第十一話「来訪者」

「訪ねてきたのは……荒亀健司……」


「な、なんだって! 健司が!?」


「で、でも実は……友達じゃないかも……」


「ど、どういうことだ……? それより健司は今どこにいる!!」


ツルオは突然の情報に興奮していた。


「悪くないんだ!!」


サヤマは突然叫んだ。


「……? 何言ってんだ……?」


「悪くない……僕は……」


ツルオは嫌な予感がした。それと同時にまた、「考えたくない」衝動にかられた。


しかし、そんなもの、ツルオはすでに乗り越えていた。


「悪くないって……なにがだ? 説明してくれ…お前は悪くないから……」


「怒らないのか……?」


「ああ、怒らない……約束するぜ」


「一週間前……突然健司クンが訪ねてきたんだ……。でも様子がおかしかったんだ」


サヤマはずっと小刻みに震えている。


「健司は家に押し入って……”お前と一緒に死ぬ”……って!」


ツルオは理解ができなかった。なにもかもわからないツルオを無視し、サヤマは話をつづけた。


「健司は僕んちに油を撒いて……家ごと燃やそうとしたんだ!」


「い、意味が分からない、そうしてお前はどうしたんだ?」


サヤマはひどくおびえた様子で口を開いた


「……殺した」


ツルオは予想がついていた。しかしこの話を受け入れられなかった。それに、この話が事実なら、明らかに健司がおかしい。擁護できないほどに。


それでもツルオは親友の死を認められなかった。


「ウアアアアアアアア!!!!」


ツルオは無意識のうちに殴り掛かっていた。自分を止められなかった。


「やっぱり怒るじゃないか!! だからしたくなかったんだ、僕は悪くないのに!!」


ツルオはこのままコイツを殺してしまおうかとも思った。しかし、それではなにも真実に近づけない。踏みとどまった。


「……熱くなった、悪い……」


「僕だって何が起こったのかわからなかったんだ! 君も僕を殺しに来たのかと思って……」


「どうやって殺した。」


「拳銃で、初めて撃ったけど、心臓にあたったと思うんだ……」


「ちょっとまて、なんでお前みたいなやつが拳銃なんて持ってるんだ? 日本はいつから銃社会になったんだよ」


「……なんでだろう」


「……は?」


「なんでかわからない、なぜか、僕は拳銃を持っていたんだ!」


「なんだよソレ! 意味が分からねえ……」


「健司の遺体は?」


「確認してない……怖くなって……」


(生きてる可能性はあるのか……? 健司……!)


「わからないことが多すぎる……俺はいったん帰らせてもらう」


「ああ。わかった……また来てくれよ」


「……最後に聞いておくが、お前”ベンタ君”って知ってるか?」


「あの……テロリストの?」


「ああ……おれはてっきりお前が”そう”かと思ってたんだが……違うみたいだな、まだわからないけど」


「……え?」


サヤマの様子がまた変わった。


「悪かったな、でもいじめの話は本当に申し訳なかった。」


「……どうしてバレてるんだ?」


「……は……?」


「僕が……僕が”ベンタくん”なんだ……!」


明らかに様子がおかしい。


「正体を知るものは……殺さなきゃ!!!!」


「お、落ち着け、お前は混乱してるんだ!!」


突然、サヤマが落ち着きを取り戻す。


「油って乾くのか?」


「……急になんだよ、あたまおかしいのか?」


「これは賭けなんだよ……鶴島クン……」


サヤマは柄にもなくタバコを吸い始める。


「な、なにする気だよ……」


「死んだら……火葬がいい……そして棺桶には”漫画”をたくさん……”二十世紀少年”と一緒に燃やしてほしかった……」


「ま、まさかお前……!」


「ここに火をつけてお前を殺す」


ツルオは危機を感じた。


ベンタくんと対峙したときと同じような殺気を感じたのだ。


そして、コイツを生かしておいてはいけないと直感的に悟った。


気付くとツルオはサヤマを撃っていた。


しかしその時、サヤマの加えていたタバコから火が畳に燃え移った。



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