1-11:勇者は英雄ではない
「ようこそ、中立国家、クリスタへ。おもてなしできず申し訳ないですが、よろしくお願いします」
ようやく目的地である中立国家、その中枢都市マールへと到着した。
印象としては、王都とは違う、という漠然としたものだった。
王都を出た頃の視線はどこか憧れ、という感じの目ばかりだったけれど、今の人達は打って変わって、睨みつけるような、敵を見るような目をしていた。
それに、街も元気がない。人の通りが多いわけでもなかったし、窓はどこもカーテンがかかっていた。
まるで、私たちを見ないように、見ないほうが良いと言わんばかりに。
何か、勇者という存在に思うことがあるのか、それとももっと別の理由なのか。全く分からないけれど、その目を向けられるのは安心できないし信用も出来ない。
教皇様は何か考えがあったんだろうけど、全く理解はできなかった。
「外で立ち話というのもなんですし、中へとどうぞ。ゆっくりとお話しさせていただきます」
彼女は一番目が優しい。それでも王都との視線の違いはもちろんある。どこか、怯えているような、そんな印象の目。
個人の理由というよりも、地域的な理由とか、団体として何かされた、そんな感じの理由のような気がする。となれば、私のせいではないからどうしようもない気がするのだが。
さて、信用できないと感じてしまった人たちの居城に入るのは些か気が引ける。
なにせ、室内となると、聖剣は使えない。
特に私のは、自分より巨大な敵とか、人数がたくさんいるとかの、不利な状況を覆すことを得意としている。
部屋や建物の中で使えば当然、壊れて瓦礫が降り注ぐ。
きっと私は大丈夫だけど、ここで消耗する上にパーティーメンバーはきっと無事じゃない。
そんな面倒になることが分かっている建物に入る必要性は、正直感じていなかった。
とはいえ、こうして守ってくれる、という態度でいてくれているのに、それを受けないというのも失礼に当たるのかも、という思いがある。
どうしたものか、と思っているとき、後ろから声が聞こえた。
「いや、外で結構。伝えることがあるならここで頼む」
盾の人が、荘厳な雰囲気を漂わせながら言った。
それができるなら助かる、と思うと同時に、大丈夫だろうかという不安が脳裏をよぎる。
「……大丈夫ですか?」
「もてなしも不要だ」
そう言い切った盾の人。
ほかの人も小さく頷いていた。
私もいらないよ、と伝えると、「分かりました」とすんなりと引き下がった。
そしてそれを見てか、ほかの人達はこの場から立ち去っていく。
そしてあたりに護衛すらいなくなってから、彼女は懐から手紙を取り出すと、封が開いていないことを見せながら、それを私に手渡してきた。
封を開け、中を見ると見慣れた文字が。
「指示書、光の勇者パーティーは中立国家北部から魔王領へと侵攻を開始せよ」
この人が持っていたのは、教会からの指示書だった。
暗号となっているこれは、きっと彼女にも読めていないだろう。
それを確認してから、指示書を燃やした。指示が敵に漏れないようにするため、前もって教えられていた。
どうして、教皇様は紙でわざわざ指示書を送って来るんだろうか。念の人の手にかかれば、一発で臨機応変に指示が出せる。それほどに念話が強いと言っていたのは教皇様自身だったはずなのに。
そんな疑問が浮かんだけれど、紙で送られてきている以上、紙のものに従うしかない。
「侵攻を開始しよう」
盾の人は、私に小声でそう囁いた。
「馬車に乗って。すぐ行くよ」
私はすぐに馬車に向かう。続いて弓の人、盾の人、杖の人も乗り込む。
指示書に時間は書かれていなかった。正直どうしたら良いか分からない。なら早いに越したことはないだろう。
すぐに馬車に乗り込み、私たちは作戦区域へと移動した。
ただ、一つ失敗したのは、これからを想像できていなかった、ということだった。
作戦区域に着いた私たちは、その報告を受けて耳を疑った。
弓の人も、目を見開いている。
「敵数、千、二千――さらに増えます」
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