第7話 金閣寺:三島由紀夫

三島由紀夫の最高傑作にして、日本文学最高傑作ともいわれがちな大名作。


あらすじ

起:吃音のある主人公は、そのコンプレックスから内向的で、陰鬱人生を送る。そんな彼は、僧侶の息子で、幼少期から金閣の美しさについて聞かされていた。自らの境遇もあり、金閣に対する妄想は過剰に膨らんでいく。

承:ある日、父と共に、本物の金閣を見に行ったが、主人公の妄想に現実が勝てるはずもなく、彼は落胆する。しかし、金閣が彼の心から消えることはなく、彼の人生の節目節目に現れては、消え、彼を翻弄し続ける。

転:親しくしていた数少ない友人の死。尊敬していた僧侶の不貞、、、そんなことを経験するうちに、「負」のエネルギーは主人公のキャパを超え、やがて、ある理念が彼の脳裏をよぎる。

結:省略


面白ポイント①:「これは小説ではない。詩だ」

→(文章が分かりにくいことで有名な?)小林秀雄は、三島由紀夫との対談で、そういいました。これは、酷評しているわけではありません。寧ろ、彼はこの作品を絶賛しています。ただ小林秀雄の分類によると、抒情詩となる、という感想を伝えているだけです。

→興味深いのはこの後で、小林秀雄は、対比として、ある大作家の作品を引き合いにだします。ドストエフスキーの「罪と罰」です。彼は、この作品の主人公をこう呼びます。「君(三島由紀夫)のラスコーリニコフ(罪と罰の主人公)」

→罪と罰は、頭のいい若者が高利貸しの老婆を殺し、自首するまでの物語です。

→金閣寺は、コンプレックスだらけの若者が国宝を放火するまでの物語、、、私は小林秀雄の言葉をこう解釈します。「金閣寺は、罪を犯すまでの若者の内的な葛藤。罪と罰は、罪を犯した若者が外的な要因によって引き起こされる葛藤を描いている」。金閣寺は、一人の青年の心の話で、実は、何らの”イベント”も発生していない。罪と罰は、その逆で”イベント”が発生してからの話なのです。ミステリー小説のテンプレは、後者ですよね?殺人が発生して、物語は始まる、、、そういうことを言っているのではないかなと思います。


面白ポイント②:ドストエフスキーvs三島由紀夫

→「主人公をなぜ殺さなかった?」

→小林秀雄は、三島由紀夫にそう問いました。これに対する三島由紀夫の答えは、私としては、要領を得ないもので、なんだかスッキリしませんでした。

→「なぜ殺さなかった」というと問いに対して、私はこう妄想します。

→「殺せなかった」のではないか。

→根拠も証拠も何もない、ただの妄想ですが、私はそう思います。本当は、殺すべきだったのに殺せなかった。上記の対談での回答も相まって、私は此処に三島由紀夫の精神的な弱さを見ます。それが、いい事か悪い事か、作品の出来不出来に関連することか、、、といわれるとそんなに大したことじゃないです。殺しても殺さなくてもこの作品は名作です。

→しかし、私の独断と偏見で判断するに、ドストエフスキーと三島由紀夫を天下一舞踏会で対戦させたなら、ドストエフスキーの勝利です。ドストエフスキーは、躊躇なく殺します。それも、斧で残酷に、、、。


結び:三島由紀夫はなぜ自害したのか?

→私は、ふとそう考えてしまうことがあります。何冊かこのテーマについて、書かれた本を読んではみましたが、納得のいくものはありませんでした。

→あるものは、「芸術家として、、、美を追求して、、、」といった<文学的過ぎる>結論で、あるものは「日本の将来を憂いて」といった<思想的(現実的?)過ぎる>結論で、極端すぎるものばかりです。

→そこじゃないんじゃない?その中間位なんじゃない?とか、思うのですが、私自身も満足のいく結論は出ていません。

→しかし、なんだか上記の小林秀雄との対談で見せた三島由紀夫の<弱さ>みたいなものが、回りまわって関連しているような気がしてなりません。が、本当に分かりません。思考がすぐにストップしてしまいます。

→分かりませんが、私は、この答えがすごく重要な予感がしてなりません。良かったら、皆さんも、皆さんなりの妄想でもって<答え>を模索していただけないでしょうか?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る