052.幕間2
「星野さん! 星野溜奈さん!」
「…………はい?」
とある春の日の放課後。
1日の授業を終えた私は、いつものごとく早々に荷物をまとめて教室を出ようとした。
目指すは別のクラスの教室。
構造上の問題とやらでその教室自体は校舎違いになってしまったけど、私は毎日放課後になると向こうの教室へを足を運んでいた。
目的は大好きなおねぇちゃん。
臆病な私と違って何でも自分の意思で動くことができ、こんな私を引っ張ってくれる大切なおねぇちゃん。
この学年になってクラスが別々になってしまったけど、それでも私たちの仲は変わらない。だって家族なのだから。
それに……向こうには亜由美ちゃんだっている。
幼稚園の頃から仲のいい大切な友達。
私たちのことを家柄として見ない数少ない友達。そんな2人が向こうに行ってしまって寂しいけど、それでも学校生活は続いていく。
だから私はなんてこと無く校舎間を往復する。あと、こっちのクラスだと友達が皆無ってわけじゃないもん。
「よかった、まだ居てくれて……星野さんっていっつも放課後になるとすぐ消えちゃうもの」
「はぁ…………。すみません。 今日はクラスが終わるの遅くなってしまったもので」
私が教室に出るより早く声をかけてきたのはボランティア部の先生。
この学校は文武両道を心がけている等の理由で、全生徒何かしらの部に所属することが義務付けられている。
きっとお嬢様学校らしく外の人たちに気を使ったものだと私は考えていた。
そして、私が所属するのはボランティア部。理由は簡単、ここは数少ない幽霊部員が認められている部活だから。
あとクラスの友達に人数不足だからと熱心に誘われたというのもあるけど…………。
残念だったのは、おねぇちゃんとは分かれる結果になっちゃったこと。でも、幸いにもこれまで一度も招集がかかってこなかったから、結果的には大成功の選択だと思う。
そんな先生が何の用だろう。もしかしてあまりにも来ないからクビとか?
「それで、何か御用でしょうか? 私、おねぇちゃんを待たせてるんですが……」
「あ、ごめんね。 星野さんって明日の土曜日空いてる?」
「明日……ですか……」
明日といえば家に亜由美ちゃんを招いてパジャマパーティーをする予定がある。
日中は準備があるとはいえ無いこともない。
「明日だけどね、朝からお昼過ぎまで河原の清掃活動があるのよ! 参加……できない?」
「清掃活動っていうと毎月やってるものですね。 どうして私に……?他に人はいないんですか?」
「それがね……4人ともご家庭の事情とか発表会とかで来れそうにないのよ。4人全員ダメって初めてだし、もう行くって先方には伝えてるからキャンセルもできなくって……。だからお願いできないかなぁ?」
4人ともムリなのは珍しい。
入部してからこっち、もう2年も経つけどこんなことは初めて。
裏を返せば2年間4人が頑張ってくれていたのだ。私も幽霊とはいえ部員の一員だし……うぅん……
「まぁ……いいですよ。 明日……ですよね?」
「いいの!? 助かるわっ! 詳しいことはこれに書いてあるからっ!!」
先生に渡されたのは一枚の紙。
時間は……10時から2時間か。これならパジャマパーティーの準備にも間に合いそう。
「それじゃあ明日ねっ! ありがとう!内申点はプラスにするよう言っておくから!!」
「はい……また明日…………です」
多少強引な気もしたけど、ずっと幽霊だったわけだしこれくらいならしょうがない。
私は紙をバッグに突っ込んでおねぇちゃんの元へ駆けていくのであった。
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―――――――
「えっ! 明日ボランティア部の活動!? 溜奈一人で!?」
その日の夜。
私はお風呂の湯船に浸かりながらおねぇちゃんに明日の予定を伝えていた。
