1-19:予定通り
「それじゃ、移動開始!」
私たちの馬車の後ろに土の人の馬車がついてくる形で、私たちは魔王の城を目指し始めた。
食料も十分量がある。戦闘以外で心配なことはない……はずだ。
「大丈夫。初めての外の世界だけど、意外と何とかやっていける。皆、優しいもの」
「……そうだよね。ありがと」
私は急いでパーティーメンバーの乗る馬車に乗り込んだ。
これから休憩まで、土の人と話せないのは不安。
けど、そううじうじといつまでも言っていられない。そう自分に喝を入れる。
くすぐるように香る草木が風に靡く。
「――あとは、覚悟だけ」
自身でも分かっているハードル。
頑張って答えを探してるものの、この心境だからなのか。
答えなんて、出てくる気がしなかった。
「敵確認、数三。攻撃開始」
報告、というには単調で返答を求めていない言葉が小さく響く。
誰かと合流することの方が稀だったのか、ほかの人と合流することはなく、馬車の旅は続く。
少し風が強い日だというのに、矢が外れることはない。
「あと何日くらいだろ……」
「そうですね、三日、余裕をもって見ても四日で魔王城に到着するかと」
弓の人は辺りの地形を見回した後、少し悩んでから答えた。
教会からもらった地図上では確かにその位置にはいるのだけど、戦争中というのもあってこの地図が正しい証拠がない。
それでも、ここまでの地形は合っているから、地図通りに行けば、という前提での推測だった。
もし地図が間違っている可能性なんて話し始めたら、これから何が起きるか分かったものじゃない。
それにしても、と地図を眺めた。
「そっか、もうそんなに進んだんだね」
「あれ以来、戦闘という戦闘もしていないですし。腕が鈍ったと思うのでしたらあえて攻撃しませんが」
今、弓の人が遠距離からの狙撃で敵が近づく前に倒している。
まぁ、もう一度何千体という敵が現れるとも思えないから、ひとまずそれで休息が取れる。
それに戦ったところで経験値になるかと聞かれればそれほど手ごたえもないし。
また、弓が鳴る。
長距離狙撃が得意な彼女は、きっと魔王城という室内での戦闘を好まない。
それを裏付けるように、今が私の戦いだと言わんばかりの矢の消費量だった。
一応予備もあるんだろうけど、と、少なくなった矢の束を眺めた。
「魔王城に着いたら、あとは私たちが何とかするよ」
「……お願いします」
何とか、出来れば良いのだけど。
そんな不安は、決して口には出さない。
「――敵確認……? いや、馬車」
その声は、攻撃の中止を告げた。
「目視確認、氷の勇者」
そして、良く知った名が聞こえた。
「氷の人!」
魔王城に行く前にあの人がいてくれるだけで百人力。
三人が揃えば負ける気がしない。
そう、思っていた。
「一度休憩中のようです」
「休憩……?」
まだ日中。夜間に進まないのは分かるけど、索敵が十分にできるこの日中に進まない理由が分からない。
不穏な空気を感じながら、私は馬車を降りるとすぐに氷の人の馬車に駆け寄った。
「光の勇者様!」
駆け寄ってきた私に抱き着いたのは、彼女のパーティーメンバーだろう、私たちより若い少女だった。
「何が、あったの?」
「……奥へ」
私は言われるがままに止まっていた馬車の奥へ。
そこにいたのは、氷の人が。
無事でよかった、と一瞬思ったけれど、彼女の状態を見て驚き、納得した。
彼女は、片腕を失っていた。
二刀流の刀使いが、片腕を失う、その意味。
「――光、ごめん。私はもう、戦力になれない」
もげたような切り口に無理やり包帯を巻いて止血したような形になっている彼女の腕。その先は馬車の中には見当たらない。
いくら治癒が得意な人がいようと、これじゃあ治癒のしようがない。お手上げだろう。
一度治癒を試してみるものの、治る気配はやはりない。結果的に、出血を止めるにとどまった。
「分かった。でも、片腕は無事なんだよね」
「片腕、ないから一刀流、慣れない」
二刀流で猛攻を仕掛けていたから、一刀流はあまり得意と、いや必要とはしていなかった。
だからこそ、戦闘力としては半減以上の効果がある。
「そっか……無理せず、としか言えないけれど」
「もちろん」
氷の人の目は、まだ死んでいなかった。
なら、大丈夫だろう。
「――無事に、合流できましたか?」
「――念の人」
また、念話が届く。
まさか、これも?
「合流は、出来ました、けれど氷の人が片腕を失っています」
「そうですか――概ね『予定通り』です」
家族が片腕を失うことも?
計画に織り込まれていた、とでも?
「ちなみに、これからの予定をすべて教えてはくれないの?」
「えぇ、随時、修正してお伝えします。今は、戦いに集中してください」
それは心遣いなのか、不都合を隠すためか。
私には、もう前者にしか見えなくなってしまった。
「……それで、次の指示は」
「最後です。魔王城に三人と、そのパーティーで進行してください。おそらく、ほかのパーティーが戦闘中ですので」
――今、なんて?
「既に戦闘? 誰が、いつ!」
「教えられません。ただ――早く向かわないと、死人が出る、とだけ」
そう言って、念の人との通話が切れた。
死人が出る、なんて言葉をここで聞くとは思っていなかった。
「二人とも! 早く出発するよ!」
「了解!」「了解」
失ったものは、もう仕方がないと割り切るしかない。
頭でそう結論付けて、心を押し黙らせる。
今、これ以上に悩む時間なんて、残されてなんていない。
勇気をもらうように私は二人の声を聞くと、全速力で出発準備を行った。
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