第2話 ショッピングモール
二時間後、二人はショッピングモールの屋上のイートインスペースで、練乳のたっぷりかかった苺のかき氷を食べていた。
そこに来るまでに、このショッピングモールのファッションフロアを二人でさんざん歩き回った。
マリーゴールドと名乗る老婦人のセンスは、店員をはるかに超えていた。
「これなんかいいんじゃない?」と富美加にすすめる商品はどれも鏡の前で当ててみると、富美加の新たな部分を引き出してくれるものばかり。亡くなった祖母とはたまに一緒に出かける事はあっても、生鮮食料品や日用品を買いに行く近所のスーパーまでだった。このマリーゴールドさんとずっといたら、さぞかし富美加のセンスは洗練されるだろうと思えた。
また、イベントフロアで行われていた夏祭りフェアにも二人は寄った。金魚すくいや射的をする子ども達にマリーゴールドさんが「がんばって」と声援を送る姿は、とても祖母と同年代には見えず、ちょっと子供じみている。いつもの富美加なら、ちょっと恥ずかしいとさえ感じられていたかもしれない。でも今日は何だか生き生きしている老婦人が
屋上のイートインスペースのテラス席の向こうには、あの樫の木の丘がある。ファミレスでお気に入りの景色の丘が別なアングルから見えているのだ。
マリーゴールドさんは「懐かしい。まだあの木はあったのね」と
「そう言えばさっきのレストランでお友達に誘われてたけど、良かったの?」
「いいんですよ。実を言うと、あの子の誘いはあまり気が乗らなかったんです」
「ひょっとして仲良しじゃないの?」
富美加は首を振った。「絵里とは、中学時代は仲良しだったんです。でも絵里が大学生になってこの町を出ていってから、たまに帰って来ているとついイライラしてしまうんです。私も大学に行きたかったから、やっかんでいるんだと思います。だめですね」
富美加は正直に話した。老婦人は優しく微笑んで言った。
「正直なのね。そんな事もあるわよ。でもね、リンドウちゃんも大学に行ける方法を考えてみればいいのよ。奨学金とかね」
また、こうも言った。「そのお友達が本当に貴女の思うように幸せかどうかは分からないのよ」と。
夕方に近付いてきて、風が少しだけ涼しく感じられてきた頃、老婦人は言った。「私、実は今日、志乃ちゃんに預けていた物を返してもらいに来たの。私のお母様から譲られたサファイアのブレスレットよ」
その言葉に富美加は一瞬にして凍りついた。
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