第7話





「おおおオウジ!?オウジってナンですか?」


驚きすぎて声が裏返る

また知り合いに見られたら二度見され唖然とするだろう

まさか、バレてしまったのか?

そんな話はしていないと思うが

流石に一般の騎士の装備ではなかったが聖剣はなかったし

上級騎士か筆頭騎士ならまだわかるが、なぜ王子だと……


これでは俺が騙していたみたいじゃないか!

いやちゃんと後で仲が深まったら正式に謝罪と

誠意を見せるつもりの算段だったけども


これでは心理的距離が離れ俺の恋路が遠のいてしまう

それは困る!

迅速に冷静に行動にせねば俺!


その間もスノーはじっとこちらを見つめていた

やはり暗闇の中炎に照らされた君も幻想的で美しい

…じゃなかったいや違うこともないけども



「なーてな。王子様が大怪我して川流れなんて大恥だよね。身なり良いし素養も高そうだからもしかしてって。住んでいた家の本の御伽噺にそんなのあったなーと思い出してね」


あはは、と笑いながらお茶をさまそうとふうふうとしている


俺は肝が冷え冷や汗を結構かいてしまった


「俺なんて王子様なわけないじゃないかあははは!褒めてくれるのは嬉しいけど大したことないさ。御伽噺にそんなのがあるんだな知らなかったよ」


「そう?俺はヴァルツが王子様って言っても信じるけど」


「え!?な、なんでだよ」


「うーん、二度も言うの嫌だから省くけどね。君結構王子様っていっても違和感ないし騎士なのに君、大分魔術が手慣れているね。構築が丁寧だし装備品に結構質の良い魔道具があったからさ。竜退治ならあれぐらいしとかないと不安が残るからそれなら精鋭騎士ぐらいでしょ?対応できそうなの」


うぅ……ほぼほぼあってる観察眼も大したものだなスノー

危なかった

額の汗を拭い一息つく


「たしかに上級騎士だよ俺。激戦になるのは予想できたから準備は万端にしたけど流石に厳しかったな。魔術は構築がしっかりしていないと威力や効果がはっきりしない上、魔力も余分に消費するから純粋な魔術師のようには出来ないからせめて完璧を目指して勉強したんだ」


「努力家だなぁほんと。俺は魔術師の育ての親が置いていた本があったから読み漁ってて、仕事を覗いてたら暇なら教えてやるって教わったんだ。運良く生活に支えるくらいは適性があったから活用しているよ」


「でも魔術寄りだけどあれは神聖、精霊魔術に近いものを感じたけどそれも?」


スノーは飲もうとしたお茶を寸前で止まった

何かいけないことを言っただろうか


「感覚もいいんだね君は。感知魔法も使わないでわかるなんてさ。ちゃんと調べたわけじゃないけど親和性がいいらしくて、たまに調子がいいとお告げが聞こえたり精霊が手助けしてもらえるんだ。あ、これ内緒ね二人の」


スノーは何か面白いのか軽やかに笑っている

二人の内緒……なんて淫靡なゴホンゴホンッ




「誰にも言わないとも!!二人の秘密だ!」


突然の立ち上がっての大声に驚かせてしまった

ごめんなさい


「う、うん。面倒ごとは避けたいからね。神殿にこいだとか精霊学の解明だとかしつこいんだあいつら」


「そんな大事なことを教えてくれたんだ。死んでも話さないよ!」


そうしてくれると助かる

スノーはそう言って食事を片付けた




早めに休もうとスノーが言ったので俺が夜の見張りを

志願したが

魔除けは張ったしそれを乗り越えた時点で気づくから大丈夫と言って布を渡してくれた

山小屋とは違って今日は添い寝ができない

残念だ…

だがスノーはわざわざ隣に腰掛け自分を布を被せて

寝るようだ

こうゆうのも悪くないむしろ良い


「ではおやすみなさいヴァルツ」


「おやすみスノー」


スノーはすぐ目を閉じて呼吸が落ち着いた

寝つきがいいのか

寝顔を見つめながら思う

今夜はまだ眠れそうにない

初恋の君をまだ見ていたいなんてくさい事を思うなんて自分でも思わなかった

つい人差し指に引っ掛けるようにスノーの垂れた髪を耳にかけてあげ

頬を撫でてしまった

自分でもこの行為が大胆な行為であったが

不思議と心は落ち着いていて、静かな心の暖かさが

胸に灯っていた



スノーの後ろから白馬が無心で見つめてくるので

つい逸らして寝たふりをしているうちにほんとに寝てしまった情けない俺であった







目が覚めると日差しが眩しかった

スノーは既に起きていて白馬をブラシで撫でていた

白馬はスノーの頬に口先を当て人間なら頬にキスをするような仕草をしたそれをスノーはくすぐったいと笑っている

あいつ!!横目で俺を見ていたぞあれは牽制だな絶対!

