044.女子会プラスα


「――――それで、なんで怜衣ちゃん溜奈ちゃんはコイツのことが好きになったの?」


 テーブルの上に広がっているお菓子とジュースをそれぞれ食べながらノンビリとおしゃべりする女子会プラス俺。

 そんな談笑の中、ふと柏谷さんが頬杖をついてクッキーを食べながらそんなことを問いかけた。


「なんでって…………前にも言ったじゃない。こっちに入学して話したりしてたら段々と……ね」

「もちろん覚えてるわ。 ……でも、どう考えても人見知りとお固い人がそう簡単に付き合って3股さえ許容するなんて思えないのよ。やっぱりコイツに弱みを握られたとしか…………」


 ギロッ!っとベッドに腰掛ける俺をにらみつける柏谷さん。

 俺が弱みなんて握れるわけない!むしろその財力でこちらの弱みとか握られてるんじゃないかって思うくらいなのに。

 でも、付き合った理由は俺も不思議なんだよなぁ…………。


「ないよぉ! 亜由美ちゃんたら心配性なんだからぁ」

「そうは言っても溜奈ちゃん、どうして……いや、コイツのどこが好きなの?」

「えっ――――」


 虚を突かれたように目を丸くする溜奈さん。

 あれ、ホントに女子会になってない?俺この部屋から出ていったほうがいい?


「えぇと……どこって……カッコいいし、優しいし、いい匂いだし……それに――――」

「――――そこらへんにしときなさい、溜奈。亜由美が凄い顔してるわよ」

「えっ? あぁ!ゴメンねっ!私ばっかり好きに喋って!」


 溜奈さんが言葉を紡ぐたびに信じられないと言うように歪む柏谷さんの顔。

 そんなに柏谷さんは俺が嫌いか。…………嫌いだろうなぁ。


「ま、まぁ……とりあえず置いておくわ。 じゃあ、琥珀さんは?」

「ボクかい?」

「えぇ。なんで好きになったの?」


 続いて呼びかけられたのはハク。

 俺のいる場でカミングアウト大会なんて一種の罰ゲームなんじゃないだろうか。いや、嬉しいんだけどね……。嬉しいけど恥ずかしい。


「うぅん……ボクたちはいわゆる幼馴染だからなぁ……。ずっと一緒にいる家族みたいなものだし、好き合うのも自然っていうか……」

「ふぅん、自然……ねぇ……」


 そっとベッドに座る俺の脚へ寄りかかってくるハクに少し顔が赤くなるのを感じる。

 そう思ってくれていたのか……ずっと秘めていた思いが一緒って、嬉しい。


「キミは居ないのかい?幼なじみとか、仲のいい男の子は」

「私? いるわけないじゃない。幼い頃から女子校育ちで同年代との関わりなんて無かったわよ。…………あっ――――」


 ありえないと言うように肩をすくめたものの、話すうちに何かを思い出したのか音を漏らす。

 それに最も敏感に反応したのは溜奈さんだった。


「えっ!?あるの亜由美ちゃんっ! 教えてっ!!」

「い、いやいやいや!ないない!! そんな幼なじみなんて!!……でも、そうなり得たかもしれないっていう子は居た……らしい」

「らしい?」


 らしい?

 なんだそれ?又聞きってニュアンスだけど…………はっ!まさか彼女も記憶喪失とか!?仲間!?


