第9話
「へぇーそうなんだ。じゃベッソ村とか行ったかな?あそこは人も物も盛んだから結構珍しーのあるんだよね」
「ベッソ村寄りましたよいいですよね。果実酒が人気で作り方を教わりました。織物も独特でいくつか買い取りました」
「へーじゃ今度ご馳走してくんない?あれなかなか市場にないから手に入らないしまた飲みたいぜ。俺も市場でタペストリー買って部屋に飾ってるよ」
非常に
非常に不満だ
俺は後ろで並んでぺちゃくちゃと話している彼らの前を歩いている
意気投合したスノーと奴は旅の話に花を咲かせている
「へぇー、ブルの実って食べれんだな。酸っぱくて苦手なんだよな俺。てかスノーちゃんタメ口でいいって堅苦しいの苦手俺」
「砂糖とレモンで煮れば長持ちして美味しいです。お、美味しいよ。年上相手にタメ口慣れなくてごめんね。スイウンさん。あとちゃん付けはちょっと……」
「さんもいらねぇよ別に。スイでもスイくんでもいいぜ!今度市場で見つけたらいっぱい買うからさ作ってよお願い!」
「別にいいけど。じゃあスイさんで」
ぬぁ、なぁ、馴れ馴れしいぞ!!!
ちゃん付けなんかしやがって!
俺だってスノーを呼ぶ時三回に一回は声が震えるのに!
羨ましい
でも呼び捨ての方が親密度は高いのか?
でもロイ曰く愛称呼びは仲の良さとも言ってきた気がする
ヴァルツちゃん呼びされた時は思わずロイの乗っていた馬の尻を軽く蹴ってしまった
あの時吹っ飛ばされたロイは面白かったな
軽い現実逃避である
「じゃあこの先のウル村まで行くんだ。やっぱ一緒だったな。あそこはエールが美味しいって聞くし楽しみだ。スノーちゃんは飲めるほう?飲めんなら酒場行こうよ。やなら宿で買ったやつ飲み比べしてみよーぜ」
「そうですね一度村で買い出しして一泊する予定だよ。あまり普段は飲めないけど少しなら…」
やめろスノーが困っているだろ!
俺は両手に麻袋と旅の荷物を抱えながら内心思う
あの時助けた行商人から果物や物品をもらった
俺は断ったがしつこくスノーの分だと思い受け取って預かった
倒した盗賊は気絶してる奴らを縛り上げ道の端に置いてきた
先に出立した行商人が村で通報してくれる約束だ
そしてこの男
瑞雲(スイウン)と名乗った男が同行することになった
たしかに腕は立つし助けてもらったが
この男、危険だと本能が告げている
なぜ俺だけが疎外にされ荷物持ちをし
この軽薄男とスノーが仲良くなっているのを
側にいることしかできないんだ
不服である
これでも王子なんだぞ!
人生で初めて身分を盾にした瞬間だった
内心でだけど
「……ヴァルツ、やっぱり重くないかい?全部は持てないけどその小さめの袋なら持てるから渡してよ」
うぅ天使
「大丈夫!これぐらいへっちゃらさ!気を遣ってありがとうスノー」
「だってさー、力持ちはすごいねー」
お前は持てよ
スノーにいちいち誘いを持ちかけながら
白馬を撫でている
白馬は無関心だ
頼むキャロの実箱で買うからもう一度スイウンを踏んでやってくれ
「おっ、見えたじゃんあれが村だな。風呂入りてー」
一緒に入る?などとほざく
断じてならん
はじめてのこの魔法剣の錆にしてくれる
ダメに決まってるだろ!と言った瞬間白馬に踏まれてた
スノーもお断りしますと小さな声で言ってた
「い、いったぁ!痛いっすよ冗談じゃないすか!ユーモアっすよユーモア!あー足の神経が死ぬ踏まないで」
なぜか白馬に踏まれて喜んでいる気がする
気持ち悪いな
気持ち悪いな
大事なことなので二度言った
村に着いた
たしかに山村だったが豊かそうで久々と賑わいを感じる
いつのまにかスノーの瞳の色と髪の色が変化していた
髪は金髪になり目は青かった
お揃いで嬉しくなる
魔法で一時的に変化したらしい
なぜだと理由を聞いたが
「最初の頃言ったでしょ?大抵の人は俺を嫌がるんだ。揉め事はごめんだから変装しとくんだよ」
内心不満だったが境遇のせいもある
軽々しく言えないと思ったので黙っていた
スイウンは一言も発しなかった
「じゃあまず宿を取ろうか。荷物もおろしたいしね」
スノーについてゆきこの村の唯一のそこそこ大きい
宿に向かった
「なぜついてくる」
「なぜって俺だって宿をとるさ」
なぜそんな当たり前なことを聞くんだ?と言う顔をしている
二歳年上だが殴りたい
一見細身に見えるが熟練した動きだった
深い緑の髪は一見黒く見えるが照らされている部分は緑だった
少し垂れ目で明るい茶色の瞳は人ウケがいいだろう
そしてこの態度
正直言って苦手なタイプだ
ロイに似ているがどこか読めない分不気味だ
やはり俺がしっかりして警戒しなければ
スノーを危険から守るのは俺だ
俺は再確認をした
「「…………」」
なぜこんなことになっている
なぜなんだろうか
何か悪いことしたが?
