1-4:噂好きの風の人
「さて、それを知ってるってことは……」
もしそれが本当ならきっと、更なる情報を求めて教皇様の方へと歩いているはず。むしろ、私たちの今までの疑問に対する答えになるかもしれないのだから、そこにいないとおかしいレベル。
その推測をもとに、いつも教皇様がお偉いさんと話をしている部屋の近くを探してみる。
とはいえ、隠密行動の訓練なんて受けていないのに部屋の前に行くだなんて、と考えて、それ以外を探していた。
けれど、その姿はない。
「いや、まさかね……」
好奇心旺盛で自由な風の人が、このいかにも面白いネタを放置するわけがない。それは確実。
けれど周りにはいない。ということは……
嘘だったか、もっと攻めてるか。
ほかの人だったら前者だったけど、こと風の人に関しては絶対に後者だと言い張れるくらいの自信があった。
私は覚悟を決めて、その部屋のドアを見に行った。
まぁ、そうだよね。
「やっぱり」
「ちょ、ちょまち、しー!」
小声で風の人は口に指を添えて静かにするよう促すが、正直風の人のほうが声量が大きいような気がする。
けれどそれを言及すれば更なる大きな声が出てくることは見て分かるので、この辺りで口を閉じておく。
どうやら気配を感じても中の人は気づいていなかったらしい。それほどに何か大きな音が出ていたのか、はたまた音を気にすることが出来ないくらいの極限状態だったか――。
気配を感じる限り後者のように感じる。
風の人がもしかしたら何かをしたのかもしれないけれど、今はどちらでも良かった。
私は風の人が覗いていた隙間を同じようにして覗いた。
双方が椅子から立ち上がって部屋の隅に立っている。何をしているのかまでは隠れていて分からないけれど、まぁ気付いていないなら良し。
「それで、どうしたのさ」
少し遠くに行けば、すぐに風の人は切り出してくる。心なしか、そわそわと手足を動かしている。
早く戻って何か変化がないか見に行きたいんだろう、と勝手に思っているけれど……あくまで推測だった。
まぁ、この反応的にほぼ確定ではあるけれど。
一応、風の人に聞いてみることにした。
「もうすぐ勇者としてーっていう噂を聞いたから、一応聞きに来たの。作り話か盗み聞きか」
「あぁそれ。ほんとほんと。なんなら今その話してる感じ?」
指を差してもう足踏みしている風の人。
まぁ、これだけ早く会えたのだからそうなる。
問題が解決したわけじゃないけれど、問題が確定したと考えたら一歩前進だ。
「本当だったの。分かった、ありがとう、それだけよ」
「終わったね! それじゃもう一回盗み聞きしてくるから!」
そう言ってはトトトト、という音を立てながらまた聞き耳を立てに行ってしまった。
音を立ててよくばれないな、と少し不安を抱きながらも、とりあえず答えを得られただけ良かったというものだ。
「よし、二人に報告したいけど……まだ念の人の所にいるかな」
私はとりあえず、ある場所へと向かった。
「それで、私の所ってことねぇ」
「そう、もう行っちゃったのね」
念は一人、自室で頬に手を当てていた。
彼女の性格上、風とは正反対に、自室から出ようとしない。
彼女の特徴的にそれも必要ないので誰も部屋から出ろと言わないのだけれど。
「えぇ、丁度入れ違いくらいにねぇ。今さっき念を飛ばしたけれど、返事がない辺り、また盗み聞きでもしているんでしょうねぇ」
「大正解、もう聞けたから大丈夫だよ」
あら、どこにいたのか気になるのだけれど、と念の人は呟くものの、特に答えを求めているような風ではない気がした。
「一応、氷の人に念は飛ばしておいたわよ、にしてもまぁ、そんなに急がなくても朝食のタイミングで風の人に聞けば良いじゃないの」
「……まぁ、その時に言われてなかったら」
食事は今の私たちにとっての大事な場所。特に朝食は生活リズムが乱れに乱れている人も含めて全員が集まる、貴重なタイミング。
そしてきっと、教皇様が勇者として公表することを話すのも、そのタイミング。
それが確定して私たちに伝えられるのが、果たして今日なのか、明日なのか。
それでも、これから数日くらいには言われて、その二週後くらいには公表式が行われるだろう。それからは語られる勇者の物語から大きく外れない人生をすることが分かっている。
私たちの人生が、そうなることが確定している。あとは、どのタイミングになるか、と言うだけの話。だけど、やっと真実が知れると思ったら、そうゆったりと待ってもいられない。
「どんな内容か知りたいから、また後で聞かせてくれるかしら?」
「――氷の人に一応確認取ってみる。多分、夕食のときに、かな?」
「分かったわ。その時には私にも教えてくれると嬉しいわ」
氷の人だけは夕食の後にでも結果を話しておこう。
それにしても、念の人は内容をを聞いていなかったらしく、どんなことか分かっていなかったらしい。
氷の人が敢えて伝えなかったのか、それとも口数が少ない弊害か。
後者が圧倒的に多いけれど、前者がありうるから、という理由で私もまた伝えないことにした。
もちろん、とだけ伝え、私は部屋を後にした。
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