第8話





暫く涼やかな風と日の明かりを浴びながら

スノーを抱えて歩みを進めていた

だが途中でもういいと言われ解放するしかなかった



先程の蜘蛛の大群がこたえたのか茂みには近づかなかった

チラッと窺うと虫除けの魔術を重ねがけしていた

どちらかと言うと魔物寄りなのであまり効果はない気がするでも言わない方がいいのはわかる


「ヴァルツやっぱりおかしいと思わないか?」


「何か気になったことでもあったか?」


「魔物除けの呪いの効果はちゃんと効いているはずなんだ」


「たしかに見ていたが発動させた術は完璧だったと思う。なら別の要因があると考えるべきだな」


「本来現れた魔物がおかしい気がするんだ。あの蜘蛛は図鑑で以前見たが暗い洞窟を好むらしいし、道中の魔物も多くて違和感を感じたよ」


それはつまり生息地を離れ少ない場所に魔物が集まっている

もしくは集められたのか

そういうとスノーは思案顔だった


「まだ情報が少ないからはっきりとは言えないけど逃げてきたのかもしれない」


「逃げてきた、か。なぜそう思うんだ?魔物の増加も周期ごとに確認されたこともあるしそんなに珍しい魔物でもないと思うんだけど」


最初に現れた小型の狼と虫の魔物は村に珍しくない。と言うか多い

蜘蛛型は確かに洞窟などの暗所に好んで生息している

谷の側面に洞穴がありそこを巣にしているのかもしれない

俺はそう説明した


「そうだね。もっともな意見だしその可能性が十分高いよね。でも気になることがあってさ」


「それは?」


「最初魔物が出た時はこうゆうこともあるかと思ってたんだ。魔物も狩場を変えたり魔の大波の時期ならそこらじゅうに現れるしね。でもおかしいんだ。魔王が復活したとも噂は聞かないし、山小屋に着く前に寄った街で情報を集めたけど、そんな話はなかった」


「それはタイミングが悪かったかのか。ちょうどその最中に俺たちは遭遇してしまったのか、だな」


「他にもあるよ。テリトリーだ。狼型も芋虫型も蜘蛛型、そしてそのあとも大型の魔猪がいた。ここら一帯は一角兎とスライム、植物系の食肉樹がいる。今日会ったのは本来この先にある村を少し行った所の魔物の森をテリトラーにしているんだ。危ないから傭兵などを雇った者や冒険者しか普段は入らないと聞いたんだよ」



魔物の森は見習い騎士の時、修練として士官学校の課題で班編成をして挑んだ

その時は三日間森の中で過ごした

一番の問題が変なキノコをロイが食べて腹を痛めたことなのが恥ずかしかった


スノーは話しながら道に落ちていた小石を軽く蹴って道の外に飛ばした

俺は歩きながら目でそれを追いかけつつ話す


「ということは魔物の森からこっちまで移動してきたことがわかるってことか。そこで何か異変でもあったんだな。騎士団ではそんな話は聞かなかったな」


俺の国からは魔物の森はそこまで遠くない馬で二日くらいでたどりつける

近くの町に国の派遣されている役人がいるが

日々近隣の調査をしているはずだ

何か異常があったのか?

竜の騒ぎの件で怪我をして離れてから時間が経っている

国はちゃんと平和であって欲しいどうなっているか気になる

目の前にスノーが近づいていた


「な、なに?」


「いやぁ、突然顰めっ面だからなんかあったのなぁーて思ってね。大丈夫かい?」


「すまない心配させて。国からも魔物の森はそんなに遠くないから少し心配だったんだ」


「そりゃ自国を心配するのは普通じゃない?それに騎士なんだから特にね。今は焦らず国に戻れることを考えようよ」


「そうだね。仲間たちもいるしそこまで不安がる必要もないのはわかってるんだ。職業病みたいなものさ」


「なら俺は金勘定を常に考えないとな。ヴァルツのお礼の換算を考えないとねー」


揶揄う様子で微笑んでいる

気を遣ってくれているんだな

俺が励まされてどうするんだ


「ああ期待しててくれスノー!」


「そこはあまり期待しすぎないでって言う所じゃない?面白いなーヴァルツは」


そこからしばらくは魔物が現れなくて

真っ直ぐに穏やかな旅路を進んでいった






安穏としていたが先の方で騒ぎ声が聞こえた


俺は周囲を警戒し目に魔力を集中する

視力を上げて見ると道の先に荷物を抱えた馬車があり

その周囲を男たちが取り囲んでいた

盗賊か!

