015.許されない寝坊
…………何度気まずい空気を作れば気が済むんだ!!
狭い狭い我が家には過去最多、4人が一つの空間に集まっている。
幸いにも朝ごはんは全部食べきったが、空気が最悪だ。
一触即発。気を抜けば開戦まっしぐらという雰囲気。
俺はテーブルを挟んで正面に座るハクと、側面に座る怜衣さん、そして後ろに隠れる溜奈さんを順に目で追っていく。
溜奈さんは隠れてわからないが、他の2人は目を閉じて何を思ってるのかが全く読めない。
けど空気が最悪だってことはわかる。でも逃げようものなら何倍にもなって返ってくることもわかる。
まったく、本当に何度こんな空気を作れば気が済むんだろう。
誰のせいだ!?…………俺のせいか。今回ばっかりは寝ぼけて気が緩んでいた。彼女らが来ることなんて想像に難くないのにハクに流されてしまったことが失敗だった。
あの時呼び止めて2人を返していれば穏便に済んだのに……失敗した。
――――って、あれ?そもそもなんで変な空気になってるんだ?
たしかにここへ3人が来るなんて予想していなかったけど、全員と約束もしてない上、ハクと怜衣さんらは友達になったはずだ。
あのカフェに行った日、連絡先を交換した日からハクと怜衣さんたちは学校で話すところもちょっとだけ見るようになった。
なのに何故こうも妙な感じになってるのだろう。
「ねぇ怜衣さ――――」
「……セン」
「はいっ!」
何気なくいつもの感覚で怜衣さんへと来た理由を問いかけようとしたが、それより早くハクに呼びかけられて思わず勢いよく返事をしてしまう。
だってさっきと比べて声低いんだもん。威圧感あるんだもん。
「ねぇセン。なんで土曜の朝からこの2人が来てるんだい? もしかして……呼んでた?」
「い……いやいや!俺も知らない!! 今日は昼まで寝るつもりだったんだし!!」
「ふぅ~ん…………」
一応は受け入れてくれつつも訝しげになり、腕を組むハク。
俺だって知りたい。なんで来たのか、そもそもハクはなんでそんな不機嫌そうなのか。
「ほらほら、そんな不機嫌そうにしてたらせっかくの可愛い顔が台無しよ?」
「むっ……。 原因になった人がそれを言うのかな?」
「あら? 私は彼に快適な目覚めを提供しようと思っただけよ。まさか起きてるとは思わなかったけどね」
俺も。
まさか土曜日の早朝から起きるなんて思わなかった。
でも、もしハクが起こさなかったら怜衣さんたちに起こされてたのか。あれ?お昼まで寝れる選択肢なくない?
「ほう……快適な目覚めってなんだい?」
「えぇ。まず彼が寝てる間に私と溜奈が両側に寝転んでからその寝顔を堪能するのよ。一応呼びかけはするけど、起きなくっても良し、起きたらギュッて抱きしめるも良しだわ」
あ、一応昼まで寝れることはできたのね…………じゃなくって!!
どっちにしろ寝れないじゃん!ベッドでモゾモゾされたらさすがに気になるし、気付いた時には恥ずかしさで失神するから!!
ハク様起こしてくれてありがとうございます!!
「ごめん怜衣さん……さすがにそれは勘弁して……」
「あら、あなたがそう言うなら止めておくわ。 でも私たちにもなんで白鳥さんがいるのか教えて貰える?」
「それは――――」
「――――もちろん、センを起こすのに加えて朝ごはんを作りに、ね」
俺が言うよりも早くセンは自らが来た理由を説明する。
視線の先には多めに作ったであろう味噌汁の鍋が。あれ美味しかったなぁ。
もしかしてこの1年でかなり腕上げた?
「ふぅん……。じゃあ泉、明日は私たちの朝ごはん食べてくれる?」
「明日!?」
「だめ……ですか?」
「いや……ダメじゃ……ない、けど……」
「じゃ、決まりね! 明日楽しみにしてなさい!!」
怜衣さんに加え、溜奈さんの後押しによって即陥落。
明日も早起きか……せめてもうちょっとゆっくりしてもらうように後で言っておこう。
「もちろん、ボクもいいんだよね?」
「あら、貴方もここで食べるの?」
「ダメかい?」
「いえ、もちろんいいわよ。 ふふっ」
「ありがと。 ふふっ」
さっきまで険悪だった雰囲気から一転、両者して笑い合う。
いいのかな……?絶対良くないだろうけどいいことにしておこう。
ハクってたしかまだ付き合ってる件知らないんだよね?怜衣さんから言ったともハク本人から確認もされてないし。
「泉……さん……!」
「溜奈さん?」
2人から発せられる謎の威圧感に震えていると、ふと背中に隠れていた溜奈さんが話しかけてくる。
あぁ……やっぱりこういうときは溜奈さんが一番癒やされる。無害な人がいてくれて助かった。怜衣さんもハクも悪いってわけじゃないんだけど2人揃うと、ね。
「起きてたことは驚きましたけど……今日は何か予定ありました……か?」
「ううん、特には。 昼か夕方まで寝ようと思ってたくらいだし」
「じゃ……じゃあ! 何処か遊びに行きません!?」
どこか……ねぇ。
もう完全に目が覚めたしそれもいいかも。ならどこに行くか、ハクも行くだろうし4人で行けそうなところ……
「じゃあ……どこかのモールでも行く?」
「いいんですか!?」
もちろん。
ハクと2人だけなら適当にカラオケやボウリングでもなんら問題ないんだけど、彼女らは何ができて何ができないのかがわからない。
そんなときはモールでショッピングだ。買い物がキライな女の子なんていない!……らしい。ハクが言ってた。
「わぁ……!楽しみですね!!」
ちょっとした買い物のはずなのに、そんなに喜んでくれると俺も嬉しくなる。
これからノンビリ準備してゆっくりと歩いてけば開店時間になる頃だろう。
それじゃあ早速片付けをして出かける準備を――――
「ど…………どういうことだい!?」
「!?」
ゆっくりと準備に取り掛かろうとしたその時、突然上がったハクの叫びに動きが止まってしまう。
何事かと目を動かせば彼女は怜衣さんに何か抗議しているようだ。
「あら、聞こえなかった?」
「聞こえない……というより信じられない、が正しいね。 セン、本当なのかい?」
「な、何のこと?」
思わず振り向かれたその視線に、少し戸惑ってしまう。
彼女の目の内には動揺、怒り、疑惑。そんな感情が込められていた。
「…………」
「ハク?」
「……あっ、あぁ。ちょっと本当に驚いてね」
自ら聞いたにも関わらず言葉を紡げなかったのは動揺からだろうか。
彼女は一つ咳き込みをしてしっかりと俺と視線を通わせる。
「セン……キミはこの星野姉妹の2人と付き合ってる――――そう聞いたんだけど本当なのかい?」
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