怪我の功名?でスノーと出会ってから至福の時間だったがなぜこんなことに
「そんなに睨まないでくれますー?俺だってデカ筋肉ボーイより美人と風呂に入りたかったわまじ」
「俺だって不審者とは嫌だがな。だけどスノーに近づくなら俺が見張る必要がある」
スイウンは大浴場の風呂縁に両手をかけ足を組んでいる
無駄に偉そうだな
俺は湯船の中で胡座をかいて腕を組んでいる
なぜこんなことになったのか
スノーが宿につき宿の主人と話をした
部屋は一人部屋と二人部屋
そして家族用の大部屋があった
このスイウンがスノーと一緒がいいと宣い
俺が断固拒否しなら二人部屋と一人部屋でといったが
スノーとスイウンが二人部屋だとまた騒ぎ
なら俺がスノーと一緒だと告げたずるいと文句を言った
そしたらスノーが溜息を吐いてじゃ俺が一人部屋で君らが二人部屋ねと死刑宣告のようなことを言われ
二人して懇願してやめてもらい代替案で大部屋になった
二人の子供連れのようで恥ずかしいと言われたがこの際
背に腹はかえられない
男でも恥を忍んで耐えねばならぬ時もあるんだ
そしてさっさと部屋に荷物を置いた
部屋は大きく寝室にはシングルベッドが三つあった
スノーがそのまま商人ギルドに向かうと言うのでついていくと言ったが断られた
ならどうしようかと思ったがそれならここには大浴場があるから入れと言われた
なら帰ってから一緒にと言ってから自分の発言に首を絞められたがスイウンが俺も一緒にはいると言ったので強制的に連行した
そして今である
脱衣所に入り脱いだ
スイウンが逃げ出したので拘束して脱がした
獣だと騒がれたけど久しぶりに本気で罪人以外を
拘束したいと思った
入れ違いでここの宿泊者だろうか
三人組が出て行った
浴槽は広かった
騎士宿舎での浴室はでかかったがいつも屈強な男ばかりなので広さよりむさ苦しさが堪え難かった
観念したのかスイウンは大人しく体を洗い口笛を吹いて入浴した
俺も同じように体を洗い離れた位置に入浴した
………
そして場面は戻る
スイウンはやはり細身だったが均整のとれたしなやかな体つきだった
筋肉だけではなく柔軟さを兼ね備えた遊撃向けの体づくりをしているみたいだ
やはり只者ではないな
ただ前線で戦うだけではなく中距離で応戦したり撹乱したりすることに長けていそうだ
そんなことを考えていると目があった
「…………ずっと視姦しないでくれます?」
「だぁれがするか!!」
遺憾の意であるぞ
「あっそーですかぁ」
こいつムカつくな!
やっぱりスノーに近づけてはダメだ
俺が守らなければ!
「お前さぁ思考ダダ漏れだし。一番やばいのお前みたいな奴だかんなほんと」
「意味がわからないな。お前のほうが十分やばいやつだ」
「やばくねぇから!ど健全なお兄さんだから俺」
「馬に興奮してる奴がヤバくないわけないだろ」
「してねぇし!!」
「じゃあれはなんだよ踏まれて喜んでたろ」
「喜んでねぇつってんだろ!あの馬はちょっと訳ありなだけだ珍しいだろ知性のある馬は」
「確かに言葉がわかるみたいだな。スノーもよく話しかけているし仲がいいだけだと思っていたが普通の馬と違ったんだな」
はじめて起きてあった時無感情の目で見つめられた時は寒気がした
「ヴァルツだっけお前?」
「……そうだけど」
「スノーちゃんとどこまでやった?」
ぶふぁっ!?
