第2話『Lonely』

  俺は織田に案内されて、彼の住まいに辿り着いた。

 都市の少し外れにある、小さなアパートの半地下の一室。

 …………俺の、『直感』が言っている。

 試しに『熱』を見てみても、他の住人はいない。

 完全に彼一人しか住んで居ないようだ。



(これがホントの『一人暮らし』ってやつか。)


(リヒト?)


(…………ちっ。)



 部屋はマイルドに言うなら生活感のある、ダイレクトに言えば少し散らかった部屋だ。

 まあ、俺の部屋もこんなもんだし、男子高校生らしい部屋って所だろう。



「ふう〜、着いた〜。

 適当なとこ座ってて、コートはこれにかけてね。」



 手渡して来たハンガーに俺はコートをかけた。



「で、さっきもチラッと言ったけど……僕、実家を出て一人暮らししてるんだ。

 半地下だから家賃安いんだよねえ〜。日当たり最悪なんだけどさ。」


「そうか……あ、後改めて自己紹介いいか?俺は上城 柊真。

 で、こっちが……」

「オレがリヒトだ!よろしくな!」


「僕は織田 正義。改めて、よろしく。柊真君、リヒト君。」


「あ、お茶入れてくるね。ゆっくりくつろいでて!」



 そう言って織田が奥のキッチンに行く前に、俺はふと気になって尋ねていた。



「……なぁ、正義。『勇気』って書いて『ブレイブ』って読む弟とかいたりするか?」


「えっ?僕は一人っ子だけど……」


「いや、俺が読んだ漫画にそういう奴がいてだな……」


「へー、そうなんだ〜。じゃあお茶入れてくるね!」



 織田はキッチンへと消えていった。



(さて……どんな物が置いてあるんだろうな。)



 俺は辺りを見渡してみた。


 よく見れば、テレビのそばにはDVDが積み上がっており、

 机の脇には、たくさんのノートが平積みされている。



(……随分と多いな。)



 DVDはてっきりエッチなもの…………かと思いきや、映画らしかった。

 見てみれば、どれも名作と言われてるようなものや、壮大なSF物が多い。

 どういう訳だが20年ほど前の作品ばかりだ。



 当のノートは、そのうちの一冊が机の上に開かれたままになって置かれていた。


 失礼だとは思いつつも、中身を見てみる。



 …………どうやら書き途中だったらしい。

 中には、織田のものだろう字でシナリオプロットや稚拙なイラストが描かれている。


「最強のヒーロー!」や、「誰にも負けない正義の味方!」

 といったテンション高めな言葉が踊っていた。



(…………随分とヒーローものが好きなんだな。

 まるでお前みたいじゃないか?)


 
(……俺はここまで酷くないよ。)


「あ"……ッッ!?そ、それは……!!」



 ノートを読んでいると、織田の声がした。

 お茶を載せたお盆を持って、顔を真っ赤にしている。



「〜〜っ、昨日描いたまま寝落ちたのをすっかり忘れてた……っ

 うぅ……まだまだ荒削りで人に見せられたもんじゃないけど……自分で空想をふくらませるのも楽しくて……

 やっぱ、正義のヒーローって誰しも憧れるじゃない!!!」


「お前もヒーロー、好きなのか?」


「うん!だってカッコイイじゃん!

 すっごい必殺技で敵を倒したり!決め台詞でババーンと登場したり!」


 お茶を飲みながら織田は答えた。

 その目はキラキラと輝いている。……これは本気で好きな顔だ。



「奇遇だな。俺もヒーロー物、好きなんだ。」


 俺もお茶を飲みつつ答える。


「そうなの!?僕と同じだね!」


「……あのさ。これ、もっと見ていいか?」


「え"っ……ううー……ん」



 一瞬動揺したように織田は黙り込む。



「いや、見せたくないなら無理にとは言わないぞ。

 …………柊真、そう言って本当は見たい癖に〜?

