身体強化・光』!」


 光攻撃があまり通じないと分かっている相手に対して、無駄に魔力を溶かす必要はない。

 なら、残された私の攻撃手段は――直接攻撃。


 私は剣を抜き、その防壁の隣へ。

 大きく横に薙いだ剣は――水によって、流された。


「激流!」


 その防壁は、目にこそ見えなかったが、水が勢いよく流れていた。

 それも剣先を突き立てた瞬間に流されて弾かれてしまうほどに。

 敵とて生物、物理攻撃に弱いと分かっていて対策をしない訳がない。

 それが魔族でも上位である四天王なら尚更。


「無駄! どうやら貴女も私と相性最悪のようだ!」


 さらに球体から水がにゅっ、と伸びた。

 これは、釣られた。

 横に回避しようとして――そして、剣を構えた。

 ちょうど一直線上、私の真後ろに火の人が魔力を高めていた。

 なんて運の悪い……いや、誘導されたのか。


 これは避けられない。

 伸びた水は、少しの残像を残して消えた。

 ――来る。

 構え、衝撃に備えた時。

 目の前に影が落ちた。


「ふんぬぁ!」


 盾の人が前に出ると、手に持っていた大楯で攻撃を受けた。

 大楯の表面には綺麗な切り傷がついている。が、貫通力に乏しかったのか、破壊するには至っていなかった。

 ここまで来たら、あと少しだ。


 シグムルを見れば、手の指輪を口に近づけていた。


「させない!」


 その瞬間、矢が指の根本に刺さった。

 痛みに思わず手を振り払い、傷口を抑える。


「蛍火よ、狐火よ。『焼き尽くす火の聖剣、一段階』!」


 そこで、聖剣の完成を合図する声が聞こえた。

 火の人が炎を纏う。

 その炎は赤。その熱は彼女の象徴のような赤髪を妖しく揺らしていた。

 熱は水を退け、一気に熱風が押し寄せる。

 もう誰も彼女に近づけない。


「もう、大丈夫!」


 火の人はそう小さく呟いた。私はそれなら、と後ろへと下がる。

 瞬間、火の人は前に躍り出た。


 魔力の消費も、聖剣に比べれば些細なもので済んだ。と、感覚を確かめながら上を見る。

 未だ、魔王城の頂上は沈黙を保ったままだった。

 これだけ敵軍が侵入してきて、これだけ死闘を繰り広げて、これだけ城も壊れているというのに。魔王は顔一つ出してきてはいない。

 それは余裕の表れなのか、それともたどり着けないと考えているか。

 だが、どうやら決戦の地はあそこになりそうだ。そんな感じがする。


「火の人、あとは頑張って!」

「お前も死ぬなよ」


 火の人はさらに魔力を込めていく。


「火炎よ、爆炎よ。『焼き尽くす火の聖剣、二段階』!」


 さらに発する熱が高まる。


「離脱!」


 全員でタイミングを合わせ離脱。

 瞬間、炎が巻き上がった。

 これで彼女の聖剣は十分に『温まった』。起動こそ早いものの、熱が高まるまで時間がかかる。そんな特性を有している彼女の聖剣は、二段階目で水すら押し返す灼熱へと姿を変える。これで水相手も有利に戦える。

 私たちは誰も欠けることなく、魔王との戦いへ行ける。




 火の人は、戦闘を本格的に再開した。威力が上がり、速度が上がり。火の人目指し走る斬撃も、近づくにつれ細く消えていく。火の人が優勢、これなら私たちが先に行っても大丈夫そうだ。

 私が間に合わなかったら、聖剣の起動が間に合わなかったんだろうか。そんな考えがよぎったものの、確かめようのないことだ、と思考を切り替えた。

 

 いち早く魔王の元へと行くため、私たちは城の外壁や屋根を走る。

 やはり、防衛のために使うと考えられていたのだろう。雑なつくりの梯子や通路を伝って、上へ上へと昇っていく。


 そしてやがて。


「この真横です」

「わかった」


 きっと、魔王も私たちがここにいることに気付いているだろう。


 私は、不意打ちを捨てて、軽い魔法で壁に穴をあけた。

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