なんだと
「ふ、ふっふしだらな!!俺は騎士だぞ清廉なスノーにそそそんなこと」
「あーもういいわお前の反応でわかったし」
つまんなさそうにスイウンは湯船の中で足をばたつかせた
お湯がかかってきでムカついたので足を掴んで沈めた
「プハッ!この金色ゴリラ!」
「そのゴリラっていうのは知らないけど馬鹿にされているのはわかった表へ出ろ」
互いに湯船から立ち上がって構える
肉弾戦だって俺は得意だ
相手も腰を低くし両手の拳を構えた
見たことのない構えだ
やはり手練れだな無駄がない
緊迫した空気が流れる
先に動いた方が負ける
湯気が充満し肌を汗が流れ落ちる
互いに視線が交差し睨む
湯面に一雫
それが合図となった
!!
同時に動き互いの拳が交差した
「あー疲れた。結構大きいねお風呂。何やっているの?」
お互いの拳が衝突する前に闖入者が現れた
長めの髪を纏めて頭の上の方で結ったスノーであった
俺は一瞬で股間を隠し湯船に沈んだのであった
「いやーびっくりした。もう大丈夫?ヴァルツ」
「ぶくぶくっ……大丈夫ですはい」
俺は湯船に顔を沈め返事をした
恥ずかしすぎる
白熱したせいで長湯になりスノーが戻ってきてしまった
二人きりなら堪らないがいらないオマケがいる
「なぁーなんでタオル巻いてるんだ?せっかく別嬪さんなのに勿体なくね」
「えっ?えぇと、爺さんと一度風呂に入りに行ったらお前は人前ではタオル巻いとけって言われて。じゃないとハゲるぞって」
爺さんナイスだそれのおかげで俺は一命を取り留めた
危険な野獣がいるのに一人にはさせられない
「ハゲるかってそんな、はは。大丈夫だよ男同士裸の付き合いってやつ?」
「裸の付き合いならヴァルツとしたでしょう?」
「キモいこと言うなよスノーちゃん!こんな筋肉ゴリラと白花のような君じゃあ天地の差だ」
やれやれと大袈裟な動作をする
誰が筋肉ゴリラだ
別にそれほどゴツくない
必要な筋肉を携えているだけだ
「あんな可憐な花に喩えられたのははじめてだよお世辞でもどうも。好きな花だから嬉しいこんな見た目だから気味が悪いと言われるのにさ」
「そんな」
「そんなことはない!!」
俺が訂正しようとしたが言葉が重ねられた
「白く輝く髪は雪原のような美しさでたまに青く輝く様は星屑のようだ。瞳だって朝日のように輝かしくてとても美しい。だからそんな言葉に染まってはダメだ」
今までの様相とは違って真っ直ぐにスノーを見つめ手を握って告げたスイウン
まだあって短いがこんな姿はきっと本来の姿なんだろう
だからこそ俺も止めれず言葉が発せなかった
それほど真剣で心が詰まっていたから
「………ありがとうスイウン。人生で二度目だ。幸福すぎて溶けてしまいそうだよ。君らは本当に恥ずかしいことを真っ直ぐな熱量で伝えてくれるから恥ずかしいのかなかわせないよ」
お湯のせいか恥ずかしさのせいかタオルからまたでた体は艶めいて白い陶器のような肌が赤く熱っていた
悔しい
男として一人を想う者として
心の想いでは負けないと自負しているが
やはり言葉のセンスで大きく負けた気がしてへこむ
「朝日と言われたり雪原と言われたり、月と言われたり忙しいな。でも心から嬉しく想う。俺だって別にこんな風に生まれてきて後悔はしていない。楽だったかなと思ったことはあるけど、これも含めて俺なんだとわかってるからそんなに心配しないでくれスイウン。そしてヴァルツ」
「わかってくれたならいい。驚かせて悪いな」
スノーの髪が一房垂れていて湯面に揺蕩っている
それを掬うように触れ大事そうに指の腹で撫で慈愛の瞳で髪を見ている
白い髪がお湯で濡れさらに艶やかだ
「しかしスイウンは白いものが好きなんだな。俺の相棒のアレクに夢中だったし好んでいるんだな」
「えっ!?いや別に好きとじゃないからな馬相手に!あんな綺麗な馬は彼以外存在しないのは確かだけど馬フェチはとかないからな!」
「いいからいい加減その手を離せ馬鹿野郎!!」
俺はスノーの手を握りしめて赤くなって弁明するスイウンを蹴り飛ばした
油断しまくりでモロにくらい吹っ飛んで水飛沫をあげていた
ざまぁみろ!スノーの柔肌は高いんだからな!