 …………リヒト!」


「あはは……いや、作品は人に見られてこそだよね……いいよ!」



 俺はノートをめくる。


 どのページも荒削りとはいえ、織田の熱い思いが伝わってくる素晴らしい物だった。



「このアイデア、いいんじゃねぇの?オレは好きだぜ。

 俺もいいと思う。リヒトもいいって言ってるし。」


「……!!ほ、ほんと!?ほんとに!?」



 俺とリヒトの答えに、織田はいっそう目をキラキラさせた。



「ああ。オレもカッケーって思うぜ!柊真も、オレもな!」


「今描いてるそれね、自信作なんだよ!」



 相変わらず目がキラキラしている。眩しいくらいだ。



「実は、将来はそのノートを元に、僕が作った映画を実家で放映してもらいたいなとか…………考えてたり。

 あっ、実家は映画館の劇場を運営してるんだ。

 小さいところだからなかなかお客さんも入らなくて。

 家に迷惑をかけるのもアレだし、早めに自立しなきゃってバイトしてるんだよね。

 僕には君みたいな力はないけど、代わりにこうして、創作にぶつけてるわけ!

 ……僕の手で人に勇気を与える作品を作れたらいいなって。

 君のその力が『武器』って言うなら、僕はこの『右手』が武器って感じかな。

 …………な〜んてね。」



 少し困った笑顔で織田は言った。



「それが一人暮らしの理由なのか。ふふっ、きっといい作品が作れるさ。

 あー、……そういや、お前、名前が『正義』だよな?」


「ありがとう!そう言ってもらえて嬉しいよ。

 …………そうだね。『正義』って名前は書くけど……名前負けも甚だしいよね。

 両親は僕を"正義を行う勇敢な人"って、意味でつけたみたいだけど……

 でも、僕は誰かに助けられてばっかりだし、

 護られてばっかりだし……現に君に助けられた訳だし。

 コレを名前負けと言わずしてさ……」



 と言って織田は苦笑してみせる。

 助けられることには慣れているらしい。



「……あっ、そうだ、そろそろご飯作らないと。

 待ってて、今用意するから!」


「……俺も作るの手伝うよ。」


「えっ、いいの!?」


「まあ、とりあえずお世話になる身だし……」


「……ありがとう!助かるよ。」


「リヒト、お前は勝手な事するなよ。料理に変な事されたら困るし。

 わーったよ。」



 そうして、十数分たって料理ができた。


 男子高校生二人(+一人)の料理は質素とはいえ、手はこんでいるとは言い難いが、それでも美味しい料理ができた。


 普通に鮭を焼いた物と、味噌汁。

 まあ、兄さん程ではないけど、美味しくできたかな。


 兄さんには『今日は友達の家に泊まります。』と連絡を入れ、ご飯を食べる。



(……はぁ。懐かしいな。)


 
(懐かしい?何がだ?)


 
(いや、俺が超人オーヴァードになる前の話。こうして、兄さんと過ごせてたから……)


 
(あー、そうかよ……本当だったら、これが1番なのかもな。でも、おかしいよな?)


 
(そうだな。どうして、レネゲイドが……?)



『非日常』なんてどこにも無い。夕食を食べるという『日常』だ。

 俺がオーヴァードに覚醒する前の、穏やかな時間。



 …………でも、これは俺の知る『日常』じゃない。

 調べる必要はあるだろう。



 ご飯を食べ終わった後、俺はスマホで支部や仲間達を調べてみた。


 …………調べた所、支部があるはずの場所には別の建物が建っていたし、オーヴァードの仲間達も一般人として暮らしているようだった。


 UGN関連の連絡先も、抹消されていた。

 FHファルスハーツも最初からなかったみたいに存在していないようだった。



(…………支部もない。UGNも、FHも、みんなも一般人として登録されてる……

 …………俺は、この世界でただ一人の超人オーヴァードって事か…………)


(全く、変なもんだな、柊真?)


(俺だって聞きたいよ。兄さんと電話しても、レネゲイド関連の事は知らないみたいだった……)


(まあ、今日は休んだほうがいいんじゃねぇか?)


(……そうだな。)



「柊真君、そろそろもうこんな時間だし……寝よっか。」


「……ああ。分かった。って……俺、寝巻き無いんだけどどうすればいい?」


「あっ、それだったら貸してあげるよ!ちょうどサイズもおなじくらいだし。」



 織田から寝巻きをかしてもらう。

 布団は二人分あったようで、床に敷いて寝ることにした。



 …………何が起きてるんだ、この世界で。



 そう考えてる内に疲労感が勝ったらしい。

 今日は色々ありすぎた。

 いつの間にやら俺は寝ていた。



 〜続く〜

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