羨ましい!!


俺はすかさず飛び起きスノーに寄る

「おはようスノー」

「おっ、おはようヴァルツ。疲れは大丈夫かい?」


「全然平気さ!スノーがそばにいるからな」

そう言ってしたことはないが自分なりの笑顔を決める

さぁどうだ

そうしながら手ぬぐいで頬、汚れてたよって言いながら拭った

白馬が尻尾を粗く振っている

ふん!馬には負けないからな!




「さぁそろそろ行こうか。この先の谷の橋を今日は向かいたい」


「わかった。護衛は任せてくれ!」


「大丈夫だよこの辺普通の獣も魔獣もほとんど出ないし出番はないかもね。もしもの場合はよろしくー」


「任せてくれ!」



そうこの時点にフラグは立っていたのだ

途中まで晴れ晴れとして何事もなかったが

少し深い森の中を歩くと出るわ出るわ

モンスターが多く出現した



「な、なんでこんなにわいてくるんだ?この辺は魔素の影響は少ないし危険な生き物は少ないって聞いたのに」


「スノーは下がっててくれ!」

俺はスノーを背に守る体制で戦う

敵は五体の狼に似た魔物と芋虫型の魔物だ

よく現れる魔物だがこの辺で数が少なく珍しいらしい

こちらを睨み牽制していたが取り囲むように狼の魔物が襲いかかってきた

俺はスノーから預かった魔法剣に少なめに魔力を込めたて

横に払う

それで正面の三体は倒した

すごい切れ味だ

左右からも襲ってきたが右側のを突き刺しすぐに

左側を下から斬りあげる

これで狼型は倒した


「すごいなヴァルツ……。残りも気をつけてくれ」


「ああ俺は大丈夫だ!周りを警戒していてくれ」

これならいいところ見せられたんじゃないか?

俺の部下が戦闘中にこんな事を考えてたら反省文と拳骨をお見舞いしていた

男は魅せるときに見せなければならないのだ

残りの虫を二体同時に斬る

後方にいた二体が口から粘液を出してきた

俺は後方に下がりすぐ距離を詰め倒そうと考えたが

後ろからスノーが

「そのまま前へ!風の精霊よ彼を守ってくれ」

そうすると俺の前に迫ってきた触れると痛みと痺れる液が

風により吹き飛ばされた

そのまま俺は二体を斬り伏せた



「スノー助かったよ。精霊には詠唱もいらないなんてすごい才能だ」


「精霊は気分屋だからね時と場合によるよ。ヴァルツもすごかったよ本当に。騎士って感じだった」


「なんだそれはははっ!信憑性が高まったなら良かったよ。騎士ヴァルツが命をかけてスノー君を必ず守るよ」


「ふふ、じゃあバンバン頑張ってもらうよ。しかし変だなこんなに危険なはずじゃ、何かあったのか」


「この辺は初めてきたけど、なにか発生する要因と凶暴化の原因があるのかもしれない。慎重に進もう」


お互いに話し合って今後の方針を決め直した

とりあえず魔物や野獣が出ないこの先の橋をこえた

平地まで進む予定だ


その後もやはり魔獣が多く感知した敵をヴァルツが率先して倒し

後方からスノーが魔法で支援しながら進んでいった


スノーから水色の小瓶を渡された

魔力を加減しながら流し込むと圧縮された水が

出てくるらしい

初めて見てすごいと褒めたが

一般人には加減が難しく

圧縮するのも魔力で加減しなければならず

あまり売るつもりはないらしい


「だいぶ疲れるねこれ。ヴァルツも大変だよね」


「俺は全然平気さ。スノーも魔力を消費しただろうから無理しないで休んで欲しいよ」


「うん。結構進めたからこの先は橋があるよ。そこを過ぎれば少しは落ち着けるはず」


少し休んでまた先を進む

たしかにヴァルツがいるおかげで何事もなく早く進めている


その後も小物が現れたが二人には恙無く対処していった

守りを抜け谷にかかった橋まで来れた


「ここまでなんとか来れたね」


「そうだな。特に大物もいないし数だけに注意すれば問題はなかった。うちの団に勧誘したいよ」


「それは無理。剣なんてちゃんと扱えないしおかたい国勤めなんて息苦しいよ俺」


「そうだなスノーは自由が似合っている。だけど残念だな」



戦場より気ままに旅をしている方がとても似合っていて

その隣にいれたらなんて思ってしまった










「この橋か。結構長いんだな」


「そうだね。よく人が通るから他にも深いけど丈夫に出来ているようだね。怖くないかい?」


「怖くなんかない!スノーこそ怖かったら抱っこして走ってあげるぜ」

むしろ役得ではとつい欲が出てしまった


「それは勘弁して。さっさと行こうか」


ヴァルツが先行して進む

確かに木材でできているがつくりは丈夫なようだ


「見晴らしがいいな」


「見てないで進んでくれよ」


「ごめんごめん」


いつかこうやって旅行なんてできたら楽しいだろうな

今ももちろん楽しいがやはりそこは、ねぇ?