思わず鞘を掴んでいた手を強める


「何か見えた?馬車しか俺は見えないよ」


スノーを不安がらせないように声音を優しくして

状況を説明した


「行商人らしき人たちを盗賊が囲んでいるみたいだな。俺が助けに行くからスノーはそこで隠れてて欲しい」


「俺も行くよ。支援ぐらいはして見るさ。旅の仲間に一人だけ危険な目にはさせられない」


「それは嬉しいけど、なら離れて支援してくれると助かる。君を絶対守るけど無理はしないでくれな」


「もちろんさ。荒事は苦手なんだ。騎士様に頑張ってもらうからね。君も強いのはわかったけど怪我をしない様に頼むよ」


スノーはいつも揶揄うように話すがこちらを気遣い負担を減らそうとしてくれていた

道中任せると言ったが常に俺だけに押し付けず一緒に戦ってくれた

スノーの人の良さがずっと感じられていた



遭遇する前に装備に魔力を込めて準備をする

スノーも鞄から何やら取り出し準備を進めていた

そうして急いで先に進んだ



近づいて見るとやはり荷台には箱が並び装飾品や絨毯、束ねられた紙が見えた

男たちと馬車に乗っていた商人、そしてその従者がいる


「なんだお前らわざわざ首突っ込みにきやがって!身ぐるみ剥がされてぇみたいだな」

馬主の前を塞いでた大柄の髭面の男が愉快そうに言った

その声に周りの男たちがニヤついて笑っている



「貴様ら今すぐ彼らを解放し投降せよ!私はゼンクォルツ国太陽の獅子騎士団所属の騎士!抵抗しないなら身の安全を約束しよう」


スノーを背に隠し前に立って告げる

これで素直に聞くならいいが…

国境近くなら小物だと諦めてくれる

今は兵団でもないし名前も明かせない

負けることはないが慢心で屈するなどよくある話だ

気を抜けない

さらに今はスノーがいるんだ

俺の言葉に一瞬奴らは動揺したが

先程の大柄の男がまたニヤリと笑った


「はっ!お前一人で何ができやがる!はぐれ騎士かお前。嘘でも本当でもさっさと殺して片付ければいいだけだ。後ろのお前、綺麗な顔してんなぁ珍しい見た目だし俺たちが可愛がってから売ってやるぞ!」


下卑た笑い声をあげ周囲の奴らも同調する様に笑う

奴らはスノーを見てさらにニヤついた

騎士として告げたのは早まったか!?