「ヴァルツあぶないだろ!お風呂で騒いではダメって知らないのか?仲が良いのはいいが場所を考えなさい!」
「はい。ごめんなさい」
俺は叱られ湯船で正座した
スイウンは復活していて湯船を鼻歌を歌いながら泳いでいてスノーに怒られていた
騒がしい風呂場になっていて
宿の主人に後で怒られた
そんな俺たちを天窓から見ていた白い鳩が飛び去っていった
そのあと着替え髪を乾かしてちょうど腹が空いたので
宿の食堂で三人で食事をした
少しの間注文して席を立っていたスイウンが
しょんぼりして戻ってきていた
何があったんだ
「どうした?色目でも使って振られたのか」
よくロイもこんな風にしょげていた
だいたいこの手合いはそちら方面なのだ
スノーに軽蔑されてしまうがいいのだ
「違うわ!俺が色目使ったらどんなやつもイチコロだ!………いやそうでもないかはぁ」
さらにしょぼくれた
「どうしたんだいスイさん。本当に振られたの?」
「違うわ!スノーちゃんに言われるとマジっぽいからやめて!上司に報告したら怒られただけだよはぁつら。あんな怒んなくてもいいじゃねーかあのわからずや」
そういってからハッとし周囲をビクビクして警戒している
よっぽど怒らせたら怖い人物らしい
ぜひ叱られている場面を見てみたいものだなぁ
「ニヤつくな筋肉ゴリラ」
「うるさいチャラ男」
「チャラくねーし!」
ロイとよく行ってた酒場の給仕の子があの人チャラくてないわって言っていたのを思い出した
実戦で使うのははじめてだがまぁまぁの反応だなありがとうロイそして顔も覚えてないが給仕の子
俺はチャラくねーし一途だし尽くすタイプなんだからなどいつもこいつもチャラチャラ言いやがってちょっとしたリップサービスだろこんぐらいでもあの人に幻滅されたら死ねる
と一人で騒いでたのでスノーと乾杯して
食事が揃ったところで復活した
チッ
三人でいただきますと言って食事を始めた
久しぶりにスノー手作り以外の食事だ
「スノーちゃんこれ美味いから飲んでみなよ。レモンやオレンジの表皮と実を酒につけたリキュールを紅茶で割ったやつだ。飲みやすくて美味いよ好きでしょお茶?」
「…ほんとに美味しい!お茶で酒を割るなんてあるんだなぁ。てかお茶好きだって言いましたっけ?」
「飲みっぷりいいねー!道中教えてくれたじゃん?各地のお茶飲み比べして自分でブレンドしたりするって。なら好きってことだろ?」
スノーはこくこくと喉を鳴らし飲む
「そうだよ。これなら自分でも作れそう。あっ、この鳥を煮たの美味しい!こっちのトマトのチーズオーブン焼きもとろとろで美味しいベーコンの角切りが入ってるんだな玉ねぎと炒めてある」
解説しながらパクついていて可愛らしい
お酒もすすむようだ
俺つられ同じものを食べてみる
たしかに風味が良くて美味しい
旅の醍醐味だな料理は
でもやっぱりスノーの手料理が一番食べたい
「さぁスノーちゃんこれも美味いよ!これは白身魚を塩とハーブとオイルでつけて酒で蒸したやつだ。香りが良くて身が柔らかいから美味いよ、あ店員さん酒おかわりくださーい二人分」
俺たちは料理を楽しみながら酒を飲み交わしていた
まさかこれが悪夢の始まりだとは
俺たちは思いもしなかった
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