「なんでそんな大事なこと教室に来てすぐ言わないのよっ!」
「だってぇ……おねぇちゃん、教室で亜由美ちゃんと明日の予定立ててたんだもん……」
あれから私がおねぇちゃんの教室に向かうと、2人で話し合いながら明日のパーティーについて話し合っていた。
そんな中、話に加わったら忘れちゃうに決まってるじゃん。
「他の部活メンバーは居ないのよね……。私は行けそうにないし、溜奈一人で大丈夫かしら……。ボランティア中に襲われたり誘拐なんてされたりでもしたら…………」
「先生も来てくれるから大丈夫だよ~。 行ってすぐゴミ拾いするだけだし」
「可愛い可愛い溜奈の一人旅なのよ!! 今からでも田宮さんに着いてきてもらうとか――――」
「私、おねぇちゃんと同い年なんだけどな~…………」
プクプクと湯船で泡を吐き出して抗議の意を示すもまったく気付いてもらえない。
おねぇちゃんって過保護すぎるよ。もう私も中3だし、一人で買い物だって簡単だもん。
けど可愛いって言ってもらえるのは嬉しい。おねぇちゃんも可愛いよ。
「せめてその髪は隠して行きなさいよ? 学外では色々と悪目立ちするんだから…………」
「わかってるよぉ。 ママの教えだもん」
若い頃のママは日本の学校に来てかなり苦労したらしい。
当時の写真を見せて貰ったけどかなり可愛かった。その上私たちと同じ銀髪だったものだから街に繰り出すと、殆どと言っていいほど言い寄られてきたらしい。
幸い私たちは当時の教訓からか、外に出る時は髪を隠すよう徹底され、そういうものに遭遇したことはない。
もしかしたら常に使用人の田宮さんがいてくれてたからかも?
だからこそおねぇちゃんが心配するんだと思う。田宮さんもいないし、私一人きりでの外出だから。
でも私からしたら、もう中学も終わりに近いのだしそれくらい任せて貰ってもいいと思う。田宮さんにそう言っても「1人きりの外出は、2人を守ってくれる人ができたらねぇ……」て言ってばっかり。ヤんなっちゃう。
「あとちゃんと身を守るものは持っていくこと!何だったらママに頼んでスタンガンでも持っていくといいわ! それから――――」
「もうっ! 子供じゃないから大丈夫だよぉっ!!」
「きゃっ!!」
いい出したら止まらないおねぇちゃんを止めようと掛けたお湯は、見事その顔へ。
思惑通り言葉が止まったはいいけど狙いは顔の横だったのに……。恐る恐る様子を伺うとおねぇちゃんは今度は顔を伏せながら手をワキワキとさせている。
「お……おねぇちゃん……?」
「やったわねぇ……とりゃぁっ!」
「ひゃんっ!! ―――――あははっ!やめておねぇちゃん……やめてってばぁっ!!」
突然伸びたおねぇちゃんの手は私の脇下に。
そのままこちょこちょと手を動かすと、くすぐられた私は耐えきれず笑みがこぼれてしまう。
「生意気なこと言う妹にはお仕置きよっ! おしお……き……よ…………?」
しかし、くすぐってからすぐのこと。おねぇちゃんは次第にその手の動作が止まっていって完全に静止してしまう。
おねぇちゃん……?下ばっかりみてどうしたの……?
「溜奈……あなた、もしかして……おっきくなった?」
「えぇ!? そんなぁ!? おねぇちゃんと同じものしか食べてないのに!?」
「いえ!そうじゃないのよ! …………ううん、なんでもないわ。気のせいだったみたい」
パッと手を離して笑みを浮かべるおねぇちゃん。
そんな……太っただなんて考えたくないよぉ。ちゃんと体重には気をつけてるもん……。
「まぁ、頑張りなさいな。 お昼過ぎには帰ってくるのよね?パーティーの準備は任せなさい」
「ありがとぉ! よろしくね、おねぇちゃん」
私たちは両手を重ね合わせておでこをくっつけて笑い合う。
明日はきっと運動が苦手な私にとって大変な日になるだろう。頑張らなきゃっ!!
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