殺す気でくるだろう

だがスノーに汚らしい目と言葉で侮辱した罪

許せるはずがない


「させるわけがないだろう愚か者たちめ!近づけもさせないからな。後悔しながら倒れてろ」


自分の中に沸いた怒りが体に力をみなぎらせる

だが飲み込まれないように鎮め鋭く敵を睨む

俺は今スノーの騎士としている

誓った相手を守るため剣を握る

すでに全身の装備に魔力が込められ

循環している

スノーが施してくれたおかげか馴染みが良く体の調子がいい

いくらでも戦えそうだ


「チッ!クソ生意気なガキが!お前らこいつを殺せ!後ろのは殺すなよ!」

その声を合図に奴らが襲いかかってきた



前方から二人襲ってきた

細身の男が剣で突き刺しもう一人が斧で斬りつけてくる

剣で細身の男の剣を弾き蹴り飛ばし斧を避け腹を斬りつけた

俺の魔法剣は鞘のままだ

切れ味が良すぎて致命傷になる

ムカつく奴らだが捕まえて公正な裁きの方が良いだろう

あと八人

「お前ら数を生かせ!囲んでやっちまえ」

大柄の男が指示を出す

そして四人が俺を前後に囲んだ

同時に攻撃される

一人をかわして隣の男をそのまま斬りつける

後方から二本の剣が振り下ろされたが

同時に防ぎ力押しで突き飛ばした

だが前方にいた細身の男が復活し剣を突き刺してくる

「ヴァルツ!」

スノーの声が届いた

一瞬視界に入ったスノーはこちらに片手を向けていた

「氷よ彼奴を阻め」

冷たい風が走った

俺を過ぎ去り細身の男の体が一瞬で凍りつく

「クソッ!なんだこれ!」

俺はすかさず剣で殴り昏倒させた

「ありがとうスノー!助かった」

「うん!警戒してくれ」

スノーとは息がぴったり合う

連れ添ったように互いの呼吸がわかる

自分の内心に少しテンションが上がった


「あいつ魔術師か。お前らあれを使え」

男たちがそれぞれものを取り出した

あれは…魔道具か

刻印入りで魔術が使えないものでも念じるだけで使える道具だな

グレードによって効果も回数も威力も違うがどうだろうか

盗賊なら大丈夫な気はするが盗品の場合もあるから油断はできない


「くらえ!」

二人が小さな短剣から炎を出し俺に放った

俺は臆せず前進した

「そんなに死にてぇのか!」

男たちは驚いた様子だ

だが俺は炎に包まれたが突っ切って二人を斬り倒した

「なんできいてねぇんだ!!」


「俺の鎧は低位魔術を無効化する。もともと加護持ちできかないけどな」

上位魔術や強い呪詛はきくものもある

万能ではないが大抵のことは安心だ

しかも今回はスノーの祝福の加護もある

上位だって弾き返せそうだ


残りを俺は走って倒す

敵は反応できないのか素直に倒された


あと一人大柄の男だ


「チッ!忌々しい奴らだ!だが俺を今までのようにやれると思うなよ!」


男は背中に背負っていた大剣を振り落とす

「グッ!」

重い一撃だった

「おらどうした!防いでばっかりじゃ倒せねぇぞ」

男はおおきく振りかぶって攻める

防いでたヴァルツが地面に足が埋まる

このままでは埒があかないとバックステップで距離を取る

「ビビっちまったかガキ!黙って斬られろよ」


「デカイだけで大したことないな!」

あの剣、魔法剣だな

ランクは低いが地味に厄介だ

「その剣は重さが重くなる魔法剣か…どこかで盗んだものだな」

魔法剣はとても高価だ

ランクによるが低ランクでも市民には手が届きにくい


「よくわかったな!どっかの貴族様を襲った時の騎士が持ってやがったんだ。殺して奪ってやったがながはは!」

愉快そうに笑う


騎士の誇りである剣を奪い殺すだと

恥知らずが!

俺が知らぬ騎士の不名誉を濯ごう


「重さが三十倍にまでなってるぞ次の一撃で潰してころしてやるぞ!俺には重さが変わらないから平気だからな安心して死ね」


頭上高く剣を振り上げた男

これで終わりにする気だ


俺は剣を低くし両手で持ち構える

対極の構えだ


……


「おらぁ!!」

「フッ!」


お互いの一撃が交差する




「うぐぁああ!!」

奴の大剣が空を舞い地面に刺さった

俺の一撃が勝り男の剣を吹き飛ばした

奴は手首が折れたようだ


「クソクソクソ!!なにしやがる!」

男は喧しく騒ぎ立てている

俺は振り返りスノーを見る

スノーは警戒していた表情をしていたが俺と目があうと

優しく微笑んでくれた

ゆっくりと近づいてくる


「舐めやがってガキが!!!」

男は立ち上がり懐から赤い短刀を出した

「スノー近づいてはダメだ」

男を睨みつけながら言う

短剣が赤く発光し魔力がこもっていくのがわかる

あれぐらいなら俺には効かない

俺は水平に剣を構える


その時男はニヤついた

何故だ?


うわっ!?


後ろから焦った声がした

!?

「スノー!」

構えたまま振り返る

先ほど倒れてた一人が起き上がってスノーを斬りつけようとしていた


させない!!

俺はすぐ動き剣を倒れていた男を斬り伏せようとした

だが大柄の男が俺ごとスノーに向けて爆炎を放った

くッ!?


このままでは後方の男を倒しても後ろからの炎が俺ごとスノーに当たる

俺は平気でもスノーがあぶない

前方を攻めてもこの距離ならスノーが襲われる


どうすれば!?


仲間がいたならやりようがあった

だが俺一人では守り尽くせないのか



その時空を切る音がした


「ぐぁっ!?」


すごい速さの矢が後方の男の肩に突き刺さって吹き飛ばした


そしていつのまにか前の男の短剣に矢が刺さって砕けていた

矢が光っていたので魔法が込められていたはずだ


何者だ

俺はいっそう警戒を強める

助けられたようだが、こちらの味方かまではわからない

次は俺たちかもしれないからだ



「スノー無事か?」

そばに寄って無事を確かめる

「うん。ごめんヴァルツ油断した」


「スノーは悪くない俺が甘く見ていたんだ」

こんな思いをさせてしまった自分が許せない

何が騎士だ



そのとき茂みが動いた

俺は反射的にそちらに剣を構える

「何者だ!」



ごそごそと揺れていた草の中から人が現れた


「待って切らないでくれな。ただの親切なお兄さんだから安心してくれ」


どこか軽薄そうな男が現れた

背に弓を背負っている

こいつがさっきのやつか?

