第十話「加害」

ツルオは一人で車を走らせていた。


車の外には懐かしいような風景が広がっている


ここにきたのは何年ぶりだろうか。


半グレのまま、何も考えず生きてきた。


ツルオは考えることを避けていたのだ。


そのしわ寄せが今、来たのだろう。ツルオは様々な考えを巡らせていた。


行先はもちろん「狭山」の住むアパート。


母親と今でも住んでいるらしく、ツルオや健司たちの実家と近かった。


「こんな店……あったっけ」


見覚えのある街並みに、一つだけ、見覚えのない建物があった。


「マジック用品……サヤマ……?!」


ツルオはその店をサヤマが経営しているのではないかと思い、車を近づけてみたが、「本日休業」の張り紙を見て、そのまま車を走らせ続けた。


そうしてサヤマの家へ着いた。


「ごめんください」


インターホンを押してそういうと、少し時間を空けてサヤマらしき男が出てきた。


足音が一切聞こえなかったので、ツルオはすこし驚いた。


「サヤマ……狭山聡介クン…?」


「はい、そうですけど」


サヤマは少しやせ気味で、頬がこけていた。ツルオはやっとサヤマのことをはっきり思い出した。


「突然訪ねて悪かったな……俺は……」


「鶴島キリオ君…だよね」


「あ、ああ。覚えててくれたのか、ありがとう」


「それで……なにか用が?」


「あ、えっと。俺……、昔、お前のこと虐めてたよな?」


サヤマは少し気まずそうな顔をした。


「まあ、うん。でももう気にしてないよ、君はあまり虐めてこなかったし」


「特に……マコトが虐めていたか。なんにせよ、許されることじゃないな……」


「なにか……「償い」がしたいの?」


サヤマは急に核心に迫ったような顔でツルオに尋ねる。


「償い……それで済むならわけねえぜ、ただ、できないこともあるけど……」


「じゃあさ……僕と友達になってよ」


サヤマは突然そんなことをいった。


ツルオは少し驚いたが、間をおいて返事をした。


「なんだよ……そんなことか、俺は殺される覚悟で来たからさ……」


「なんだいソレ……まあ、上がっていきなよ、"友達”だし」


「え? あ、ああ。じゃあそうさせて貰うわ」


ツルオはサヤマに少し気味悪さを感じたが、ここで断るわけにもいかず、家に上がることにした」


「なんでここにいるってわかったの?」


「え? いや……たまたまここを通りかかってさ、あ、そうだ。お前店とかやってんのか?」


「あ、それをみてくれたの。マジックが好きでさ……」


そういう割にはサヤマの部屋はマジック用品よりもマンガのほうが圧倒的に多かった。


「漫画……すきなのか?」


「え? ああ、うん。特にこの漫画が好きで……」


そういってサヤマは立ち上がり、本棚から一冊本をとった。


「”20世紀少年”。知ってる?」


「ああ、前に映画で少し見たっけかな。あんまり覚えてないけど……」


「初版、観賞用、読書用で、三冊あるんだ、一冊貸してあげようか?」


「え? 全部三巻ずつあるのか?」


「うん、集めるのも好きなんだ……読むのも好きだけど」


サヤマは少し誇らしげに語っていた。


ツルオは少し気味悪く思いつつも、悪いやつではないのではないかとい思ってきていた。


「じゃあ、一巻、借りてみようかな」


「わかった……えっと……あ」


サヤマが膝から崩れ落ちた。


「ど、どうした?」


「一巻……友達に貸しちゃってた……」


「なんだよ。そんなことか。平気だよ、また来てやる」


サヤマがこれ以上ないほどの絶望顔をしたので、来たくもないのに次回の約束もしてしまった。


「ほ、ほんとうかい……?」


「というか、こういうのもあれだが、友達いないのかと思ってたぜ、店の店員とか?」


「いや、一週間前、突然訪ねてきたんだ……、君の友達……」


「俺も知ってるやつ? 誰だ?」


「荒亀……健司クン……」



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