第三話「彼らの基地」

少女は健司を置いて、足早に去っていった。


彼女を追いかけていくと、一人の女性が健司たちに話しかけてきた。


「ベンタくんに話しかけられたのね、あなた」


三十手前位に思えるその女性の目は、どこか光を失っているように見えた。


「はい…黒ビニールのテロリスト」


健司は思い出してぞっとした。


女性は何かを考えるように黙り込む。


ツルオは空気を読まず、女性に質問した。


「ここ、一体どこなんですか? もう、何もわからないんですよ」


女性ははっとしたような様子で説明を始めた。


「まず、私は幸村波留。そしてここは対ベンタくん施設。簡単に言えば私たちの”秘密基地”。」


「そもそも、ベンタくんってなんです? なんでテロリストに”くん”を?」


ツルオは健司が気になっていたことをずかずかと聞く。


「ヤツが自分のことをそう言っているから…。 自称”正義の味方”、ベンタくん」


「正義の味方か…。自分を正しいと思っている感じのテロリストだな…でもテロリスト一人のためになんでこんな秘密基地が?」


「後ろの君…。今妻と子はどうしてるの?」


幸村はツルオのほうを見ながら話す。


「い、今は反社にさらわれて…。もとはといえばそれが原因なんです!」


「知ってるわ…それはすべて、ベンタくんが仕組んだことだから」


「!! どういうことですか!?」


「”彼”がベンタくんのPCから情報を抜き取った…。そこであなたが標的にされていることが分かったの」


「な、なんで俺が?」


「知らないわ。無差別かもしれない」


「無差別って…!」


健司は深い憤りを感じていた。理由もなく人が死んでいいはずがない。


「ツルオ…理由を聞きに行こう…」


「は…? 何言ってんだよ健司」


健司の足は勝手に動いていた。


ツルオはすでに見えないところにいた。


「ちょ、ちょっと幸村さん! 止めてくださいよ!」


「あの目をしている人間は…止めれないわ」


「も……もう…!!」


健司は走っていた。


久しぶりに風になった気分だった。高校時代、健司は陸上部に所属していた。


その感覚をわずかに思い出していた。


そこからは一瞬だった。いつのまにかホテルについていた。


心なしかそのホテルがさっきよりも安っぽく見えた。


健司はナイフ一本持たずテロリストへと立ち向かった。


部屋にはベンタくんがいた。


まるで来るのがわかっていたようにこちらを見ていた。


「やあ…久しぶり」


「まだ数分しかたってねえ…なんでツルオを狙う…?」


「ああ…そのことか…そのこと…」


ベンタくんがかぶっている黒ビニールから水滴が垂れる。


「く…うぅうう…」


「!? 泣いてるのか!?」


「悲しくて…」


ベンタくんは自分の眉間を抑える


「これから彼の家族はどうなるのだろうと思うと…」


健司の堪忍袋の緒が切れた。


無性に腹が立った。


「お前がやったんだろうがああ!!!」


健司はベンタくんの腹に拳を打ち込む。


「堅ッ!!」


ベンタくんの身体は鋼のように鍛えられていた。


「健司クン…。 さよならかも」


ベンタくんはポケットから拳銃を取り出した。




「ハァ…ハァ…なんであいつはあんなに速いんだよ! 元陸上部ってすげえんだな…」


ツルオはワンテンポ遅れて健司を追いかけていた。


「確かこの突き当りを…。あった!」


やけに豪華なビジネスホテルに内心おびえながら入ろうとしていたその時だった。


パン!!


と激しい音が聞こえた。


「これってまさか……銃声…?」


ツルオは無我夢中でホテルへ走っていった。部屋の番号を思い出し、これまでにないスピードで走っていく。


「ここだ…連れてこられた部屋…!」


ドアをゆっくり開けると、そこには死体があった。


「健司!!! お前…!!」


ツルオは健司と思われる死体を見直した。


…首がない。


首がどこにも存在しない。臆病なツルオが断裂面を直視できなかった。


吹き飛ばされたのか、ねじとられたのかはわからなかった。


「お前…健司だよな…」


服装は健司と同じだった。


健司が勝利したと考えるには、もはや絶望的な状態だった。


「俺が…ムチャなお願いしただけに…お前がそんないいやつだったなんて知らなかったよ…」


ツルオは健司の遺体を背負い、ホテルを後にした。


数分後、背後で爆音がした。


ビジネスホテルが爆発したのだ。


「熱ッ…!!」


その衝撃で健司の死体が落ちる。


「ああっ、健司!」


ツルオはその時、健司の死体を見てなにかに気づいた。


「な、なんだこれ........!!」


序章・おしまい



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