まだ伏兵がいるかもしれない

警戒して隙は見せない


「おー怖い。変なことしたら一瞬で斬られそうだ」


「……さっきのは貴殿が?」


「そんな畏まった風に呼ばなくていいさ」

男は二ヘラと笑って手を上げていた手をぷらぷらと揺らす


「ナイスタイミングだったろ?感謝されてもいいと思うんだけどさ」


「………純粋に手助けしてくれたなら感謝する。助かった」


「あの、助かりました。ありがとうございます」

警戒を隠さない俺と違ってスノーは頭を下げていった


「おーそっちの美人さんはいいね。助け甲斐あったなあはは」


こいつ……スノーを助けてくれたのは感謝するが

なんか、なんか気に食わない



「クソ!いてぇ…ぐぅう…なんで俺様が」

そういえばこいつはなかなかひどい傷だ

大柄の盗賊の頭だった男は地面に伏せ手首は曲がり

ひどい火傷を負っていた

発動中に短剣が破壊され魔力制御ができなくなり

暴発したみたいだ


「おーまだ生きてるんだなこいつ。やっぱ一撃でやっとくべきだったか」

口笛を吹きながら頭の後ろに手を置いて言う

たしかにあの弓の腕前はすごい

ほぼ同時に倒れていた男と盗賊の頭を射抜いていた

団でも弓の名手であるロイより上手か

しかも魔術の反応も最初は分からなかった

こいつは強者だ

危険だ


いつでも斬り伏せれるよう剣に力を込める

相手もこちらを見ているが読めない顔をしている

だがあえてそれが達人の気配をより強く感じさせた


スタタッ


「スノー!」

俺の前をスノーが走りすぎて行った

軽薄な男も一瞬驚いた顔をした


「腕の骨折は固定すればいいな。火傷は…これはひどい。確か薬は調合してあったはず」

ゴソゴソと鞄から三つの瓶を取り出し

キュポンの音を立て開封し中の液体を男にかけた

そうすると男の呻き声が和らいだ

その後他の便より同じようにかけた


「何をしているんだスノー。そんなやつを手当てしても」

肩を掴んで声をかけたが止まらなかった

ペースト状の緑の軟膏を布に貼付しそれを貼って包帯を巻いた


「ここで放置したら痛みと感染症で死ぬ。ヴァルツは殺さず捕まえようとしていたろ?なら俺もそうする。君には迷惑をかけてすまないけど、させてほしい」


情けない俺のことを思ってやってくれたのか

思わずジーンと胸に沁みて涙が出そうになった


「あぁ、そうだなスノー。君には救われてばかりだ。何か手伝えることはあるかな?」


「それはこっちのセリフだよヴァルツ。君はかっこよく守ってくれた。勝手に動いた俺がいけない。じゃそこの矢が刺さった男の矢を抜いてこの布を当てて包帯を巻いてくれ」


「ああ!なんでも任せてくれ!」

俺はスノーの手を握り見つめる

それにスノーも僅かに頬を染め見つめてくれる



「あのさー、いちゃついてるとこほんと申し訳ないんすけど俺放置はひどくないですかねぇ?これでも命の恩人じゃん俺?」

いつのまにかスノーの白馬の隣にいて歌の立髪を指でくるくると撫でていた

白馬は男の足を踏んだ

「いってぇ!痛いっすよ何するんですか!」

馬に涙目で文句を言ってる

変な男だ


「あー、悪かった。私はヴァルツといいます。こちらはスノー。私の代わりにスノーを助けていただき感謝します」

深く一礼して言った

この男がいなければたしかに危険だった

魔法剣を解放してればどちらも無力化できたが

スノーの目の前で辺りに鮮血を撒き散らしただろう

必要なら人命を奪うことに躊躇いはない

だけどそれは背負う覚悟があるからだ

優しいスノーにわざわざ見せつけることではないな


「あ、あの俺もあなたに助けてもらってとても感謝してます。すごい弓の腕ですね」


「あー、感謝の言葉はもういいよ硬っ苦しいし外にまで面倒なことは勘弁。すごいっしょ俺」


弓の弦を指で弾いて笑いながら言う


「魔法矢でしたね二本とも。あの速度で魔術込みで放てるなんてそうそういない。何者ですかあなたは?」

すぐ剣を抜けるよう構える


「そう警戒なさんな。これでも傭兵なんだよ俺。仕事できたんだが通りがけたらこの騒ぎだし面倒ごとは嫌だから隠れていたけどさ。あんた強いしそっちの美人さんも腕に覚えがあるみてぇだから潜んでたんだよ。そのお陰で助けられたから許してくれよ」


あと敬語いらねぇから、めんどーだから気にすんな

そう言ってまた白馬を撫でている

白馬は黙っているがじっと彼の足を見ている

狙っているな










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