第九話「特定」

ツルオは幸村の後ろについていっていた。


「もしかして、前から言っていた”彼”のことですか?」


「気をつけて、彼は心にダメージを負っているから…」


幸村は秘密基地の奥へと入っていく。


そして、ツルオが入ったこともない場所に、大きな扉があった。


「この中に彼はいるわ…私は入らないけど…」


ツルオはなぜか扉に懐かしさを感じていた。


ドアノブは重く、少しさび付いていたが、ツルオはそれをズムースに開けた。


部屋の中には白髪の男が座っていた。


白髪の男のことを、ツルオは知っていた。


「奥村先生……?」


白髪の男はツルオ、そして健司とマコトの高校時代の担任教諭だった。


「なんでここに……?」


奥村はツルオたちが16のころ、新任教員としてやってきた。つまり、まだ四十代にもなっていない。それなのに、ひどく老け込んでいた。


「私が……止めれなかったからだ」


「止めれなかったって……いじめを?」


「私は君のことを今まで信用していなかったから言わなかったが…、私も彼女もベンタくんの正体に気付いていた……」


「彼女って…幸村さんのことですか?」


「波留さん(幸村)のことは覚えていなかったみたいだな……」


「え? だって幸村さんは年齢的に同級生でもないじゃないですか」


「彼女は39だぞ…、5組の担任なんて覚えてないか……」


「五組の担任……、細松先生でしょ…?」


「ああ…細松波留だ」


高2のころの記憶が鮮明に思い浮かんでくる。


「彼女は正義感が強くて…私たちのクラスに直接関わりはなかったが、いつも気にかけていた……」


「狭山聡介のことを……?」


奥村は黙ってうなずく。


「そこまでたどり着き、波留さんに行ってきたとき、君のことを信用した」


「あなたはどこまで知っているんですか!? ベンタくんのことを!」


「狭山の家を特定した……」


「……!!」


奥村はバサッと資料を机に広げる。


「ここに狭山は住んでる。あとこれを持っていけ」


奥村は机に黒い塊を置く。


「……拳銃!! こんなのどこで…」


「いいか……お前らは確かに取り返しのつかないことをした…だがヤツは…それ以上にとんでもないことをしでかす気でいる…」


ツルオは息をのんだ。


「まず謝罪しろ。そしてこれで撃ちぬくんだ」


「こ、殺せってことですか……?」


「ああ、無理なら俺がやるが、年齢てきにお前が最適だ…、杉原にも一緒に行かせるつもりでいる」


「どうしてそこまで……」


ツルオは思っていたことを口にした。


「家族も、家もすべて失った…、お前と同じだ」


「そ、そんな……」


「お前たちのせいだとは思っていない…止められなかった自分の責任でもある」


そういって奥村は銃口を口に向けた

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