関係が深まって相思相愛になったら

大きくて綺麗な別荘を買ってそこで海の夕日を見ながら

スノーを抱きしめて見つめ合いながらなんてえへへ


「変な顔してないで進んでよ!」



ごめんなさい!って叫んで急いで橋の先へ向かう

先について振り向く

「急いで落ちたりしないでくれよ!」


するか!っと鋭い声が返ってきた


だがスノーはそこから動かなかった

どうしたんだ?


おい大丈夫か

そう声を出そうとしたがその前に

スノーの声によりとめられた


「ヴァルツ気をつけて!囲まれてる!」

すぐに警戒体制をとる

油断していたつもりはなかったがなぜだ!

周囲の気配を探るがわからない


「橋の裏側とそっちの壁の側面にいる!蜘蛛だ!」


その声とともにいつも間にか這い寄ってきたモンスターの蜘蛛がたくさんいた


クソッ!


「氷魔法第三節貫く氷牙!」

簡略式魔術を発動する

あらかじめ陣を刻んだ刻印のある武具を装備して魔力と発動するための短い発動式を起動させた

空中で氷が生まれかたまり、五つの氷の槍がスノーに近寄った雲を突き刺す

「スノー今だ!走ってこっちにきてくれ!」

すぐに反応してスノーは白馬を叩き先行して走らせた

そのあとをスノーが走ってくる

その背後を多くの蜘蛛が近づいてきた

橋が大きく揺れうまく進めないみたいだ

ここでさっきの魔術を使ったらスノーに当たってしまうかもしれない

俺は鎧のいくつか刻印のある支援魔術で肉体を強化して走る

橋を先ほど通ったみちを逆戻りする

スノーは驚いたがそのまま走って向かってくる

邪魔な蜘蛛たちを一閃する

「スノー!」

「ヴァルツ!」

俺はスノーの手を掴み抱き寄せる

胸に着地したスノーを抱き抱え、そのまま橋をまた進み

端まで駆ける

もうすぐというところで体が重力によって落ちる感覚がした

後方で蜘蛛が橋の綱を切ったらしい

このままでは二人とも落ちる!

俺は強化された体でスノーを投げようとした

だがスノーは俺の首に腕を回しくっついてきた

ひぇ


「風の精霊よ!汝らの清き風で我らを救いたまえ」

そう詠唱すると今まで見られたスノーの精霊魔術とは違った濃度の魔力で二人の体が風に包まれ

上に飛ばされた

うおっ!

勢いがすごく着地は危ないと思い庇うように背を向けたが

地面に近づくとゆっくりと降ろされた


「ふぅ、助かったよスノー。君は本当にすごいな」


「………」


「スノー?大丈夫かスノー?もしや怪我でもしたのか?!」

俺は焦りを感じスノーを見るが

スノーは俺の首に手をまきつけたまま

小刻みに震えている


もしや…


「もしかして、怖かった?」


「………怖いに決まってるじゃないか」



「でもさっきは平然としていたじゃないか?」


「それは、…意識しないように下は見なかったしそれまでは大丈夫だったんだよ!あんな蜘蛛さえ出なきゃね!」

頬が赤くなってい叫ぶ

よっぽど恥ずかしいらしい

抱きつかれて赤面されると俺もドキドキしてしまう

これは慰めて好感度アップというやつか?


「スノーの咄嗟の魔術で助かったんだすごかったよ怖かったよな、もう大丈夫だからな」


「ああ、ヴァルツ戻って助けに来てくれて、その嬉しかったありがとう。でも危ないんだから無理しないでよね」


「何があっても守るって言ったろ?俺は嘘だけはつかないんだ」



「投げようとしたくせに」


「あの時はあれが最善だと思ったんだよ」


「俺だけ助かっても後味悪いよ」



「二人とも助かったじゃないか」


「結果論だね」


「いい結果ならよかったじゃないか、てかいやとか全然そんなのじゃないんだけどそんなにくっつかれるとさ色々あって落ち着かないんだけど」

自制ができるうちに離れてくれ

狼になって嫌われたくない


……



「んん?なんて言ったの?」



「だから!腰が抜けたって言ったの!」



………仕方ないので俺がしばらくの間

お姫様抱っこをして歩いた

なぜこの抱き方なんだと文句をつけられたが

この機会を逃す俺ではない

我が友人たちも俺の勇姿に褒め称えてくれるだろう

役得なので堂々と運んだ


後ろで白馬に頭の髪の毛を少しむしられたが

少しぐらいならゆるそう

だがそれ以上は剣を抜くぞ





恥ずかしさに黙ってしまったスノーを抱え

鼻歌まじりに闊歩した俺であった









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る