第3話『Scramble』

「…………ふわぁ。」


 目を覚ます。半地下のアパートの一室とはいえ、やっぱり小さな窓から射し込んでくる朝日は眩しい。


 隣を見れば、ベットからは織田は消えていた。



「ん?」



 ベッド近くのテーブルにはメモが置いてある。

『学校に行ってきます。』


 ……ああ、あいつ俺と同じくらいの歳だもんな。当然か。



「……顔洗って、ご飯食べるか。」



 ……俺も学校行くべきなんだろう。

 でも、ここが現実とも限らない。

 何か幻覚を見せられている可能性もある。用心はした方がいいだろう。


 そうして洗顔やご飯(織田が用意してくれてた)を済ませ、何が起きているか確認する為にもテレビをつけようとした時だ。



「――――!?

 こいつぁ……!」


 レネゲイドの気配だ。


 昨日は感じなかった物。それが今日になってかすかに感じる。


 ……とにかく放置する訳には行かない。



「ちっ、行くぞ柊真。」

「分かってる。言われなくとも!」



 俺は家を飛び出した。

 レネゲイドがどこにあるか分からなくても、体が勝手に教えてくれる。


 気配を追って駆けつけてみれば、そこは昨日訪れたスーパーだった。

 建物の周りにはザワザワと、人だかりができている。

 見れば、報道のカメラも見える。


 野次馬の言葉に耳を傾けてみれば、

 スーパーで暴れた何かが、隣の解体中の建物に逃げ込んで暴れているらしい。


 …………十中八九、ジャームだろう。


 さすがの騒ぎに警察や消防が駆けつけようとしているみたいだが、歯がたつかどうかは怪しい。



「ったく……俺がやるしかない、か。」



 人混みをかき分け、建物の中に入る。

 この人混みだ、そこまで不審には思われないだろう。


 中に入れば、歪な影がいた。

 こちらを見つけるや否や、飛びかかってくる。


 昨日は一切感じなかった気配。

 それなのに、どうして?



「……考えてる暇は無さそうだな。ワーディング張ってさっさとすませるか。」



 とにかく、今は目の前の敵を倒すべきだ。

 放置していれば、UGNのないこの世界で被害が広がるのは火を見るより明らかだ。




 先に動いたのは相手の方だ。


 二体とも、爪を振りかざして襲いかかってくる。

 ほぼタイムラグなしに爪が繰り出される。



「ぐっ……!」



 普通の人間なら死ぬような攻撃だが、オーヴァードならどうってことは無い。

 それでも同時に喰らえば結構痛い。


 受けた傷はたちまちのうちに塞がっていく。

 ……全く、嫌な体質になってしまったものだ。



「ちっ、イッテェな……!」



 リヒトが毒づく。


 まあ、慣れ(てしまった)とは言え、痛覚は人と変わりない。

 でも。



「……所詮はただのジャームって所か。へっ、なら遠慮はしなくていいな。」


「ああ、行こうリヒト。」


 ジャーム達は一撃加えた後、飛び去る。様子を伺ってるらしい。

 それだけの知能はあるようだ。



「様子見か……だったら遠慮なく仕返しさせてもらうぜ!」



 そう言っていつもの、自分ではない姿を思い浮かべる。




 光がやんだ時、そこにあったのは、ガンダムバルバトスルプスレクス姿の柊真がいた。


 キュマイラとは……いや、突っ込むのも野暮だろう。

 彼が思い描くのがその姿だから仕方ない。




「ったく、逃げるなよ?」



 拳に炎を纏わせ、ジャームめがけて撃つ。



「てえいっ!」



 炎は鳥の形となり、突き進む。

 ジャームは驚いたように避けた。



「そこだっ!

 ……でやああああああっ!」



 そのまま怯んだすきに、ジャームの一体をめがけてもう一方の火を纏った爪を振り抜く。

 そのままジャームが引き裂かれる。

 その勢いのまま、もう片方にもストレートを食らわせる。

 反応出来なかったんだろう、哀れジャームは壁に叩きつけられた。



「イヤッホウ!正義執行!ってやつだ!」


「……そう思うんだったら勝手に出てくるな。リヒト。」


「…………ちっ。」



 ドガアッ!



 吹っ飛ばした衝撃が強すぎたせいか壁が崩れる。

 暗かった室内に光が差し込む。



「……やりすぎたか?」


「まあ、壊す予定なんだし、いいんじゃねぇの?」


「いやそういう問題じゃ…………ん?」



 そこまで話して、ふと俺は陽光が差し込む方を見た。


 そこには、とんでもない光景があった。



 ―――――たくさんの野次馬と、駆けつけた警察と、俺に向けられる多数の報道カメラ。



「……なっ!?」


「ちっ……どうなってやがる!?」



 たしかにワーディングは展開した。

 でも野次馬達は誰一人倒れてないし、カメラはレクス姿の俺を捉えている。


 傍から見れば、ロボアニメに出てくる何かが化け物をぶちのめしたとしか映らないだろう。



 ……つまり、これらから導き出される答えはただ一つ。




 ――――ワーディングが、機能していない。



 そう気づいた俺が呆然としている間に、ざわめきは近くなる。



「君がやったのかい?」


「嘘、一撃で倒しちゃった……!」


「なにかの撮影……じゃないよね?」


「っていうか何この動物……?本物?」



 野次馬達は状況をイマイチ理解出来てないらしい。

 だが、事情を話したところで納得するかどうかは分からないし、そもそも解放してもらえるかどうかすらわからない。



「逃げるぞ!柊真!」


「分かってる!!

 ……くそっ、どうなってる!?」


 俺は野次馬達とは反対方向の壁をぶち破る。


 いきなり何かが飛びててきたのに驚く人の声が聞こえて来た気がしたが、どうでもよかった。


 ……とにかく俺は、この場から逃げることしか頭になかった。


 人目のない場所で変身を解き、俺は逃げるようにその場を後にした。




 …………一体何が起きてるんだ、この世界で。




 〜続く〜

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