第二話「黒い男」

目が覚めると、見知らぬホテルにいた。


起き上がると、黒いビニール袋をかぶったあの男がいた。


「うわあああ!! な、なんだお前」


あからさまに不気味で奇妙な男は、淡々と話し始める。


「やだなあ。 助けてあげたんじゃないか。 感謝もないの?」


男の口調はどこか機械的で、感情の起伏がわからなかった。


「数人の大男を、あんたが…?」


「僕を見たら逃げて行ったんだ。 なんでかな?」


「そりゃ不気味だもんあんた…。 なんでそんなもんかぶってるんだ?」


ビニール袋の男は黙る。


「そ、そういえばツルオは? 俺と一緒にいたもう一人の男!」


男は黙って奥のベッドを指さす。


そこには寝ているキリオの姿があった。


「いやあ、僕はなんだかうれしいな。 少し外の空気を吸ってくる」


突然、黒ビニールの男は部屋から出て行った。


ツルオは何度声をかけても返事をしない。もちろん、息はしていた。


ふと、男のバッグが目に入った。


男は気になるところが多すぎる。


見た目から口調、行動まで、すべてが不気味で怪しい。


とりあえず、こっそりバッグの中を見ることにした。


「なんだこれ…、黒いビニールばっかじゃねえか…」


男のバッグには黒いビニール袋は無造作に入っていた。しかし健司は、バッグの底にある硬い感触を持つものに気づく。


「なんだこの感触…」


ビニール袋をはがし、その硬い感触を持つものの正体を知る。


健司が見たものは、爆弾だった。


「漫画で見た爆弾みたいだ…おもちゃか…?」


その爆弾は灰色と赤でポップに着色されており、配線コードなどは見当たらなかった。


「まさかな…」


その時、ツルオのスマホがポロンとなった。


すこし驚いたが、無性にその通知が気になり、ツルオのスマホの待ち受けをのぞいてみた。


通知元はニュースアプリだった。


”黒ビニールのテロリスト、いまだ逃亡中”


健司は背筋が凍った。全身の危機管理能力が”逃げろ”と健司に告げた。


ツルオを置いていくことはできず、おぶって必死に逃げた。


ホテルのロビーにも黒ビニールの男はおらず、健司はビジネスホテルを後にした。


「今見たら…やけに豪華なビジネスホテルだったな…」


その時、ツルオが目を覚ました。


「! あ、あの男はどこだ?」


ツルオは健司の背中から降り、鬼気迫った顔で尋ねる。


「今逃げてるんだ! 勘違いかもしれないけど、危ない予感しかしない!」


ツルオはそこから喋らなくなり、二人は無我夢中で走った。


20分ほど走って、自分の体の疲労に気づき始めた。


「健司…俺はもうだめだ…」


「ここらで休んでもいいかもな…。きっとあのテロリストの目的は俺たちじゃねえ」


「じゃあなんで俺たちをホテルにつれこんだんだ…?」


「知らねえよ、というかホテルの係員とかがきっと警察を呼んでくれてるさ…」


息も絶え絶えながら会話していると、奥から少女の声が聞こえてきた。


「おじさんたち、ベンタくんの被害者?」


「ベンタくん? なんだいそれ」


「黒いビニールのテロリスト。正体は誰も知らない」


「そ、そうだ、嬢ちゃん。おじさんたち今逃げてきたんだ、何か知ってるのか?」


「まてツルオ! 罠かも!」


少女は近づいてくる。顔は隠しておらずかわいらしい顔をしていた。


「健司、この子は純粋だって」


「おじさんたち、ついてきて」


そう言って少女は路地裏のマンホールに消えていった。


「ツルオ、お前先入れ」


「そりゃないって健司ー!」


「お前は安全だと思うんだろ?」


ツルオはしぶしぶマンホールの中に入っていった。


「なんだこれええ!!」


ツルオは入った瞬間叫んだ。


「どうしたんだツルオ! やっぱり罠だったんだろ!!」


健司はマンホールに顔を突っ込む。


「なんだよ…これ…」


マンホールの下には、小さな町が形成されていた。

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