「ウチのパパの話なんだけどね。 高校時代に親友がいたんだけど、結婚直後に病院の跡継ぎ関係で忙しくなって疎遠になったらしいのよ。

 それで『亜由美にも本来なら幼なじみが居たはず』ってお酒入ると語りだすから……。 まぁ、いわゆる妄言よ。実際には知らないし気にしないで」

「へぇ……初めて聞いたわそんなこと」

「私も高校入って知ったもの。酔っ払いの戯言だからすっかり忘れてたわ」


 戯言て。

 でも、もしそれで彼女の父親が忙しくなかったらその人とフラグ立ってたんだなぁ。幼なじみ(未遂)も逆玉がかわいそうに。


「へぇ……いいねぇ、ロマンティックだ」

「そんなことないわよ。そもそも向こうが女の子だったらどうするのよ。ロマンの欠片もないわ」


 あぁ、なるほど。そういうパターンもあったか。俺的にはそれを見るのも大歓迎なんだけど。


「それじゃあ亜由美、私たちがその幼なじみってことは!?」

「……確かに幼稚園から一緒で幼なじみだけどね。でもパパの親友じゃないわ。聞いたもの」

「なぁんだ。 残念」


 俺も残念。

 昔から仲が良かった親友同士が、実は父親同士も親友だったって凄くいいのに。


 けど、案外柏谷さんも普通の女の子なんだなぁ。

 金持ちの世界なんて知らないけど、社交界かなんかで親に許嫁を決められるとかあるかと思ってた。


「私のことはもういいでしょっ! もう十分休んだし勉強再開するわよ!」

「えぇ~」

「その溜奈ちゃんの嘆きも懐かしいわね……。私には効かないから片付ける片付ける!」

「はぁい……」


 溜奈さんを筆頭に、まさか勉強が再開されるとは思っていなかった2人も渋々といった様子で机の上の物を片付ける。

 でも結局、それ以降はロクに集中が続かなくて30分でお開きとなるのであった――――。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「ただま~」


 勉強会を終えてから数時間経った午後19時。まだ若干明るいが1時間と経たず真っ暗になってしまう直前の時間。

 俺は一人、歩き慣れた道を通って実家へと戻ってきていた。


 およそ半日と経っていない帰還。

 それもこれも、父さんが呼んでいると連絡が入ったからだ。


 一人暮らしを認めてくれ、お金も出してくれている父さん。そんな人からの呼び出しに逆らうわけにはいかない。

 けれどここ数ヶ月過ごしてきて呼び出されるなんて初めてだ。何かあっただろうか。


「おかえり、泉。ご飯食べてくわよね?」

「うん。もう帰るのも怠いしこっちで寝ようと思ってる」


 幸いながら今日は土曜日。

 1日寝ても日曜日になるだけで休日は続行だ。

 ビバ連休。だから土曜日は大好きだ。その分日曜日の夜なんてテンションが最底辺に落下するが。


「ならこっち泊まれって言う必要もないわね」

「? どゆこと?」

「さぁ……父さんがそうしてくれって。 リビングに居るわ」


 言うことを言って2階へ上がっていく母さんを尻目に、俺はリビングへと足を踏み入れる。 

 そこには昨晩と変わらずテレビを見ているフリをしてスマホゲームをしている父さんがのんびりソファーに座っていた。


「ただいま、父さん」

「……あぁ、帰ったのか」


 そんな父さんと話すため、近くのカーペットへと腰を下ろしてテレビを眺める。

 父さんと話す時はいつもこうだ。お互い向かい合ってると話しにくいからテレビの画面を眺めてポツリポツリと話す。それが1番話しやすい。


「で、なにか呼んだ?」

「あぁ……泉、明日暇か?」

「明日? まぁ……予定はないけど……」


 まさか明日のイベントの打診?

 まぁ、やることといっても勉強しかないし、見てくれるハクには一言メッセージを送ればいい。


 にしても珍しいな。父さんがせっかくの日曜にそんな打診なんて。墓参りでも行くのかな?


「ならいい。 泉には明日な………………」

「……? なに?明日、なんかあるの?」


 明日……何があるというのだ。

 父さんはそれ以上の言葉を言おうとしているが口をモゴモゴするだけで発しようとしない。何か言いにくいこと?


「その、な…………。明日、泉には…………お見合いに行ってもらおうと思ってる」

「…………はい?」


 うんと時間をかけて出た言葉は『お見合い』という言葉。

 そのシンプルな言葉に、彼女持ちである俺は思わず聞き返すのであった――――。

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